カードワールド ―異世界カードゲーム―

イサデ isadeatu

文字の大きさ
上 下
24 / 169
ラジトバウム編

9話 フォッシャと野宿

しおりを挟む
 しらべてみると、スライムビートルとの戦闘で左腕が折れているらしかった。

 町に戻ってとりあえずフォッシャが三角巾を使ってそれらしい対処をしてくれた。
 添え木と包帯で応急処置はしたが、さすがにすぐ完治とはいかない。
 最初はフォッシャのあの獣手足ではぎこちなく、面倒になったのか全身包帯巻きにされたのだが、そんなギャグで治ってくれるほど骨折は甘くない。
 念のため回復薬をたっぷり塗りたくったので大事にはいたらないはずだ。
 とフォッシャは言うのだが、いまいち心配は残る。

 それに治療(ちりょう)道具を揃えるのに、せっかく成功したクエストの報酬はほとんど使ってしまった。

「回復薬、高かったワヌね……」
「……おかげで野宿になっちまったな」

 もう日は沈み始めている。
 ジャングルの入り口のあたりで、俺たちはキャンプと言う名の野宿をしていた。

 オドの魔法の力を使いこなせていないうちから、もろに攻撃をくらったのが良くなかったらしい。

 フォッシャに謝ろうとおもったとき、フォッシャはすくと立ち上がって、力強く言った。

「あしたから挽回ワヌ!」

「……そうだな」

「フォッシャ、今日は疲れたから早く寝るワヌね。おやすみ……」

 フォッシャはそう言って、焚き火の近くで丸まると、すぐにぐーぐーと寝息を立て始めた。
 今日は俺のせいで気苦労をかけたんだろうな。
 フォッシャのおかげで学ぶことがたくさんあった。あしたから、もっとがんばろう。
 そう決意し、俺もすぐに眠りに落ちた。

 空腹のせいなのか腹の調子が悪いのか、お腹の違和感ですこし目が覚めてしまった。
 ねぼけながらあたりを見回すと、フォッシャの姿がない。
 そんなことはなく、毛布にくるまって隠れていただけだとすぐにわかったのだが、奇妙なものが目に付いた。
 見間違えだろうか。フォッシャが寝ているはずの毛布の下から、かわいらしい人間の女の子の顔と手足が出ている。

「うわああ!?」

 驚きのあまり俺は奇声をあげてしまい、それで起きたのか女の子も目を覚ました。

「ん……どうしたワヌか……?」

 たしかに人間の女の子に見えるが、声も喋り方もフォッシャのものだった。服装も、ふつうの服だがデザインがフォッシャの毛色や毛柄によく似ている。

「お、おまえ……? フォッシャ、なのか……!?」

「……え? ……あっ……」

 俺の反応に、女の子は顔を赤らめて、手で自分の体を隠すように覆った。

「うん……」

 小さく、フォッシャはこくりと頷いた。
 肩にかかるかからないほどの短くふわっとした、やわらかそうな髪。恥じらいのある綺麗な瞳(ひとみ)。透き通った手足。
 だがよく見ると、フォッシャと同じふりふりした尻尾や獣耳もやや小さくなっているがくっついている。

 この街にきてから驚いてばかりだな。

「えーっと……」

 はいそうですかと飲み込めるはずもなく、混乱する。
 あの犬だか猫だかわからない不思議な生き物のフォッシャが、このかわいらしい女の子?

「わ、わたし……ヘンな体質だよね」

 そんなこと聞かれたってこの世界の常識をなにも知らない俺に答えられるわけがないんですよね。

「……そう、かもな……」

 と、なんとも歯切れの悪い受け答えになってしまった。

「俺は別に気にしない」

 率直な気持ちを言ったのだが、フォローしたような形になる。

「……本当?」

 でもそれで良かったのだろう。フォッシャは恥ずかしがりながらも声には嬉しさがこもっているような気がした。

「……夜になるとだんだんヒトの姿になるの。朝になるとまたいつもの姿にもどる。これがフォッシャの……わたしの一族の特徴……なんです」

「へー……」

 俺がフォッシャの尻尾と耳をジロジロ見ていると、すぐに気づいたのか頭を手で覆(おお)い尻尾も毛布に隠した。

「は、恥ずかしいから変わるところは見せられないワヌよ」
 なんだか可愛らしくて、思わず口元がゆるんでしまった。
 フォッシャが女の子だってことすらぜんぜん知らなかったな。

「……明日も早いし、俺はもう寝るな」

 俺にとって、フォッシャは心強い相棒だ。それは変わらない。

「……おやすみ……ワヌ」

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」 優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。 傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。 そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。 次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。 最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。 しかし、運命がそれを許さない。 一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか? ※他サイトにも掲載中

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...