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ラジトバウム編

2話 精霊の古都ラジトバウム

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 目をさますと、みしらない部屋の中にいた。
 節々が痛むカラダをベッドからおこし、あたりをみまわす。

「ここは……」

 おそらく民家だろうか。部屋にはタンスやカーペットがある。壁に飾られた額縁がくぶちには、ハニワに似た絵がかざってあった。
 床に置いてあった水桶の水に、自分の顔がうつる。頭に包帯がまかれていた。

 これが、俺?

「おお。起きたか」

 ドアが開き、そこから出てきた白ひげの老人がそう言った。あまり見慣れない、ゆったりとした民族衣装のようなものを着ている。

「お前さん、北にある雪村のほうからやってきたみたいじゃったぞ。山のふもとで、ボロボロの姿で倒れてたところを、さる冒険士のお方が見つけたんじゃ」

 老人が窓をゆびさす。
 部屋の窓の外に目をやると、下には高層ビルなどはなく平坦な街が広がっていた。遠くに雪山も見える。

 それだけなら俺の地元ととも別に変わらないのだが、建物のどれもが妙にボロいというか、古い西洋風だという印象をうける。
 こんな街は俺のいたところにはなかったはずだ。ここは、どこだ?

 それより、おかしいな。記憶に混濁こんだくがある。
 ここに来る前の自分の姿がよく思い出せない。無職だったような気もするし、歳ももっとオッサンだったような気もする……。

 さっき水桶にうつった自分は、20歳かそこらの青年だった。だが本当にそれが俺なのか、確信がもてない。

 俺はここまでの記憶を思い出そうと頭の包帯をさわる。

 カードショップに行って、そこでおかしなカードを見つけて、それで……

 やっぱりあれは現実だったのか……?

 混乱する俺を、老人は心配そうに見つめている。

「手当てしていただいで、ありがとうございます」

「お礼はあのコに言ってやってくれ」

 あけっぱなしになっていた部屋のドアの陰に、小さな女の子がかくれていた。じっとこちらを見ている。

 可愛らしい光景に心が和む。まだ10歳とかそのくらいの年齢だろう。
 こちらを警戒しているのか恥ずかしがっているのか、それ以上近づいてはこない。

「わしの孫でな。医学の才能がある有望なコなんじゃ」

 医学、というのは医療の勉学ということか。

「ありがとう」

 お礼を言うと、女の子はしゅっとひっこんでしまい姿が見えなくなった。

「わしはジェルという。このラジトバウムの、いちおう町長をやっとるんじゃ。困ったことがあったらなんでもいいなさい」

「はい。恐縮です」

 でもよかった。この人はいい人みたいだ。

「それで、なにがあったのかね?」

 老人の問いに俺はすぐには答えられなかった。

「異世界から来たってことはおぼえてるんですけどね……」

「は?」

 面食らったかのように町長さんは『何言ってんだこいつは?』と言う表情でこちらを見る。

「そ、相当強く頭を打ったみたいじゃな」

 すると突然、町長さんが心臓を抑えて苦しそうにしはじめた。
「うっ、ぐっ……」

 咳き込む町長さんに俺はあわてる。ヘンなことを言ってしまったせいで驚かせてしまったのだろうか。

「ああ……心配いらん。ところで、お前さんも天変地異の生き残りかい?」

 俺がなんとも言えずに黙っていると、フムと言って町長さんは部屋にある棚に向かう。

 ハニワに似た像の前で止まると、
「精霊、イール像」
 とつぶやいた。

「これは代々我が家に伝わる家宝でのう。礼節を守る者にオドの祝福を授けてくださると言われておるんじゃ。さいきん天変地異があったことは知っておるかね?」

「天変地異? いや……」

「最近災害や超常現象があいついでな。たとえば火山が爆発したり、嵐がつづいたり……隕石が落ちてきたりしたんじゃ」

「隕石……」

「じゃが、ここラジトバウムはほとんど無傷と言っていいほど被害を受けずに済んだんじゃ」

 俺は話を聞きながら、いつまでも座っているわけにもいかないのでベッドから立ち上がる。

「この像には悪を祓う力があるという。きっとわしらを守ってくれたんじゃ」

「そうなんですか」

「せっかくだからさわっておきなさい。なにかご加護があるかもしれん。特別じゃぞ」

「お言葉に甘えて」

 棚に近づいてみる。いつの間にかさっきの女の子がまたドアに隠れてこちらの様子を伺っていた。
 俺が像にさわった途端、ひびが入り、灰と化す。

「ええええ!?」

「ぞ、像がああああ?! 我が家の家宝がぁぁぁっ」

「あわわ……」

 女の子まで顔を青くしている。ドッキリかなにかではないらしい。

「す、すみません! なんかさわり方がまずかったのかな!?」

「な、なんてことじゃ……ゾウに踏まれても壊れないといわれておるほど丈夫なはずのに」

「……像だけに……」

 背後から女の子の声がボソボソと聞こえる。ギャグなのかもしれないが、俺にはそれを拾う余裕はなくただひたすら謝りつづけた。

「……も、申し訳ない……」

「いやあ君のせいじゃない。きっと天変地異のことで、加護の力を使い果たされたんじゃろう。形あるものはいつかは滅びる。家宝よりも、君の命が助かったことがなによりじゃよ。きっとイール像様もそういうじゃろう」

 助けてまでもらったのに、なんだか申し訳ない気持ちになるな。

「しばらくはここに寝泊まりしていきなさい。行く当てもないのじゃろう?」

「助かります。だけど……あまりお世話になるわけにもいきません。もう体も動きますから」

「そうかの? もう少し休んだほうがいいと思うんじゃが……まあ街の人はみんな親切じゃし、困ることはそんなにないじゃろうが」

 街を見て回ろう。話はそれからだ。
 最悪の場合、生活の手段も確保しないとな。

 ふとポケットに違和感を感じ、まさぐってみる。

「これは……」

 なにかの装置だろうか。手のひらサイズの機械だった。
 まさかこれは夢で、このボタンを押したら元の場所に戻れるとかそういうことじゃないだろうな。
 しかし押し込み式のボタンを押しみても、なにも反応がない。壊れてるみたいだ。

「ほお、珍しい機械じゃな。もしやお主、メカニア科国から……?」

 俺は首を横に振る。

 この装置自体のことはなんとなく思い出し始めた。たしかテレポートできる魔法の道具。
 でも、なんでこんなもの俺が持ってるんだ?
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