80 / 169
王総御前試合編
真理追求カード5
しおりを挟む――なんかエイトのやつハイロにデレデレしちゃって、気に入らない。
メンバーにハイロが必要だからああやってしてるのはわかるけど、呪いのカードのこともあるんだからキンチョーカンもってほしいよね、まったく。
ラトリーに会いにきたら、教室前の廊下に人だかりができていた。いつぞやの王総の孫がいてそのまわりに生徒がむらがっているらしい。
なんでこんなところに彼がいるんだろう。
「ラトリー、なにかあったワヌ?」
「あ、フォッシャちゃん! それがちょっとすごい人がきてて……」
それがあの孫ってことか。
「ルシャヴィンさん。学院に通われるんですか?」
と、王総の孫に向かって取り巻きらしき男の子がきくと、孫はえらそうな態度で、
「フン。下賎の者どもと学業などさいしょからそんなつもりはない。わしの目的はそう……このレクッド学院の宝部屋に眠るといわれる、秘密のカード!」
秘密のカード?
「そんなカードがあるんですか!?」と男の子がおどろく。
「はっ。しまった……。ええい、ひっこんでおれ!」
「いや、待てよ。これだけ人がいたほうが警護の者もやりにくいか……。よし、キョウミのあるやつはついてこい。わしが許可する」
「ルシャヴィンさん、秘密のカードのこと教えてくださいよ~」
そんなカードがあるとは知らなかった。そのためにこのルシャヴィンは来たのかな。
いくら王総の孫とはいえ、勝手にそんなの探しちゃっていいのかな。本当にあるのかどうかも知らないけど。
「まあ教えてやってもよいが……探すためには四六時中わしにひっついている警護のものをどうにかしなくてはならん」
ルシャヴィンの近くには日に焼けた恰幅のいい兵士が3人ほど護衛についている。
ルシャヴィンはこちらのほうをみて、なにかいいものを見つけたという風に目を輝かせた。
「おお。ちょうどよい。おい! 野生のタヌキが校内まぎれこんでいるぞ! 者どもであえ!」
タヌキ? いったいどこにそんなのが?
あたりをみまわしてもそれらしき生き物は見当たらない。
突然体が軽くなったと思ったら宙に浮き、ラトリーがやけに低いところに見える。
首を斜めうしろにまわすと、警護の兵士のひとりが私をもちあげているではないか。
っっって私かーーい!!!
さすがに野生動物あつかいされてつかまるわけにはいかない。兵士の腕をすりぬけて、あえて教室のなかへと逃げ込み、机の下を駆け回って兵士たちを翻弄する。
けっきょくその後も逃げまわりつづけ、しばらくしてからラトリーの関係者だという話が通じてことなきを得た。
しかしルシャヴィンの姿がなくなっており、あわてて兵士たちが探しにいく。
「ルシャヴィンさんはどこにいったんでしょうね? 秘密のカードがどうとかいっていましたが」
「なんだかイヤな予感がするワヌね……」
「わ、私先生呼んでくるね」
ラトリーの友達の女の子が、すたたと駆けていく。懸命な判断ワヌね。
「ラトリー、ついてくるワヌ」
私がそういうと、ラトリーは不思議そうな顔をする。
オドの感じでルシャヴィンの行ったところは追跡できる。危ないかもしれないから、すぐに引き止めないと。
気配をたどり、関係者以外立ち入り禁止のエリアに着く。ボロい部屋の一角に目では見えない扉があり、隙間をカードで縫うと簡単にひらいた。
すでに秘密のカードがある部屋へのトラップは二つほど解かれているようで、次々と部屋がつながっていた。
やがてルシャヴィンたちと興味本位でついてきたのであろう数人の生徒の背中を見つける。聞こえてきた会話から察するに行き止まりだったらしく、道を変えるためこちらに引き返してくるようだった。
すぐに説得をこころみたけれど、ルシャヴィンは聞く耳をもってくれない。
「わしはじい様の力を借りたわけではない。自力で調べて宝部屋の存在にたどりついたのだ。誰もわしを止められんぞ」
「で、でも絶対まずいですよ……」
ラトリーの言葉もむなしく、
「じっとしてはおれんのじゃ」と悪びれもなく言い切るルシャヴィン。
「フォッシャちゃん、どうしよう……」
カードのことになるとまわりが見えなくなる人なのかなぁ。今はここにいないあの人もカード探しのためなら危険エリアもざくざく冒険しにいっちゃうし。まったく、カード好きってみんなこうワヌ?
なにかの音が鳴り響きはじめ、子供たちがおどろく。警報音だったようで、今まで通った扉が次々と閉められてしまい、戻れなくなってしまう。
「しまった……こんなトラップもあったのか」
ルシャヴィンが固く閉ざされた扉をたたくが、びくともしない。
こうなってしまってはもう四の五の言っていられない。子供たちには下がってもらって、【オドファイア】を使って扉を壊せないかためす。しかし、ほとんど傷すらついていない。
完全に閉じ込められてしまった。灯かりもなく、私とルシャヴィンの【フラッシュ】のカードがすこしばかり部屋を照らすばかりだ。
当然子供たちは心細くなって、みんな不安げな表情を浮かべ始める。
雰囲気が暗い。私が一番お姉さんなんだから、どうにかしないと。
そう思い、とりあえずラトリーの側に寄り添うと、やさしく頭を撫でてくれた。
っていかんいかん。私が撫でてあげないと。でもまあいいか。
「今日は授業参観にきてくれたのに、ごめんね」
ラトリーは優しい子なので、こんなときでも気をつかってくれる。
「いいってことワヌ。友達なんだから」
「お父さんとお母さん、カードの研究の仕事をしているんだけど、たまたま忙しくて今日は来れなかったみたいで。フォッシャちゃんたちがきてくれて嬉しかったよ」
「エイトには歴史の勉強させなきゃだめわぬね。カードのこと以外はなにも知らんワヌから」
くすくすと、ふたりで笑いあう。ラトリーはだいじょうぶそうだ。だけど他の子は……
どうしたらいいかな。でも、フォッシャにできることなんて……失敗してばかりの私がひとりでできることなんて。
いやいや弱気になっちゃだめだ。私がみんなを守るって、決めたんだから。なんとか喜ばせるだけでもいい。なにかないかな。
エイトだったらこういう時、きっと……
カードを手にとって、にやっと笑って。
『どんなカードにも意味がある……そう信じたいんだ』
――あっ! そっか!
「アド得ワヌ……!」
なにが最善なのか考えると良いってエイトは言ってったっけ。私にできることをやるんだ。
子供たちの怖さをまぎらわすため、テネレモを召喚する。
さいしょは「モンスター!?」と驚かれたが、
「だいじょうぶ! フォッシャの友達ワヌ! 怖くないワヌよ! ホラ!」と自らさわって仲良いところをみせ、子供たちの警戒心をとくとやがて打ち解けてくれた。
テネレモもそんなにイヤじゃなさそうだ。
さらに調子に乗って、テネレモのアドバンススキル【勇気の芽吹き<ドレインフラワー>】をつかい、なにもなかったはずの床にキレイな花々を咲かせる。
子供たちから歓声があがる。泣きべそをかいていた子も、驚いている。
「これがカードの魔法ワヌ! フォッシャはこう見えて冒険士ワヌよ~」
おお~と集まる羨望の眼差しがなんだか心地いい。
「ほう……お主、そこのしゃべるタヌキといい珍しい生き物をもっておるな。どこに忍ばせていたのじゃ?」
ルシャヴィンがラトリーにきく。
「え? い、いえ、その……」
「タヌキじゃなくてフォッシャワヌ。ラトリーはお医者さんを目指してるから、生き物に好かれるワヌ」
「どういう理屈じゃ。……そういえばタヌキ、冒険士だと? 王総邸で会ったような気がするのう。気のせいか? もしそうだったら無礼を詫びる。あまりカード以外は興味なくての」
いま思い出したんかい。まあ返事はしなくていいや、テネレモがルシャヴィンの注意を惹いてくれているうちに、あの閉まっている扉をなんとかしよう。
気づかれないよう静かに『ゲルト・フィッシュ』を召喚する。
扉を攻撃すると、簡単に壊れた。こちら側からではなく、向こう側からの衝撃で扉が崩れたらしい。
エイトとハイロ、ハイロの妹さんのミジルが、こちらを見つけて嬉しそうに顔を明るくする。
助けにきてくれたんだ。よかった。出られなかったらどうしようかちょっと不安だった。
実体化の力のことがあって、私はまわりに迷惑をかけないように、ひとりで旅をしてきた。
だけど今は頼れる仲間がいる。これもきっとオドの導きのおかげなのだろう。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
みそっかすちびっ子転生王女は死にたくない!
沢野 りお
ファンタジー
【書籍化します!】2022年12月下旬にレジーナブックス様から刊行されることになりました!
定番の転生しました、前世アラサー女子です。
前世の記憶が戻ったのは、7歳のとき。
・・・なんか、病的に痩せていて体力ナシでみすぼらしいんだけど・・・、え?王女なの?これで?
どうやら亡くなった母の身分が低かったため、血の繋がった家族からは存在を無視された、みそっかすの王女が私。
しかも、使用人から虐げられていじめられている?お世話も満足にされずに、衰弱死寸前?
ええーっ!
まだ7歳の体では自立するのも無理だし、ぐぬぬぬ。
しっかーし、奴隷の亜人と手を組んで、こんなクソ王宮や国なんか出て行ってやる!
家出ならぬ、王宮出を企てる間に、なにやら王位継承を巡ってキナ臭い感じが・・・。
えっ?私には関係ないんだから巻き込まないでよ!ちょっと、王族暗殺?継承争い勃発?亜人奴隷解放運動?
そんなの知らなーい!
みそっかすちびっ子転生王女の私が、城出・出国して、安全な地でチート能力を駆使して、ワハハハハな生活を手に入れる、そんな立身出世のお話でぇーす!
え?違う?
とりあえず、家族になった亜人たちと、あっちのトラブル、こっちの騒動に巻き込まれながら、旅をしていきます。
R15は保険です。
更新は不定期です。
「みそっかすちびっ子王女の転生冒険ものがたり」を改訂、再up。
2021/8/21 改めて投稿し直しました。
転生幼女はお願いしたい~100万年に1人と言われた力で自由気ままな異世界ライフ~
土偶の友
ファンタジー
サクヤは目が覚めると森の中にいた。
しかも隣にはもふもふで真っ白な小さい虎。
虎……? と思ってなでていると、懐かれて一緒に行動をすることに。
歩いていると、新しいもふもふのフェンリルが現れ、フェンリルも助けることになった。
それからは困っている人を助けたり、もふもふしたりのんびりと生きる。
9/28~10/6 までHOTランキング1位!
5/22に2巻が発売します!
それに伴い、24章まで取り下げになるので、よろしく願いします。
最弱の職業【弱体術師】となった俺は弱いと言う理由でクラスメイトに裏切られ大多数から笑われてしまったのでこの力を使いクラスメイトを見返します!
ルシェ(Twitter名はカイトGT)
ファンタジー
俺は高坂和希。
普通の高校生だ。
ある日ひょんなことから異世界に繋がるゲートが出来て俺はその中に巻き込まれてしまった。
そこで覚醒し得た職業がなんと【弱体術師】とかいう雑魚職だった。
それを見ていた当たり職業を引いた連中にボコボコにされた俺はダンジョンに置いていかれてしまう。
クラスメイト達も全員その当たり職業を引いた連中について行ってしまったので俺は1人で出口を探索するしかなくなった。
しかもその最中にゴブリンに襲われてしまい足を滑らせて地下の奥深くへと落ちてしまうのだった。
転生料理人の異世界探求記(旧 転生料理人の異世界グルメ旅)
しゃむしぇる
ファンタジー
こちらの作品はカクヨム様にて先行公開中です。外部URLを連携しておきましたので、気になる方はそちらから……。
職場の上司に毎日暴力を振るわれていた主人公が、ある日危険なパワハラでお失くなりに!?
そして気付いたら異世界に!?転生した主人公は異世界のまだ見ぬ食材を求め世界中を旅します。
異世界を巡りながらそのついでに世界の危機も救う。
そんなお話です。
普段の料理に使えるような小技やもっと美味しくなる方法等も紹介できたらなと思ってます。
この作品は「小説家になろう」様及び「カクヨム」様、「pixiv」様でも掲載しています。
ご感想はこちらでは受け付けません。他サイトにてお願いいたします。
無名の三流テイマーは王都のはずれでのんびり暮らす~でも、国家の要職に就く弟子たちがなぜか頼ってきます~
鈴木竜一
ファンタジー
※本作の書籍化が決定いたしました!
詳細は近況ボードに載せていきます!
「もうおまえたちに教えることは何もない――いや、マジで!」
特にこれといった功績を挙げず、ダラダラと冒険者生活を続けてきた無名冒険者兼テイマーのバーツ。今日も危険とは無縁の安全な採集クエストをこなして飯代を稼げたことを喜ぶ彼の前に、自分を「師匠」と呼ぶ若い女性・ノエリ―が現れる。弟子をとった記憶のないバーツだったが、十年ほど前に当時惚れていた女性にいいところを見せようと、彼女が運営する施設の子どもたちにテイマーとしての心得を説いたことを思い出す。ノエリ―はその時にいた子どものひとりだったのだ。彼女曰く、師匠であるバーツの教えを守って修行を続けた結果、あの時の弟子たちはみんな国にとって欠かせない重要な役職に就いて繁栄に貢献しているという。すべては師匠であるバーツのおかげだと信じるノエリ―は、彼に王都へと移り住んでもらい、その教えを広めてほしいとお願いに来たのだ。
しかし、自身をただのしがない無名の三流冒険者だと思っているバーツは、そんな指導力はないと語る――が、そう思っているのは本人のみで、実はバーツはテイマーとしてだけでなく、【育成者】としてもとんでもない資質を持っていた。
バーツはノエリ―に押し切られる形で王都へと出向くことになるのだが、そこで立派に成長した弟子たちと再会。さらに、かつてテイムしていたが、諸事情で契約を解除した魔獣たちも、いつかバーツに再会することを夢見て自主的に鍛錬を続けており、気がつけばSランクを越える神獣へと進化していて――
こうして、無名のテイマー・バーツは慕ってくれる可愛い弟子や懐いている神獣たちとともにさまざまな国家絡みのトラブルを解決していき、気づけば国家の重要ポストの候補にまで名を連ねるが、当人は「勘弁してくれ」と困惑気味。そんなバーツは今日も王都のはずれにある運河のほとりに建てられた小屋を拠点に畑をしたり釣りをしたり、今日ものんびり暮らしつつ、弟子たちからの依頼をこなすのだった。
異世界でゆるゆる生活を満喫す
葉月ゆな
ファンタジー
辺境伯家の三男坊。数か月前の高熱で前世は日本人だったこと、社会人でブラック企業に勤めていたことを思い出す。どうして亡くなったのかは記憶にない。ただもう前世のように働いて働いて夢も希望もなかった日々は送らない。
もふもふと魔法の世界で楽しく生きる、この生活を絶対死守するのだと誓っている。
家族に助けられ、面倒ごとは優秀な他人に任せる主人公。でも頼られるといやとはいえない。
ざまぁや成り上がりはなく、思いつくままに好きに行動する日常生活ゆるゆるファンタジーライフのご都合主義です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる