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ラジトバウム編

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 決意を新たに、俺たちは目標のいる虚底の沼地へとたどりついた。

 あの爆発の影響か、まわりの森林には火がまわっており、立っているだけで汗がふきでてくる。
 独特の土の香りと焼き焦げる匂いが混じって漂う。
 道中100人以上の兵士や冒険士が、負傷して街の方へ撤退していくのとすれ違った。なかにはひどい怪我を負っているものもいた。
 ゼルクフギア・ラージャに挑んで敗れたのだろう。あれだけの数で攻めても歯が立たないのか。
 いったいどれだけ強いんだ。

 妙な気配を感じてあたりに注意していると、あの黒い影が泡のように沸いてきて、俺たちのあたりを取り囲んだ。

 遠くに翼が風を起こす音だけが聞こえていたが、やがてゼルクフギアが姿をあらわす。巨大な図体で宙に浮き、こちらを見下ろしている。

 自分の足が、ちゃんと立っているのに、膝の力が抜けてわなわなと震えるような感覚がした。龍の見た目が強そうだからという理由ではない。やつの体全身から、ものすごい気迫を感じる。
 こどものころ、無邪気にカードゲームをやってたころは、まさかカードの中のモンスターと戦うときがくるとは夢にも思わなかったな。

 もしハイロの占いが当たっているなら、俺は逆境に強いらしい。

 信じたい。カードとカードゲーマーの力を。

「逃げるなら今のうちワヌよ、エイト」

 挑発するように、フォッシャが声をかけてくる。
 だが俺にそんな気は、毛頭ない。

「……勝負はやってみなきゃわからないぜ」

 希望を手にするために俺はカードを引く。

 行く手にあらわれた影スライムを蹴散らしてゼルクフギアに近づいていくが、ここで違和感をおぼえる。
 前よりも影の力が強くなっている。以前はさわっただけで消えたのに、今は俺たちの体にまとわりついて動きを鈍らせてくる。
 この影はたぶんゼルクフギアが操り主だ。フォッシャの力を得て、ゼルクフギアの魔法の力が強化されたのか。

 ゼルクフギアが口から放射する黒と白の影の光線は、威力は高いが直線状に飛んでくるためテネレモの薮の盾で対応できる。だがほかの影も独自に動いており、こちらのテネレモの薮の盾をカーブする軌道でかわしてこちらにぶつかってきたり、背後から飛んできたりする。
 この飛龍、破壊力があるタイプなのかと思っていたが、小技もある。影の魔法は腕や足首をつかんできたりぶつかってきたり、パターンが多彩で手筋が読めない。
 やはり無謀な挑戦だったのか――そんな弱気な考えが頭をよぎるが、俺はすぐに感情を強く持ち直す。

 こちらにはフォッシャの力がある。ここは小細工よりも、数で押しつぶす!

 影の隙をみて俺は一気にウォリアーカードを5枚召喚した。自分のカードだけではなく、ハイロのものも混ざっている。
 が、こちらがなにかを仕掛ける間もなくゼルクフギアが影の光線を放ち、俺とテネレモとフォッシャ以外のあたりのものは文字通りすべて吹き飛んだ。俺たちの後ろにあった丘が、崩れて瓦礫になっている。
 俺とフォッシャはあの光線が来るモーションをすでに把握していたために、とっさに危機を察して回避することができた。テネレモの薮の盾のおかげもあって、ほとんどダメージもない。

 だが俺が出したばかりのカードたちは、召喚されてすぐ攻撃を受けたためにもろに魔法と衝突し、数十m後方の瓦礫に埋もれていた。

 フォッシャがすぐに駆け寄って瓦礫からカードたちを助け出すも、もうすでにカードたちは戦えそうな様子ではなかった。

 か、カードが5枚も沈められた……一度の攻撃で……いや……そういう次元の話じゃない
 け、消し飛んだ……山が1つ……

「エイト……。この子たちはいったんカードに戻したほうが……これ以上はあぶないワヌ」

 フォッシャの声は聞こえているのに、頭が雑念でいっぱいで反応ができない。
 冷静になれ! 取り乱すな。どんな相手だろうと、これはカードゲーム。精神が揺らいだ方が負けるゲームだ。
 落ち着け、魔法のある世界なんだ、山の1つや2つ一瞬で無くなってもおかしくはない。

「ああ……たのむ」

 俺は振り絞ったような声でフォッシャに言い、カードを戻してもらう。

 だいぶ冷静さを取り戻せた。頭はまだ回っている。
 今のでわかったこともある。さっきの一瞬、あのオドの爆発量と威力、こいつ明らかにさっきより強くなっていた。
 それに冒険者がいくら束になっても敵わないはずだ……こいつ対多数の戦いに慣れている。

 データベースにのっていたやつの記録を思い出せ。たしか、戦士が束になっても敵わなかった、とか……
 そうか、もしかすると。

 おそらく……単独で複数と戦うことで強くなるスキルを持っている可能性がある。だとしたら多くのカードを出して仕掛けるのはむしろ危険かもしれない……。
 理論はわかっていても、実践できるのか。
 あの自信、あの佇まい。誇りに満ち溢れ、強烈なオドを身にまとっている。ローグと戦ったときにも感じた、本物の戦士だ。
 スキルは単独特化型と見てまずは間違いないはず。だがそれだけあって強さはケタ違いだ。やつ自身がもはや超常現象、災厄の化身。

 少数の精鋭であの魔法を突破しないといけない。簡単ではない。

 だが弱いカードにも……逆転の道筋をひらく力がある。そう信じたい。そのためには……

 俺は少ない時間で対策を講じ、氷の魔女を召喚する。

「お呼びかい?」

 華麗にあらわれた氷の魔女だったが、俺がなにか言うまでもなくまわりの景色をみるなりだんだんと顔色が変わっていった。

「ちょっヴァール!? なんでこんなことになってるの!?」

「……色々あんだよ……!」

「戦ってるみたいだけど……こんなのどーやって倒すわけ……!?」

「ローグと戦ったときのわざ……あれをもう一度やってくれないか」

「……わかった。やってみよう」

 動揺をみせつつも、頷いてくれた。氷の魔女は白の手袋をはめた手で横髪を耳にかけ、イヤリングを撫でるようにさわってから腕を前に突き出した。

「荒(すさ)び狂え……シュヴァルツブリザード」
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