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王総御前試合編
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しおりを挟む街に出て、活気のある通りに出る。大道芸人が音楽やショーで人々を魅了していた。
動物と人を組み合わせたような外見をしている獣人族が王都には多い。ラジトバウムではあまり出会わなかった。以前にその存在についてはハイロから言われていたので、特に驚きはしなかった。しかしイヌやネコっぽい人ならまだしも、ワニだったり獰猛な動物に似た人にはさすがにまだ慣れない。
こじゃれたカフェに入った俺たちは、飲み物をのみながら今後のことを話し合う。
「事情をはなしたら、特別に貸してもらえないかな」
そうぼやくと、ローグにすかさず否定された。
「……あまり大ごとにはしないほうがいいような気がするわぁ。さすがに王総に知られてしまうのは……。もし大会で勝てなくても、賞品を手に入れた人との交渉しだいではなんとかできそうよね」
「ま、勝てばいいワヌ、勝てば!」
「フォッシャの言うとおり。なあハイロ?」
ハイロに話を振ったが、なにか考え事をしていたのかボーっとしていてすこし間があいた。
「……へ? あ、は、はい! もちろんです! 優勝……しましょう」
フォッシャは楽天的に考えてるだけだろうが、俺には勝算がある。ハイロ、ローグが味方にいればアマチュアレベルなら敵なしだろう。
「ま、余裕じゃないの? 俺たちには、元護衛部隊副隊長にして精霊杯の王者がついてるんだからな」
もちろんローグ・マールシュ様のことだ。
「私はでないわよ?」
「えっ!?」
「あのねぇ……私はあくまであなたたちが問題を起こさないか監視するためにいるの。カード探しは手伝うけれど、大会には参加しないわぁ。それにあなたたちのことも完全に信用しているわけでは……」
おいおい。そりゃないだろ。
「手伝うと一度いったからには、練習のサポートくらいはするけれど……他をあたることね」
あてがはずれたので、それしかないか。
「まいったな。御前試合っていうのは3人の団体戦なんだろ? ……じゃあハイロ。だれかメンバーに入ってくれそうなめぼしい人を、手分けして探そう」
「了解しました」
「強そうなやつを頼むぞ。あと信頼できそうなやつ」
「はい。あ、エイトさん……」
「なに?」
「その……できれば女の子はさそわ……」
「え? この大会って男とか女とか、なんか関係あるの?」
「……い、いえ。なんでもないです。そ、そう。男の子も女の子も、同じカードゲーマーだと言いたかったんです。……優勝しましょうね!」
「うん」
ハイロは「またあとで」と言って、豊かな胸のまえで小さく手を振り、人ごみに消えていった。
ローグがいないのは痛いが、ハイロも優秀なカードゲーマーだ。彼女がいればまだ充分勝機はある。
そしてなんでローグ、貴様はこっちに残っているんだ。
「おい。人数バランスおかしいだろ。お前はハイロを手伝ってくれよ」
「より危険なほうを監視するのはあたりまえでしょう?」
この警戒ようだよ。なんだかねえ。この旅ですこしは仲良くなれたのかなと思ってたけど、ぜんぜんそんなことなかったな。
まあフォッシャの持ってる問題が問題だから、しょうがないけどさ。
道の真ん中で話していると、妙に視線が集まっているのに気がついた。そんなに大きな声で話していたつもりはないのだが、視線をおってみると注目されているのはローグだった。
ゴスロリ衣装がめずらしいのかとも思ったが、そういうわけではないだろう。とするとこの美貌(びぼう)か?
「あれって……ローグさまじゃないか?」
若い男が声をあげた。続々と人が寄ってくる。
「ローグ様!? おかえりになられたんですね!?」
ファンらしき人々が叫び声と共に、老若男女問わず俺たちを囲んだ。踏み潰される恐れがあるので、フォッシャを拾って抱えてやる。
なんなんだ、この人気は。
「まずいわね……逃げましょう」
口元は微笑んでいるが、眉をさげてローグはすこし困っているのがわかった。俺はこくと頷き、フォッシャの力で『煙幕(えんまく)』のトリックカードを実体化させその隙にその場から退散した。
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