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ラジトバウム編
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外は暗く、もう日が落ちて夜になっていた。
フォッシャの姿を見失った。だが行きそうなところはわかる。
たぶん街の外にでて、飛龍をどうにかできないか試しにいくんだろう。それならルートも予想がつく。
俺は先回りして、フォッシャを待った。
やがてとぼとぼと道の向こうから彼女がやってくるのが見えた。
いつもの姿ではなく、人の少女に変身しており暗い表情がよくわかる。
なにも言葉が出てこず、先に口を開いたのはフォッシャだった。
「本来フォッシャが召喚したら、カードはフォッシャに逆らわないはずなんだけど、どうもあの災厄カードにはオドのコントロールは効いてないみたい」
……最初にあの遺跡をおとずれたとき、フォッシャの力の影響で封印がすこし解けたのかもな。そして魔法をつかってフォッシャをさらい、完全に復活した。
「……エイトを巻き込むわけにはいかないワヌ。……フォッシャがなんとかするワヌ」
そう言って、俺の横を通り過ぎていった。
俺がなんとかしてやるって、言いたい。なのに喉が締め付けられるようで、そのセリフが出せない。
本当は怖いんだ。毎日、だましだましがんばってきたけど、もう限界だ。
このカードの魔法の力に触れてから、ずっと思っていたことがある。
カードゲームには真剣な戦いもあるけど、まずは『楽しい』ってことが大事だった。
だが……この世界のルールはどうだ。
カードの使い方次第で命に関わるってどういうことだよ。
そんなの、カードゲームって言えるのか。
俺が愛したカードゲームは……こんなに必死なものじゃない。
ときには楽しく、ときには笑える、そんな娯楽でもあったんだ。あの研究室での幸せな毎日がそうだったように。
俺は……戦えるのか?
カードの力を信じきることができるのか?
命をかけて……!
うなだれていると、自分の胸の内ポケットからぽろっと1枚のカードが落ちた。
拾って、にじむ目でそれを見る。
自分の写真がうつった、冒険士のカードだった。
このラジトバウムにきたとき、途方にくれていたけどどうにかがんばろうと思って冒険士になった。『暁の冒険者』のような、逆境での強さにあこがれて。
あのカードは、水難事故で死んだ兄貴の形見だ。
原因は俺にある。もともと俺がおぼれたのを、兄が助けてくれたのだ。俺は助かったが、兄は代わりに命を落とした。
兄貴は確実にプロになると言われたほどの天才プレイヤーだった。ただ強いだけじゃない、どんな逆境でも覆してしまうような強さがあった。だけど彼は世界の頂点に立つ夢を果たせなかった。
俺は彼の背中に、彼の強さにあこがれていた。
事故のあとはなにもできないほど落ち込んだが、形見である『暁の冒険者』が兄貴のように俺を励ましてくれた。
兄貴のような、すごいプレーヤーになってやろう。俺はそう思って、プロへの道を歩き始めたんだ。
月にカードをかざし、あの気持ちを思い出した。
「フ……フハハハ!!」
逆境だ……まさに逆境だ!!
「え、エイト!? ついにどうにかなっちゃったの…!?」
「……逆に考えるんだ、フォッシャ」
「ぎゃ……逆に!?」
「これはチャンスだ。俺たちが勝てば……あのカードが手に入る!」
「ええええ!?」
「……真面目な話、たしかにフォッシャの力は厄介かもな。だけど今、あいつを倒せるのもフォッシャだけだ」
「……どういうこと?」
「このカードをさわってみてくれ」
フォッシャは不思議そうな顔で、言われたとおり俺から差し出されたカードに触れる。
「……テネレモ」
思ったとおりだった。俺が呼ぶとカードは光を放ち、テネレモが召喚される。
イメージどおりおっとりしているテネレモだが、落ち着かなさそうになにかきょろきょろとあたりを見回していた。
「テネレモがどうかしたワヌ?」
「よく考えてみろ。ここはエンシェントのスポットじゃない。なのにテネレモは召喚できている……」
「……あっ。そっか!」
「目には目を。カードにはカードを、だ。気が狂って挑むわけじゃない。たぶんフォッシャ……お前の力じゃないと、あいつを止められない。だけど逆に言えば……俺たちが力を合わせれば、止められるかもしれない」
ゼルクフギアがどれくらいの強さかは正確にはわからないが、ローグで抑えられなかったのなら他のやつがいくらやっても無駄だ。
氷の魔女ですら普通じゃないほどの脅威になっていた。あの飛龍をほうっておけば、想像もつかない規模の被害を出すだろう。
逆に考えたら選択肢はこれしかない。俺たちしか止められないなら、俺たちが止めるしかない。
フォッシャはあっ気にとられて、言葉をうしなっているようだった。
冒険士カードが鳴る。メッセージを受信したらしい。
ハイロからだ。『きっとかてます!』と表示されている。
「ハイロが何枚かカードを送ってくれたみたいだ。……ありがたい」
なかなか使えそうだ。
フォッシャが不安そうに、顔をのぞきこんでくる。
「ほ、本気であのカードにいどむつもり……?」
「……カードゲーマーだからな。カードでだれかが悲しむところなんて、見たくない」
フォッシャは俺のことを最高のカードゲーマーだと言ってくれた。
お世辞だとしても、うれしかった。
「カードゲームっていうのは……どんなに分が悪くても1%くらいは勝つ可能性があったりする。なぜなら、どんなカードにも意味があるから……弱いカードが、強いカードを倒すこともある。……俺たちにも逆境を乗り越える力がある。そう信じたいんだ」
俺はフォッシャの前に、トリックカード『逆襲<ファイトバック>』を差し出す。
「カードを引こうぜ、フォッシャ。……みんなを守るためのカードを」
そう言うと、少女は観念したという風にふっと微笑み、俺の持つカードに手を伸ばした。
「……やれやれ。めんどーな相棒を持ったもんワヌね」
「よく言うよ」
元はといえばお前の責任だろうが。
フォッシャの姿を見失った。だが行きそうなところはわかる。
たぶん街の外にでて、飛龍をどうにかできないか試しにいくんだろう。それならルートも予想がつく。
俺は先回りして、フォッシャを待った。
やがてとぼとぼと道の向こうから彼女がやってくるのが見えた。
いつもの姿ではなく、人の少女に変身しており暗い表情がよくわかる。
なにも言葉が出てこず、先に口を開いたのはフォッシャだった。
「本来フォッシャが召喚したら、カードはフォッシャに逆らわないはずなんだけど、どうもあの災厄カードにはオドのコントロールは効いてないみたい」
……最初にあの遺跡をおとずれたとき、フォッシャの力の影響で封印がすこし解けたのかもな。そして魔法をつかってフォッシャをさらい、完全に復活した。
「……エイトを巻き込むわけにはいかないワヌ。……フォッシャがなんとかするワヌ」
そう言って、俺の横を通り過ぎていった。
俺がなんとかしてやるって、言いたい。なのに喉が締め付けられるようで、そのセリフが出せない。
本当は怖いんだ。毎日、だましだましがんばってきたけど、もう限界だ。
このカードの魔法の力に触れてから、ずっと思っていたことがある。
カードゲームには真剣な戦いもあるけど、まずは『楽しい』ってことが大事だった。
だが……この世界のルールはどうだ。
カードの使い方次第で命に関わるってどういうことだよ。
そんなの、カードゲームって言えるのか。
俺が愛したカードゲームは……こんなに必死なものじゃない。
ときには楽しく、ときには笑える、そんな娯楽でもあったんだ。あの研究室での幸せな毎日がそうだったように。
俺は……戦えるのか?
カードの力を信じきることができるのか?
命をかけて……!
うなだれていると、自分の胸の内ポケットからぽろっと1枚のカードが落ちた。
拾って、にじむ目でそれを見る。
自分の写真がうつった、冒険士のカードだった。
このラジトバウムにきたとき、途方にくれていたけどどうにかがんばろうと思って冒険士になった。『暁の冒険者』のような、逆境での強さにあこがれて。
あのカードは、水難事故で死んだ兄貴の形見だ。
原因は俺にある。もともと俺がおぼれたのを、兄が助けてくれたのだ。俺は助かったが、兄は代わりに命を落とした。
兄貴は確実にプロになると言われたほどの天才プレイヤーだった。ただ強いだけじゃない、どんな逆境でも覆してしまうような強さがあった。だけど彼は世界の頂点に立つ夢を果たせなかった。
俺は彼の背中に、彼の強さにあこがれていた。
事故のあとはなにもできないほど落ち込んだが、形見である『暁の冒険者』が兄貴のように俺を励ましてくれた。
兄貴のような、すごいプレーヤーになってやろう。俺はそう思って、プロへの道を歩き始めたんだ。
月にカードをかざし、あの気持ちを思い出した。
「フ……フハハハ!!」
逆境だ……まさに逆境だ!!
「え、エイト!? ついにどうにかなっちゃったの…!?」
「……逆に考えるんだ、フォッシャ」
「ぎゃ……逆に!?」
「これはチャンスだ。俺たちが勝てば……あのカードが手に入る!」
「ええええ!?」
「……真面目な話、たしかにフォッシャの力は厄介かもな。だけど今、あいつを倒せるのもフォッシャだけだ」
「……どういうこと?」
「このカードをさわってみてくれ」
フォッシャは不思議そうな顔で、言われたとおり俺から差し出されたカードに触れる。
「……テネレモ」
思ったとおりだった。俺が呼ぶとカードは光を放ち、テネレモが召喚される。
イメージどおりおっとりしているテネレモだが、落ち着かなさそうになにかきょろきょろとあたりを見回していた。
「テネレモがどうかしたワヌ?」
「よく考えてみろ。ここはエンシェントのスポットじゃない。なのにテネレモは召喚できている……」
「……あっ。そっか!」
「目には目を。カードにはカードを、だ。気が狂って挑むわけじゃない。たぶんフォッシャ……お前の力じゃないと、あいつを止められない。だけど逆に言えば……俺たちが力を合わせれば、止められるかもしれない」
ゼルクフギアがどれくらいの強さかは正確にはわからないが、ローグで抑えられなかったのなら他のやつがいくらやっても無駄だ。
氷の魔女ですら普通じゃないほどの脅威になっていた。あの飛龍をほうっておけば、想像もつかない規模の被害を出すだろう。
逆に考えたら選択肢はこれしかない。俺たちしか止められないなら、俺たちが止めるしかない。
フォッシャはあっ気にとられて、言葉をうしなっているようだった。
冒険士カードが鳴る。メッセージを受信したらしい。
ハイロからだ。『きっとかてます!』と表示されている。
「ハイロが何枚かカードを送ってくれたみたいだ。……ありがたい」
なかなか使えそうだ。
フォッシャが不安そうに、顔をのぞきこんでくる。
「ほ、本気であのカードにいどむつもり……?」
「……カードゲーマーだからな。カードでだれかが悲しむところなんて、見たくない」
フォッシャは俺のことを最高のカードゲーマーだと言ってくれた。
お世辞だとしても、うれしかった。
「カードゲームっていうのは……どんなに分が悪くても1%くらいは勝つ可能性があったりする。なぜなら、どんなカードにも意味があるから……弱いカードが、強いカードを倒すこともある。……俺たちにも逆境を乗り越える力がある。そう信じたいんだ」
俺はフォッシャの前に、トリックカード『逆襲<ファイトバック>』を差し出す。
「カードを引こうぜ、フォッシャ。……みんなを守るためのカードを」
そう言うと、少女は観念したという風にふっと微笑み、俺の持つカードに手を伸ばした。
「……やれやれ。めんどーな相棒を持ったもんワヌね」
「よく言うよ」
元はといえばお前の責任だろうが。
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