上 下
57 / 169
ラジトバウム編

39

しおりを挟む

 所用を済ませてから、ハイロのいる宿へと着く。
 と言っても、俺たちの泊まっている宿とおなじで、しかも隣の部屋だ。俺たちとパーティを組んでから、すぐに引っ越してきた。
 だがここ最近は忙しかったのもあって、入り口まで寄ったことはあるがまだ部屋の中に入ったことはない。

 ノックをすると、ハイロが扉の隙間からぴょこと顔をだして、意外そうな顔をする。

「エイトさん! どうしたんですか?」

「えっと……は、ハイロにプレゼントがあるんだ。お、お世話になってるお、お礼にと、おもって」

 俺は目を合わせられず、口ごもりながらに言う。
 なんでこんなかっこわるい挨拶になってしまうんだろうなぁ。女性経験の乏しさがモロにでてしまっている。

「えっ。そ、そんな……」

 ハイロは嬉しさ半分、戸惑い半分だという表情になる。
 落ち着け俺。ちゃんと選んだんだから自信をもて。

「開けてみてよ」

「う、嬉しいです。すごく……ありがとうございます」

 俺から受け取った赤いリボンに白い箱というベタベタなデザインのプレゼントを、ハイロがその場で開封する。

「これは……! カードパック箱買(はこが)い2点セット!」

「迷ったんだけど、これをもらって喜ばないカードゲーマーはいないかなぁ、とおもって……」

「ハ、ハハ……」

「あ、あれ。ほかのパックのほうがよかったかな」

「い、いえいえ! すごく嬉しいです! 開けちゃうのがもったいないくらいです……大切にします。ありがとうございます、エイトさん」

 一瞬微妙そうな表情になったように思えたけど、よろこんでくれたみたいだ。
 女の子にプレゼントって言われてもどうしたらいいかぜんぜんわからないからな。ハイロはカードゲーマーだから、助かった。

「あの。今日はこのあとご予定はありますか?」

「いや……特にはないかな。今日はフォッシャと見回りをしてたんだけど、はぐれちゃったみたいでさ」

 いつの間にかフォッシャのやつ、姿を消していた。

「それは心配ですね……連絡はしてないんですか?」

「いやあいつのことだしどっかほっつき歩いてるんだろ。いつものことだからいいよ」

「そうですか……。じゃあすこしうちで、一休みしていかれたらいかがですか? いまちょうどパイがあるんです」

「い、いいの?」

 実のところ、朝から街を歩き回っていて少し疲れている。

「はい。あまり片付いてませんが……。どうぞ休んでいってください」

 すごいぞ。女の子の部屋か……。

 なんだか冒険士になって初めてよかったと思えたよ。

 ハイロの部屋は物が少なくかたづいていた。仮住まいなのだから荷物がないのは当たりまえだが、綺麗で掃除が行きとどいている。

「武器の手入れをしてたの?」

 作業机に武器が置いてある。

「はい。ちょうど終わったところなんです。お茶をいれるので、すこし待っていてください。お手洗いはあちらです」

「ありがとう」

 ハイロはとても優しいいい子だなぁ。

 手を洗って座るまえに、奥の部屋のポスターが目についた。気になったので、目をこらしてみる。

 おお、あれはあの有名なレアカード『戦場の剣乙女<ヴァルキュリア・バトルフィールド>』を模したポスターか。見る目があるな。

 良く見るとその部屋の棚にも面白そうなものがある。
 だれか人が描かれた絵。なんだか俺の姿にも似ているような気がする。ていうか格好も似ているような……遠目ではよくわからない。
 布製のナイフが刺さった恐竜のようなモンスターのぬいぐるみ。……どういう趣味なんだ。

 あまり女の子の部屋をじろじろ見るのはよくないか。こういうところがダメだな俺は。

 席に座って休んでいるとハイロがもどってきて、お茶とパイを差し出してくれる。

「ラジトバウム茶だそうです」

「ありがとう。いただきます」

 ハイロも向かいに座って、ズズとお茶を飲む。
 俺はナイフとフォークでパイをおいしくいただき、ラジトバウム茶やらも堪能する。

「味はどうですか?」

「すごいおいしいよ」

「よかったぁ……」

 本当においしい。お茶もうまくて、なんだかホッとする。

「この間は、ローグさんとたまたま会って、カードのことで会話がはずんだんです。ちょっと話しただけでも、勉強になりました」

「……そうなんだ」

「……フォッシャちゃんやエイトさんのことは、聞かれていませんし、なにも話していませんよ。安心してください」

「……そうか」

 ローグのほうからも、聞かなかったのか。俺たちのことは、少なくとも危険分子ではないと判断してもらえたのだろうか。
 それにしても……

「あ、あのさ。あまり見られると、食べづらいよ。気が散っちゃって……」

「ダメです。私のことは気にせず召し上がってください」

 なにがおもしろいのか、ニコニコと微笑みながらハイロはこちらの様子をながめている。

「プレゼント、とても嬉しかったです……」

 そう言ってハイロはすっと立ち上がって、作業机から鎖とナイフを手に取りこちらに向かってつきだしてきた。

「エイトさんがもっと私の力をみてくれるように、がんばります……!」

 意気込むその姿はかわいらしくもあるのだが、さすがに食事中に刃物を出されると喉が詰まる。

「そ、そう……。ハイロのすごさは充分伝わってるよ。ナイフを向けないでくれ」

「あ! すみません……!」

「それって二つともウェポンカードなんだよな。鎖ってのはけっこうおもしろいアイデアだな」

「いえ、まだまだ使いこなせてなくて……」

 いつものようにカードのことも語り合いたいけど、今は他にも気になることがある。

「……なあ。話は変わるけど、あの黒い影……ハイロはどう思う?」

「黒い影……うーん、一時期冒険士ギルドでも話題になりましたけど、いまはあまり危険性がないことがわかったのもあって膠着(こうちゃく)状態ですよね」

「……ついこのまえ、俺とフォッシャは、あいつらに襲われたんだ」

「おそわれた? ほんとうですか」

 ハイロの表情が曇ったのと同様に、俺もなにか嫌な予感がする。

「……切り上げるつもりだったけど、今日はやっぱり、もうちょっと調査を続けてみようかな」

「……そうですね。……私も、ご一緒します!」


-----


 俺とフォッシャの泊まっている部屋にもどったが、誰もいなかった。

「おーい」

「気配がありませんね……」

「どこほっつきあるいてるんだろうな」

 フォッシャも冒険士カードを持ってるはずだ。俺はカードを操作して、耳にあてる。一見アホっぽい仕草だが、大真面目な話だ。
 しかし、連絡がつかない。
 
 胸騒ぎとともに、窓からさしこむ光が青ともオレンジともつかない奇妙な色に変わった。
 外に目をやると山のほうで、まさに今爆発がおきるのがみえた。不気味な低音が響くとともに、遅れてやってきた衝撃波が窓ガラスを粉砕する。

 突然のことに、俺たちは混乱する。

 玄関にいたため窓ガラスの破片の影響を受けることはなかったが、俺とハイロはすぐに窓際に駆け寄った。
 まだ爆発が放ったと思われる光が空中にとどまったまま、消えていない。

 俺たちは宿をあとにし、通りに出た。街の雑音も強まり、不穏な雰囲気が蔓延している。

「いったいなにが起きてる? すごい騒ぎだ」

「わかりません……嫌な予感がします」

「少なくとも手札事故ってレベルじゃなさそうだな」

「そんなこと言ってる場合じゃありませんよ。情報収集しましょう。フォッシャちゃんも心配です」

 俺はへいへいと呆れつつ、ハイロのあとについていく。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

公爵令嬢の辿る道

ヤマナ
恋愛
公爵令嬢エリーナ・ラナ・ユースクリフは、迎えた5度目の生に絶望した。 家族にも、付き合いのあるお友達にも、慕っていた使用人にも、思い人にも、誰からも愛されなかったエリーナは罪を犯して投獄されて凍死した。 それから生を繰り返して、その度に自業自得で凄惨な末路を迎え続けたエリーナは、やがて自分を取り巻いていたもの全てからの愛を諦めた。 これは、愛されず、しかし愛を求めて果てた少女の、その先の話。 ※暇な時にちょこちょこ書いている程度なので、内容はともかく出来についてはご了承ください。 追記  六十五話以降、タイトルの頭に『※』が付いているお話は、流血表現やグロ表現がございますので、閲覧の際はお気を付けください。

【完結】魔物をテイムしたので忌み子と呼ばれ一族から追放された最弱テイマー~今頃、お前の力が必要だと言われても魔王の息子になったのでもう遅い~

柊彼方
ファンタジー
「一族から出ていけ!」「お前は忌み子だ! 俺たちの子じゃない!」  テイマーのエリート一族に生まれた俺は一族の中で最弱だった。  この一族は十二歳になると獣と契約を交わさないといけない。  誰にも期待されていなかった俺は自分で獣を見つけて契約を交わすことに成功した。  しかし、一族のみんなに見せるとそれは『獣』ではなく『魔物』だった。  その瞬間俺は全ての関係を失い、一族、そして村から追放され、野原に捨てられてしまう。  だが、急な展開過ぎて追いつけなくなった俺は最初は夢だと思って行動することに。 「やっと来たか勇者! …………ん、子供?」 「貴方がマオウさんですね! これからお世話になります!」  これは魔物、魔族、そして魔王と一緒に暮らし、いずれ世界最強のテイマー、冒険者として名をとどろかせる俺の物語 2月28日HOTランキング9位! 3月1日HOTランキング6位! 本当にありがとうございます!

外れスキルと馬鹿にされた【経験値固定】は実はチートスキルだった件

霜月雹花
ファンタジー
 15歳を迎えた者は神よりスキルを授かる。  どんなスキルを得られたのか神殿で確認した少年、アルフレッドは【経験値固定】という訳の分からないスキルだけを授かり、無能として扱われた。  そして一年後、一つ下の妹が才能がある者だと分かるとアルフレッドは家から追放処分となった。  しかし、一年という歳月があったおかげで覚悟が決まっていたアルフレッドは動揺する事なく、今後の生活基盤として冒険者になろうと考えていた。 「スキルが一つですか? それも攻撃系でも魔法系のスキルでもないスキル……すみませんが、それでは冒険者として務まらないと思うので登録は出来ません」  だがそこで待っていたのは、無能なアルフレッドは冒険者にすらなれないという現実だった。  受付との会話を聞いていた冒険者達から逃げるようにギルドを出ていき、これからどうしようと悩んでいると目の前で苦しんでいる老人が目に入った。  アルフレッドとその老人、この出会いにより無能な少年として終わるはずだったアルフレッドの人生は大きく変わる事となった。 2024/10/05 HOT男性向けランキング一位。

わたし異世界でもふもふ達と楽しく過ごします! もふもふアパートカフェには癒し系もふもふと変わり者達が生活していました

なかじまあゆこ
ファンタジー
空気の読めない女子高生満里奈が癒し系のもふもふなや変わり者達が生活している異世界にトリップしてしまいました。 果たして満里奈はもふもふ達と楽しく過ごせるのだろうか? 時に悩んだりしながら生活していく満里奈。 癒しと笑いと元気なもふもふスローライフを目指します。 この異世界でずっと過ごすのかそれとも? どうぞよろしくお願いします(^-^)/

虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

ブレスレットが運んできたもの

mahiro
BL
第一王子が15歳を迎える日、お祝いとは別に未来の妃を探すことを目的としたパーティーが開催することが発表された。 そのパーティーには身分関係なく未婚である女性や歳の近い女性全員に招待状が配られたのだという。 血の繋がりはないが訳あって一緒に住むことになった妹ーーーミシェルも例外ではなく招待されていた。 これまた俺ーーーアレットとは血の繋がりのない兄ーーーベルナールは妹大好きなだけあって大いに喜んでいたのだと思う。 俺はといえば会場のウェイターが足りないため人材募集が貼り出されていたので応募してみたらたまたま通った。 そして迎えた当日、グラスを片付けるため会場から出た所、廊下のすみに光輝く何かを発見し………?

処理中です...