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二十時間目 お悩み相談

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「じゃ、いただきます」
「どうぞー。口に合うといいですけど」

 白い湯気がのぼる炊きたてのお米をスプーンで掬い、それをスパイスの香りが効いたスープカレーに浸して口に運ぶ。真っ先にスパイスの風味が鼻を抜け、そのあとに香ばしいチキンの味が口全体に広がる。グリルでこんがりと焼かれたパリパリのチキン。素揚げされたピーマン、ナス、れんこんもジューシーだった。じゃがいもはじっくりと煮込まれ、ほろほろと口の中で溶けていく。野菜の甘みが引き立つスープは、ちょっと辛めで大人の味に仕上がっていた。

「初めて食べたけど美味いな、これ」
「普通のカレーよりもちょっと手間がかかるけど美味いでしょ。もちろんルーは市販のだけどさ」
「市販だとしても、俺には作れそうもないな。野菜もたっぷりだし、何杯でもいけそうだ」

 はふはふ、と白飯を頬ばりながら籐矢はスープカレーに夢中になっている。簡単なサラダも作ったのだが、そちらにはまだ箸はつけていないようだった。
 しかしこんなにも夢中になって食べてくれるのなら、作った甲斐があるというものだ。真城はそんな様子を見てじんわりと嬉しくなった。

「少しだけどおかわりもありますからね。それにしても、先生がそんなにがっつくなんて意外だな」
「まさか真城がこんなに料理できるだなんて思ってなかったからな」
「そのくせ得意料理を作ってくれだなんて言うから、俺めっちゃ悩んだんだからね」
「得意料理なら失敗はないかと思ったんだ。変にリクエストして、不味いものがでてきたら俺も対応に困るからな」
「あ、先生ひっど」

 夕食を食べ終わったら真城が洗い物までやってくれた。しかもそのあとにキンキンに冷えたビールとちょっとしたおつまみまで出してくれて、至れり尽くせりだった。泊まらせてもらってる負い目なのか、本当に高校生とは思えない対応力だ。

「あんなに美味いものをご馳走になったんだ、金を払うと言っていたが気にするな。むしろこちらが払わないといけないほどだ」
「そこまで思ってくれてるんだ。俺、先生の胃袋掴んじゃった?」
「まあ、ちょっとだけな」

 籐矢は腹も満たされ、上機嫌になりながらビールを喉に流し込む。真城を家に泊めているというのに、全くなんのストレスにもなっていない。むしろ居心地が良いくらいだ。

「先生、今日の朝から首が痛いんじゃない? 俺が先生のベッド使っちゃったから……ね、マッサージしてあげる」
「え、いや、そこまでしなくていいんだが」
「いいからいいから」

 ぎゅむ、ぎゅむ、と首周りを解されていく。あまり人に肩もみをされたことのない籐矢は、これが上手いのか下手なのかすら分からない。ちょっと身を固くしながら、されるがままになっていた。

「先生、もっとリラックスしていいですよ。日頃疲れてるんだね。すごく凝ってる。痛かったら言ってくださいね」
「ああ……」

 真城の声は暖かい毛布みたいだ。柔らかく包んで、じんわりとあっためてくれる。はじめは固くなっていた体も、そのうちとろとろと溶けてしまっていった。瞼が重くなり、まどろんでいる籐矢を見た真城は、ここで本題を切り出した。

「先生、気持ち良い?」
「ああ、いいな……」
「なら良かった。先生あのさ、俺の相談に乗ってくれる?」
「ああ、いいぞ……」
「消えちゃったキスマーク、先生が付けてくれない?」
「ああ、いい…………あぁ!? なんだって!?」
「やったー。先生あとでお願いね」

 真城は特に凝っている右首をごりっと強めに押す。あまりの痛さにびくりと肩が上がり、声がつまってしまった。

「いっ! ま、待て真城! その相談は無理だ!」
「先生さっきいいって言ったじゃん。ちょっと跡つけるだけでいいからさ」
「そんなのダメだ! 俺はお前の先生なんだぞ!」
「俺さ、今SNS上で監視されてんの。ずーっとだよ。毎日何件もDMが届くし、今日だって十件以上ヤりたいだの触らせてほしいだの、そんなメッセージばっか届くんだよね」
「……そうなのか」

 真城は肩を揉んでいた手を離し、椅子に座っている籐矢の前に移動する。

「最近ほんっとしつこいんだよ、あいつ。俺のフォロワーにまで喧嘩腰だしね。俺タチしかやらないって言ってんのに、抱きたいとか言ってくるしさ」
「それは迷惑な話だな。でもそれとこれとは話が別だろう」
「そんなことないよ。俺が誰か別の人とやったってなれば少しは大人しくなるはずだよ。タチに飽きたんじゃないかって思われてるんだ」
「いや、でも俺じゃなくたってだな……」

 真城は籐矢の肩を掴む。今度はマッサージではなく、説得させようというポーズだった。

「じゃあ先生のベッドと、半裸で寝そべる先生の写真撮らせてよ。後ろ姿で特定されないようにするからさ」
「それは本当に勘弁してくれ!」
「じゃあ俺、どうしたら……? ネットストーカーに犯されて、もう学校になんて行けない身体にされちゃうんだ……」

 籐矢は頭の中でイメージしてみる。ネットストーカーにこのマンションを特定され、待ち伏せされていた真城がワゴン車に連れ去られていく。いくら高校生で良い肉体をしているといっても、大人には敵わないだろう。もしかしたらものすごいマッチョかもしれないし、武術の心得がある相手かもしれない。
 そんな相手に真城が組み敷かれ、嫌がって叫んでも誰も助けてもらえない。
 さすがにそれはまずい。しかも同じマンションに住む籐矢だって、飛び火を受ける可能性だってある。

「う……っ、ま、まあ、跡付けるだけで真城が助かるなら、協力してやらんでもないぞ」
「やった、先生ありがとう」



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