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ラジトバウム編
13話 大切なもののために
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■前回のあらすじ
逆境だけど魔法のカードがあればなんとかなるかもしれない□
--------------
「あ、あれ?」
フォッシャが急に、かぶりついていたパンを落としてうろたえはじめる。
「首飾(くびかざ)りがないワヌ……」
言われてみてみると、たしかにフォッシャの首元にいつもの首飾りがない。
あたりを見まわしてみてもそれらしいものは落ちていない。
「あいつと戦ったとき落としたのかも……」
フォッシャはひどく取り乱した様子だった。
すぐにアザプトレと戦った場所にもどって探したが、見つからない。
フォッシャの話では、アザプトレの地面が隆起する魔法を避けたとき、実は首飾りがかすってしまっていてどこかに飛んでしまったのではないかということだった。
血眼になって探したが、首飾りも首飾りのカードも見つからない。もう日が沈んでいてともに捜索ができず、フォッシャはかなり落ち込んでいた。
「このあたりには無いかもしれないワヌ。……オドの感じでわかるんだワヌ」
「……首飾り、そんなに大切なものだったのか」
「……フォッシャの一族のお宝なんだワヌ」
アザプトレやトナーラがそうだったように、モンスターにもカードを見分ける力がある。
このあたりの獣道に人や冒険士が用がなく来るとも思えない。
モンスターが好奇心で持っていってしまったのかもしれないな、と俺は考えた。
「今日はもう暗いからやめておこう。あしたからはジャングルに潜って首飾り探しだな」
「……うん……」
フォッシャは前向きでポジティブなやつだと思っていたが、さすがに声に力がない。相当大切なものなんだろう。
アザプトレと戦いたがったのは俺だからな。なんとか見つけてあげたい。
「ごめんエイト……つきあわせちゃって……フォッシャがひとりで探すから、エイトは休んでてほしいワヌ」
「……小さい頃、俺もカードを落としたことがあってさ。いつも持ち歩いてたもんだから、どこに落としたかぜんぜんわからなくて」
「カードを……?」
「あの時はすごい焦って、不安で仕方なかったよ。ま、結局日が暮れるまで探してたら見つかったんだけどさ。だから、わかるよ。大切なものがなくなったときの気持ちはさ」
それが大切なものなら、なおさらだ。
「フォッシャは俺がアザプトレと戦ったとき、助太刀してくれたんだ。今度は俺が助けなきゃな」
フォッシャが嬉しそうにニコッと笑みを浮かべたのがわかったので、俺は照れ隠しに目を逸らして頬をかく。
「そ、それに、カードを探してるやつをほっとくなんて、そんなのカードゲーマーの風上にもおけないぜ」
「……そうワヌね。……なんだか大丈夫な気がしてワヌ。きっと見つかるワヌよね」
そう言うフォッシャだが、すこし無理をして明るく振舞ってるのが俺にはわかる。
「すぐに見つかるよ」
だが次の日ジャングルを駆け回っても見つからず、今度は街で探すことになった。
---------
ラジトバウムの街に戻ると、あきらかにいつもより人の数が多かった。
道が混み合っていて、歩きづらいのでフォッシャには俺の頭に乗ってもらいながら散策する。
建物やお店など通りのあちこちに、『精霊杯会場(せいれいはいかいじょう)はあちら』と書かれた横断幕やポスターがあるのが目に付いた。
ほとんど人ごみに流されるように広場に出ると、どうやらここを中心に人が集まっているようだった。
なにかのイベントごとがやっているらしく、喧騒に包まれている。
「なんだこりゃ?」
「精霊杯っていう、カードの大会ワヌ。予選が開かれるみたいワヌねえ」
カードの大会、ねえ……
「予選会なのにすごい人だな……ギャラリーもいるし……もしかしてけっこうでかい行事なのか?」
「そりゃもう外国からも集まってくるワヌ。カードの大会っていうのはオドに捧げる儀式でもあるわけワヌから、カードショップで見かけたような遊びとは全く違うワヌよ」
大会、か。なんだか昔を思い出す。
試合に出場する選手だと思われる人たちがみんな、カードを持って、緊張の面持ちでいる。中には真剣な目をした者や、楽しそうに笑っている者も。
彼らにかつての自分の姿が、まるで重なるようにさえ見える。
もの思いにふけっていると、頭がかるくなり、フォッシャが地面に舞い降りる。
鼻をヒクつかせ、フォッシャはあたりを見回す。
「感じる……近いワヌ!」
首飾りの場所がわかるのか? 匂いで判別しているのか魔法のオドの気配で探っているのかはわからないが、俺も一緒になって周りを見回した。
「あの人が持ってるワヌ」
フォッシャの視線の先には、人ごみを両肩で掻き分け、えらそうに歩いている男がいた。
あのチャラ男っぽい、というかバンドのボーカルのような派手な髪型と衣装、見覚えがある。たしか、ギルドで俺に話しかけてきた男の連れだったか。
「オラどけ雑魚ども! 猛者がいるっつーからわざわざラジトバウムにきたってのによお……どいつもこいつもまるで骨が無え……」
機嫌が悪そうだが、しり込みしている場合じゃない。
俺は男に近づいて、声をかけた。
「ねえ、あんた首飾りか、首飾りのカードさいきん拾わなかったか?」
「あ? あー……っべー忘れてた。拾ったぜ」
思い出したという風に、後ろ頭をかく男。
「そうか。なら返してくれないか?」
男は俺の顔をじろと見ると、顔色がすこし変わった。男の口元がニヤ、と微笑を浮かべたのを、俺はみのがさなかった。
「……ああお前、たしかミラジオンから逃げ切ったとかいうスーパールーキーじゃねえか。……ふーン、なるほど、お前のカードかぁこれ」
首飾りのカードと俺をの顔を交互に見て、ニヤニヤと男は楽しそうに笑う。
「で、お前のもんだって証拠はあんのか?」
「証拠……だって?」
「使えるかどうかは微妙だが、こういうのは宝石好きは高く買い取ってくれるんだよな~」
この野郎……。なんのつもりだ? わざと挑発してるのか。
「ぐぬぬ……こいつ……オドの天罰がくだるワヌよ……!」
「おちつけ、フォッシャ。ここは冷静にいこう」
「そ、そうワヌね……おちついて対処するワヌ。警察にたのんで……」
「お前も結闘士のはしくれなら、勝負に勝って取り返してみろよ。スーパールーキーさんよ」
男は俺に向かって言った。あからさまな挑発だ。
「俺はカードを数枚しか持っていない。あんたとやりあうのは無理だ」
「なら3on3でやりゃあいい。この大会予選と同じルールだ。カードが4枚あればできる。さすがにそれくらいはあるだろ?」
4枚か。それならたしかにある。
「ま……お前みたいな弱腰(よわごし)クンには、ヴァーサスなんか無理だろうけどな」
ブチッ、と俺の中でなにかが切れた音がした。
男の余裕気な薄ら笑いがさらに俺をイラつかせ、拳がわなわなとふるえる。
「やってやろうじゃねえか……この野郎!!」
「ちょっ、エイト!?」
「そのカードは大切なものなんだ。俺が勝ったら、そのきたねえ手でさわったことを謝ってもらうぜ!」
「いいねえ。そうこなくちゃ。念のため確認しておくが、本当にこれはお前のだよな? 女が好きそうなデザインに見えるが……」
男は首飾りのカードをまじまじと見て言う。
「それは俺のじゃない。ここにいる彼女のなんだ」
「……はあ? なんだその……その妙なちんちくりんの……生き物は」
みょ、妙なちんちくりん。たしかに最初は俺も同じようなことを思ったけどさ。
「冗談はいい。どうせ彼女へのプレゼントとかなんだろ? うらやましいねえ。ああ、そうだ。これから大会の予選があるから、お前との勝負はあとだ」
「予選?」
そういえば、ここでカードの大会が開かれるんだったか。こいつはそれに参加するということか。
「なに心配するな、約束してやる。俺に勝ったら返してやるよ。じゃあな、スーパールーキー」
男は言うだけ言って、軽快に去っていった。
それはそうと、となりのフォッシャからただならぬ怒りの波動を感じる。
「前言撤回(ぜんげんてっかい)するワヌ……」
あの男の言葉が、思わぬところにも引火していたらしい。
「あいつ……ギッタギタにぶっ潰すワヌ!」
逆境だけど魔法のカードがあればなんとかなるかもしれない□
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「あ、あれ?」
フォッシャが急に、かぶりついていたパンを落としてうろたえはじめる。
「首飾(くびかざ)りがないワヌ……」
言われてみてみると、たしかにフォッシャの首元にいつもの首飾りがない。
あたりを見まわしてみてもそれらしいものは落ちていない。
「あいつと戦ったとき落としたのかも……」
フォッシャはひどく取り乱した様子だった。
すぐにアザプトレと戦った場所にもどって探したが、見つからない。
フォッシャの話では、アザプトレの地面が隆起する魔法を避けたとき、実は首飾りがかすってしまっていてどこかに飛んでしまったのではないかということだった。
血眼になって探したが、首飾りも首飾りのカードも見つからない。もう日が沈んでいてともに捜索ができず、フォッシャはかなり落ち込んでいた。
「このあたりには無いかもしれないワヌ。……オドの感じでわかるんだワヌ」
「……首飾り、そんなに大切なものだったのか」
「……フォッシャの一族のお宝なんだワヌ」
アザプトレやトナーラがそうだったように、モンスターにもカードを見分ける力がある。
このあたりの獣道に人や冒険士が用がなく来るとも思えない。
モンスターが好奇心で持っていってしまったのかもしれないな、と俺は考えた。
「今日はもう暗いからやめておこう。あしたからはジャングルに潜って首飾り探しだな」
「……うん……」
フォッシャは前向きでポジティブなやつだと思っていたが、さすがに声に力がない。相当大切なものなんだろう。
アザプトレと戦いたがったのは俺だからな。なんとか見つけてあげたい。
「ごめんエイト……つきあわせちゃって……フォッシャがひとりで探すから、エイトは休んでてほしいワヌ」
「……小さい頃、俺もカードを落としたことがあってさ。いつも持ち歩いてたもんだから、どこに落としたかぜんぜんわからなくて」
「カードを……?」
「あの時はすごい焦って、不安で仕方なかったよ。ま、結局日が暮れるまで探してたら見つかったんだけどさ。だから、わかるよ。大切なものがなくなったときの気持ちはさ」
それが大切なものなら、なおさらだ。
「フォッシャは俺がアザプトレと戦ったとき、助太刀してくれたんだ。今度は俺が助けなきゃな」
フォッシャが嬉しそうにニコッと笑みを浮かべたのがわかったので、俺は照れ隠しに目を逸らして頬をかく。
「そ、それに、カードを探してるやつをほっとくなんて、そんなのカードゲーマーの風上にもおけないぜ」
「……そうワヌね。……なんだか大丈夫な気がしてワヌ。きっと見つかるワヌよね」
そう言うフォッシャだが、すこし無理をして明るく振舞ってるのが俺にはわかる。
「すぐに見つかるよ」
だが次の日ジャングルを駆け回っても見つからず、今度は街で探すことになった。
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ラジトバウムの街に戻ると、あきらかにいつもより人の数が多かった。
道が混み合っていて、歩きづらいのでフォッシャには俺の頭に乗ってもらいながら散策する。
建物やお店など通りのあちこちに、『精霊杯会場(せいれいはいかいじょう)はあちら』と書かれた横断幕やポスターがあるのが目に付いた。
ほとんど人ごみに流されるように広場に出ると、どうやらここを中心に人が集まっているようだった。
なにかのイベントごとがやっているらしく、喧騒に包まれている。
「なんだこりゃ?」
「精霊杯っていう、カードの大会ワヌ。予選が開かれるみたいワヌねえ」
カードの大会、ねえ……
「予選会なのにすごい人だな……ギャラリーもいるし……もしかしてけっこうでかい行事なのか?」
「そりゃもう外国からも集まってくるワヌ。カードの大会っていうのはオドに捧げる儀式でもあるわけワヌから、カードショップで見かけたような遊びとは全く違うワヌよ」
大会、か。なんだか昔を思い出す。
試合に出場する選手だと思われる人たちがみんな、カードを持って、緊張の面持ちでいる。中には真剣な目をした者や、楽しそうに笑っている者も。
彼らにかつての自分の姿が、まるで重なるようにさえ見える。
もの思いにふけっていると、頭がかるくなり、フォッシャが地面に舞い降りる。
鼻をヒクつかせ、フォッシャはあたりを見回す。
「感じる……近いワヌ!」
首飾りの場所がわかるのか? 匂いで判別しているのか魔法のオドの気配で探っているのかはわからないが、俺も一緒になって周りを見回した。
「あの人が持ってるワヌ」
フォッシャの視線の先には、人ごみを両肩で掻き分け、えらそうに歩いている男がいた。
あのチャラ男っぽい、というかバンドのボーカルのような派手な髪型と衣装、見覚えがある。たしか、ギルドで俺に話しかけてきた男の連れだったか。
「オラどけ雑魚ども! 猛者がいるっつーからわざわざラジトバウムにきたってのによお……どいつもこいつもまるで骨が無え……」
機嫌が悪そうだが、しり込みしている場合じゃない。
俺は男に近づいて、声をかけた。
「ねえ、あんた首飾りか、首飾りのカードさいきん拾わなかったか?」
「あ? あー……っべー忘れてた。拾ったぜ」
思い出したという風に、後ろ頭をかく男。
「そうか。なら返してくれないか?」
男は俺の顔をじろと見ると、顔色がすこし変わった。男の口元がニヤ、と微笑を浮かべたのを、俺はみのがさなかった。
「……ああお前、たしかミラジオンから逃げ切ったとかいうスーパールーキーじゃねえか。……ふーン、なるほど、お前のカードかぁこれ」
首飾りのカードと俺をの顔を交互に見て、ニヤニヤと男は楽しそうに笑う。
「で、お前のもんだって証拠はあんのか?」
「証拠……だって?」
「使えるかどうかは微妙だが、こういうのは宝石好きは高く買い取ってくれるんだよな~」
この野郎……。なんのつもりだ? わざと挑発してるのか。
「ぐぬぬ……こいつ……オドの天罰がくだるワヌよ……!」
「おちつけ、フォッシャ。ここは冷静にいこう」
「そ、そうワヌね……おちついて対処するワヌ。警察にたのんで……」
「お前も結闘士のはしくれなら、勝負に勝って取り返してみろよ。スーパールーキーさんよ」
男は俺に向かって言った。あからさまな挑発だ。
「俺はカードを数枚しか持っていない。あんたとやりあうのは無理だ」
「なら3on3でやりゃあいい。この大会予選と同じルールだ。カードが4枚あればできる。さすがにそれくらいはあるだろ?」
4枚か。それならたしかにある。
「ま……お前みたいな弱腰(よわごし)クンには、ヴァーサスなんか無理だろうけどな」
ブチッ、と俺の中でなにかが切れた音がした。
男の余裕気な薄ら笑いがさらに俺をイラつかせ、拳がわなわなとふるえる。
「やってやろうじゃねえか……この野郎!!」
「ちょっ、エイト!?」
「そのカードは大切なものなんだ。俺が勝ったら、そのきたねえ手でさわったことを謝ってもらうぜ!」
「いいねえ。そうこなくちゃ。念のため確認しておくが、本当にこれはお前のだよな? 女が好きそうなデザインに見えるが……」
男は首飾りのカードをまじまじと見て言う。
「それは俺のじゃない。ここにいる彼女のなんだ」
「……はあ? なんだその……その妙なちんちくりんの……生き物は」
みょ、妙なちんちくりん。たしかに最初は俺も同じようなことを思ったけどさ。
「冗談はいい。どうせ彼女へのプレゼントとかなんだろ? うらやましいねえ。ああ、そうだ。これから大会の予選があるから、お前との勝負はあとだ」
「予選?」
そういえば、ここでカードの大会が開かれるんだったか。こいつはそれに参加するということか。
「なに心配するな、約束してやる。俺に勝ったら返してやるよ。じゃあな、スーパールーキー」
男は言うだけ言って、軽快に去っていった。
それはそうと、となりのフォッシャからただならぬ怒りの波動を感じる。
「前言撤回(ぜんげんてっかい)するワヌ……」
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