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ラジトバウム編

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 病院で寝ていると、時おりきこえてくる街のにぎわいが心地よい。
 ゼルクフギアとの一戦は嘘だったかのように、ラジトバウムには平穏がもどりつつあった。
 治療のおかげで、両手も問題なく動かせる。
 包帯はまだとれていないが、火傷も順調に回復している。ラトリーの話では、一ヶ月もすれば元通りになるだろうとのことだった。

 目覚めるまで看病してくれたらしく、ハイロが隣のベッドでうつぶせで寝ていた。彼女もまだ傷が完治していないだろうに。
 ローグが病室に入ってくる。見舞いにきてくれたのだろうか。
 そんな甘いわけがないか。フォッシャのことについて知りたいはずだ。

「今日はこれを渡しにきただけだわぁ」

 ローグは思ったより柔らかな表情で、1枚のカードを俺の前に差し出した。

「こりゃ相当強そうなカードだな」

 カード化した『ゼルクフギア・ラージャ』のカード。カードになっても、異彩をはなっている。

「それじゃあね。……ああ、それと――」
 
 ローグは病室を出る間際、こちらに背を向けたままわずかに顔をかたむける。

「お見事、ね」

 ローグが俺を褒めたことも意外だったが、やり取りがあっさり終わったことにも驚いた。
 なんだか安心したと同時に、これでラジトバウムでの出来事も終わったのだなと感じる。

 アザプトレ、ボルテンス、ローグ、ゼルクフギア、強敵ばかりだった。だがやつらと本気で戦ったからこそ、この世界で生き抜いてやるという意地が芽生えたような気がする。

「エイト……よくやったワヌ!」

 獣の姿にもどっているフォッシャが、俺の頭にのってわしゃわしゃと髪を荒らす。撫でているつもりなのかもしれないが乱暴すぎるので、ぽいっと隣のベッドにフォッシャを投げる。

「エイトの言ったとおりだったワヌ。……どんなカードにも強さがある。フォッシャたちにも、逆境を乗り越える力があるんだって……」

「……ああ」

 フォッシャがいてくれなかったら、ムリだったよ。この戦いだけじゃない。ここに来てからずっと……

 ……ありがとな。と、俺は心のなかでつぶやいて、フォッシャにふっと微笑みかける。

「審官のカードは、失っちゃったけどな。……けっきょく一言も会話できないまま……」

「またどこかで会えるワヌよ。オドの結晶になるまで、千年後か二千年後かはわからないけど……。カードとのつながりは、ずっと心の中にあるものワヌ」

「……かもな」

 また会えるかもしれない。オドとやらが運命を決定付けるから、か?
 どうであれ、どんな逆境がまっていてもカードの力で切り抜けなきゃな。

「ま、今回のことでフォッシャが必死になって復元のカードを探す理由がよくわかったよ」

 嫌というほどな。

「これからも、もちろん一緒にきてくれるワヌね?」

「…………お前といたら、命がいくつあっても足りない」

 正直に言って、だ。

「だけどお前といたら……おもしろいカードたちに会えそうだよな」

 そう言って、ふたりで笑いあった。

「それは保証するワヌ。フォッシャたちがいくのは……カードの道ワヌ」

 ラジトバウムでの戦いは終わった。
 大変なことばかりだったけれど、なんとか今日まで生き抜くことができた。
 どんな逆境でも跳ね除けるエースカード、『暁の冒険者』。あのカードの強さは、俺の心の中で生きている。
 『宿命の魔審官』もまた、俺たちに未来を残してくれた。カードの道という未来を。

 彼らだけじゃない、氷の魔女やテネレモたちもまた優れたカードだった。どんなカードにも意味はある。それが俺自身にも言えるなら、俺もまた強くカードの道を歩もう。どんな逆境にも負けないよう、力強く、確かに。
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