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ラジトバウム編
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しおりを挟む冒険士ギルドの前に来た。ちょうどローグ・マールシュが出てきて鉢合わせる。
彼女はこんなときでも怖いくらい冷静で、どこか麗(うるわ)しい。
たしか王都の護衛部隊だかに所属していたとかハイロが言っていたような気がするから、こういう事態にも慣れているのかもしれない。
ローグはこちらに気がつくと、
「あら、二人ともちょうどいいところに。今から不審爆発の調査に向かうからついてきてちょうだい」
「悪いな。こっちにはこっちのやることがある。あんたたちでがんばってくれ」
と、俺はそっけない返事を返す。そっちの都合のいいときだけ手伝ってくれなんて、ムシが良すぎるんだよ。
「……そ。まムリにとは言わないけれど……黒い影の集団が奇妙な動物をどこかへ運んでいたって目撃情報が入っているとしたら……どうかしら」
「なにか知ってるのか」
「……ジャングルエリアのほうへ向かっていったそうだわぁ。奇しくも今から調査にむかおうとしている場所と同じなのよね」
それと聞いて、自分の体が緊張するのがわかった。
「あなたたちのほうこそ、なにか知ってることはないの?」
ローグにそう聞かれても、なにも答えることはできなかった。
-----
ジャングルエリアに到達する。深部まで火の手があがり、冒険士たちやらが消火作業にあたっていた。
この周辺はフォッシャと訪れたことのある遺跡が近い、ジャングルの深部。
冒険士ですらめったにこないような場所だ。こんなところで、あれだけの規模の爆発が自然発生するとは思えない。
フォッシャがなにか……関わっているんじゃないか。
そんな考えが、脳裏をなんどもよぎる。
グオォと、生物がよりつかないと言われる虚底の沼地のほうから、嵐のうねりのようなすさまじい声量の咆哮がきこえた。空気が震えたのがわかる。
俺はローグと目を合わせ、
「寄りたいところがある。二人で先にいってくれ。俺は後から追う」
ローグは特に文句をいうこともなく、ハイロもこくと頷いて沼地へと向かっていった。
-----
俺は記憶をたよりに、一度きただけの遺跡を探索する。
案の定、奥の部屋で探し物はみつかった。審官のカードがあったあの厳(おごそ)かな辺境(へんきょう)だ。
「フォッシャ!」
倒れて気絶しているフォッシャのそばに駆け寄る。
フォッシャは無事なようで、眠りから覚めたかのようにおだやかに目をあけた。
「あれ? ここは……。エイト? なにがあったワヌか?」
「……わからない。でもお前が黒い影にさらわれたのを、街の人が見たって……」
「……もしかして、これって」
フォッシャの不安げな視線を追うと、部屋の中央にぽっかりと地面がえぐられていた。さらに天井がほとんど無くなっている。
ここにたしか、大きな像のようなものがあった気がする。
それがなくなってるっていうのは一体……。わからないがなにか良くないことが起ころうとしているのはたしかなようだ。
「そうだ。ハイロたちを助けにいかないと」
外に出ると、雲行きが怪しくなっていた。
また爆発があった。遠くからでもわかるほど大きい。沼地のほうだ。
灰色の空を見上げたとき、俺は自分の目をうたがった。
――飛龍だ。
カードでしか見たことがない本物のドラゴンが雄たけびをあげて、巨大な翼をはためかせ宙を舞っている。
一瞬目があったような気がして、俺は背筋が凍るような感覚をおぼえる。
しばらく畏怖と呆気に体を支配されていたが、すぐにハイロとローグのことを思い出し、沼地へと急いだ。
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