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ラジトバウム編

18話 オドの加護

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 賞金の金額を見て、フォッシャも俺も驚愕した。
 大会予選を勝った賞金で5千、ランク急上昇で5千、対戦勝利賞金で5千、合計1万5千オペンも懐に入った。
 この額は今まで冒険士としてコツコツ稼いできた報酬全部あわせたものに匹敵する。これだけあれば一ヶ月は仕事をしなくても暮らせるくらいだ。

 これでもう、野宿したり馬小屋で寝ずに済む。俺はフォッシャと小躍りして、喜びをわかちあった。
「今日は宿に泊まれるワヌ!」

 俺たちは大手を振って、冒険士の宿に足を運んだ。

「ベッドは久しぶりだな~」
 
 冒険士の宿に入るなり、俺は自分の服が汚れているのも忘れてベッドにうつぶせに倒れこんだ。だが地面や藁(わら)の感触に慣れすぎて、逆にベッドの感触に違和感を感じるようになってしまっていた。

「でもなんだかんだで、首飾りが見つかって本当良かったワヌ……」

 椅子に乗っているフォッシャの首元には、首飾りがもどっている。

「運がいいよな。俺、モンスターが持ってっちゃったんだと思った」

「きっとフォッシャの祈りがオドに通じたんワヌ~。エイトは勝っちゃうし、賞金ももらえるし! これってラッキーワヌ!」

「オドってそんなにふだんの生活に影響するのか」

 ふと、俺は疑問を口にしてみる。

「そうワヌ。オドの法則を守っていいコにしてれば、オドもそれをちゃんと見ててくれてるんだワヌ」

 俺の言葉が通じてたり文字が読めるのも、オドの加護のおかげだっていうのか……?

「ていうかこんな偶然、あるのか。予選参加者はざっと1000人はいた。そのなかで俺たちが戦いたかったボルテンスと、いきなり初戦であたるなんて。……オドってなんなんだ?」

 はっきり言って、むしがよすぎて気味が悪い。

「きっとあの強いカードが手に入ったのも導きワヌ。フォッシャたちががんばってたのをオドが認めてくれたんだワヌ」

 フォッシャの話を真に受けるのなら、この世界には魔法のカードの力のほかに、運命をある程度左右する謎の要素がある、ということになってくる。
 どうなのだろう……。カードの力はホンモノだけど、まだいまいちオドとやらのことは信じきれないな。

「オドは本当にあるワヌよ、エイト」

 そんなことを考えているのが表情でわかったのか、フォッシャは俺の顔を見て言った。

「オドは地上の生物みんなを正しい方向にみちびいてくれるんだワヌ。悪者はやっつけられて、正しいことをした者が報われるんだワヌ」

 だめだ、頭がこんがらがってきた。すぐに理解するのは、ちょっと難しそうだ。

「だから、フォッシャが探してるものも、エイトが探してるものも、きっと見つかるワヌ」

 フォッシャは明るく、そう言い放った。
 そう、だったな。俺のやることも、フォッシャのやることも、変わらない。

 食べるものも帰るところもない俺たちにとって、やるべきことはひとつ。
 目標のために、その日を生きる。これだけのことだ。

「……じゃ、俺もそう祈っとくよ」

 とは言っても、俺にはフォッシャがよくいう<オドの感じ>なんてものは、全くわからない。
 俺が自分以外のことで信じられるのは、ここまで助けになってくれたフォッシャと、カードの力だけだ。

「……カード、か……」
 俺は天井を向いて、お腹の上にカードを置く。
 カードに対しておもうところはある。
 魔法の力。この魅力に興奮している自分もいるけど、得たいの知れない力を怖がっている自分もいる。
 複雑な心境だ。

「カードがどうかしたワヌか?」

「いや、ちょっとな……」

 あの不気味な絵柄のないカードのことを俺は思い出していた。
 あれのせいで俺はこの場所に来る事になった。

 カード……それにヴァーサスか。
 なぜだろう。この因縁(いんねん)を辿(たど)っていけば、たどり着ける場所があるような気がする。

 不思議な予感だ。
 引力のようなものを感じる。カードの示す道が、どこかに続いているのを。


------


 ある日、宿に帰ると、建物の前でフォッシャを見つけた。
 なにかの容器に入ったペットフードのような食べ物を食べているらしい。そのフォッシャの背中を、少女がかがんで撫で回していた。
 毛並みが気持ちいいのか、少女の表情はとても穏やかに見えた。

 俺に気がつくと、「あ……」と小さな声を発して立ちあがり、ぺこと一礼してから去っていった。
 
 たしかあの子、町長さんのお孫さんだったか。最初にのラジトバウムにきたとき手当てしてくれたのは、たしかあの子だったのだったか。

 フォッシャは気にせず、食料をおいしそうにほおばっている。

「うまいか? それ」
「なかなか行けるワヌ」

 フォッシャの食べているところを見ると、俺もなんだかお腹が空いてきた。
 俺もちょっともらおうかな、なんて。
 って、い、いかんいかんいかん。なんかここに来てからどんどん野性児化してきている気がする。

「あ……あの」
「おおう!?」

 突然さっきの少女があらわれて、俺は驚く。
 孫娘さんは、腕に箱のようなものを抱えていた。

「手当てしますから、そこに座ってください」
「え……?」
「……座ってください」

 言われるがまま、俺は石段に腰掛けた。

「どうしてもっと早くうちにこなかったんですか? ちゃんとちりょうしないと、ダメですよ」

「い、いや、う、うん……」

 箱は救急箱らしかった。すばやく、正確な手つきで、絆創膏が俺の顔や身体に貼り付けられる。
 包帯さばきも見事なもので、折れた左腕の処置も病院でやってもらうかのように綺麗になおしてもらった。

「おわりです」
 
「すごいな……。ありがとう」

「いつでも家にご飯食べに来てください。この子も一緒に。遠慮しないでもっと甘えて欲しいって、おじいちゃんも言ってました」
 
 優しい瞳でそう言って、孫娘さんはフォッシャの頭をわさわさと撫でる。
「うちを頼ってください」

 表情の読み取りづらい子だったが、そう言ったときは微笑んでいるようにも見えた。
 孫娘はまたぺこりと一礼し、フォッシャが食べる様子に目をやってから、通りに戻っていった。

「知り合いだったワヌか?」

 口のまわりに食べかすをつけて、フォッシャがきいた。

「うん、前に助けてもらってさ」

「優しい子ワヌ……」

 町長さんにお世話になってばかりもいられないけど、さすがに挨拶にいかないのもよくないか。

 時間をみつけて、フォッシャとたずねにいこう。
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