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王総御前試合編

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 精霊の古都ラジトバウムを出発する直前、町長さんから呼び止められた。
 何事かと思えば、ラトリーが留学するから道中護衛してほしいとのことだった。

「この娘(こ)、王都に留学させるつもりなんですがね。ローグさんたちに守ってもらえれば安心なんですが。わしらはあとから行きますので、どうか……」

 町長さんが頭を下げるのをみて、一度助けてもらった恩のある俺は断れない。気まずいのですすすとローグの影に隠れる。

「すみませんが、私たちの旅には危険が伴う可能性もあるので、子供は……」

「いいワヌよ。ラトリーは友達ワヌ!」

 ローグがせっかく丁重に断ろうとしたのに、フォッシャが明るく言い放った。

「おいおい……」

「エイトはふたりに恩があるワヌね?」

「……ええェ……」

 いやそれはそうかもしんないけど呪いのカードを探す旅に出るっていうのに子供がついてきちゃうのはおかしくね?

 ローグはやれやれと言った感じで、ラトリーの両肩に手を置いて、しゃがんで目線を合わせる。

「わかったわ……。あなたは私が必ず守る。だからあなたも、わたしからの言いつけをよく守ってね」
「はい。よろしくお願いします」

 ぺこ、と一礼して、ラトリーの髪が揺れる。

 それからカード『機械馬車』というのに乗り込んだ。馬の代わりに機械の馬が荷台を引っ張って進んでいく。

 車のカードはないのか……? 

 しかもお、遅い!? 普通に自転車を走らせるのと同じかちょっと遅いくらいか。
 でもたしかこの世界はオドが治安を管理してるんだよな。危険な事故とかが起きないように、あえて速度制限を厳しくしてるのかも。

~~~~

 夕方、いつも通りキャンプする前に安全確保のため周辺の哨戒(しょうかい)に出る。
 ハイロはラトリーローグと、俺はフォッシャとで二手に別れている。

「テネレモ」

 俺はカードから、苗のような奇妙な外見の小さなモンスターを召喚する。
 これがフォッシャの力だ。『古代の復元』とおなじ、カードを実体化させるスキルを持つ。強力だが危険でもある。
 だけどテネレモはずっと一緒に戦ってきた仲だ。心配はない。

 はずなんだが。

「仲良くしようぜ、テネレモ……」

 テネレモはいつも俺とは目を合わせてくれず、近づくと逃げる。仲良くなりたいのに、なんだか悲しい。
 しかしなぜかフォッシャにはなついている。……なにがいけないんだろう。
 まさか男とじゃれつくなんて嫌だっていうのか。つれないこというなよ……いや変な意味はなく。

 静まり返っている森の中をフラッシュというトリックカードを使って辺りを照らし進んでいく。フォッシャは眠そうだが、なんだかテネレモはいつになく楽しそうだった。
 やっぱりテネレモって木か草の精霊っぽい見た目だし、自然が近くにあるとテンションがあがるのかな。
 自然か……。そのあたりからなにか仲良くなるきっかけが作れないか、考えておくか。
 ふと気づくと、イタチのような小さな野生の動物たちがこちらを見ていた。特に危害を加えようとする風には見えず、興味深そうに数匹で俺の手元のカゴをながめている。クセで集めた木の実がそこにはあるのだが、あのイタチたちはこれが欲しいのかもしれない。俺がためしにポイとつかんで数個投げると、すごい勢いでそれらを持ち去っていった。ふと立ち止まって振り向き、礼を言うかのようにキキとイタチは鳴いた。


 キャンプに戻る。炎のトリックカードで火を起こし、食事を終えるとハイロが真っ先に寝る。かなり早寝するタイプらしい。
 フォッシャが人間の姿になるよりいつもワンテンポ速い。もしかしたらハイロはフォッシャのこのクセのことを知らないかもしれない。
 こういう時、フォッシャとラトリーは仲良く話したりしているのだが、俺は手持ち無沙汰でやることがない。ローグとカードゲームでもすればいいのだろうが、正直まだ打ち解けている気はしないため言い出しづらい上、彼女のほうも本を読んだり周囲を警戒したりするので暇ではなさそうだ。
 なので、俺は自分の頭の中でカードゲームのイメージトレーニングをしながら、さっさと寝る。

 朝になり、仕度を済ませる。

「一雨くるわね。急ぎましょう」

 空をみて、ローグが言った。

「えっ。でも、降水確率は25%ですよ?」
 
 そう言うハイロの手にあるカードには、気象の情報が表示されている。
 カードの力は俺が居た世界の科学と近いくらい発展している。降水確率なんてものまであると知ったときはおどろいた。

「いつもオドが頼りになるわけではないわぁ」

 この世界の人はオドに頼りきりなのかと思っていたけれど、そうでもないらしい。いやローグが特別なのか。
 未だに俺は詳しくはよくわかっていないが、この世界の魔法の源のことをオドというらしい。色んなことを決定付ける、科学でいえば法則のようなものなのだろう。人々はこれを崇めたり、利用したりして暮らしている。
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