14 / 21
十四時間目 からかい ※微
しおりを挟む雨はまた強さを増し、うるさく窓に打ち付けている。外はすでに真っ暗で、街灯の明かりが視界不良の雨の中滲むように照らしていた。
湿度の高い教室に隣同士。意識せずとも、真城の柔らかい匂いが鼻腔を付く。反対に自分の匂いも嗅がれているのかと思うと、内心とても気になってしまった。
「先生、今日の分はこれで終わりですか?」
「ああ。真城は理解してしまえば応用にも引っかからず解くことができるから、教え甲斐がないな」
「素直に褒めてくれていいんですよ? 俺、本当は頭良いのかも」
「ほう、なら次のテストは満点取るんだぞ」
「えー、それは厳しすぎるでしょ」
真城は小さく肩を揺らして笑う。教科書を閉じて片付けをしながら、籐矢は腕時計に視線をやった。時間はまだあと少しだけ残っていた。
「真城は家でどれくらい勉強しているんだ?」
「俺が家で勉強してないってことは、先生だってよく知ってるでしょ」
「いや……そんなこと知らん」
「じゃあ色々教えてあげますよ。何か聞きたいこととかあります? 先生になら特別に教えてあげても良いですよ」
自分のことを聞かれるよりは、相手のことを聞いたほうがまだ良い時間稼ぎにはなるだろう。籐矢は少し考え、それから口を開いた。
「じゃあ家族構成は?」
「母と兄と俺ですね。兄ちゃんはもう一緒に住んでないから、今は母さんと二人暮らし」
「へえ……じゃあ、好きな食べ物は?」
「んー、辛くないカレーかな。辛いのは苦手です」
「ふうん。じゃあ趣味は?」
「ねえ、全然聞いてないでしょ。……趣味は男漁り。先生も俺とやってみない?」
「へえ、じゃあ…………ん、んあぁ!? お、お前、何言ってるんだ!」
動揺する籐矢を楽しげに見つめる真城は、ぐっと距離を詰めてきた。肩で押され、じわじわと体が傾いていく。
「俺、結構本気なんだけどな。先生がノンケだとしても大丈夫、痛くなんてしないよ。ゆっくり解して、今まで味わったことのない気持ち良さを教えてあげることだってできる」
「い、いらん! 大体、男相手に興奮するわけがない!」
「うそつき。ね、先生、随分と汗ばんでますね。肌寒いくらいなのに、どうしたんですか?」
つつ、と真城の指が輪郭を撫でていく。普段この指で他の男を気持ち良くしているのだろう。しなやかな手つきは女性のような柔らかさを連想させた。
「やめ、ろ、俺は本当に、ゲイじゃないんだ……!」
「そうかな? 素質ありますよ、先生。俺はね、さっきからずっと先生の匂いに興奮してたんだ。先生の匂いってえっちだよね。男を誘う匂いしてる」
真城の声が低くなる。心地が良い重低音が内臓にじくじくと沁みわたっていった。なんだか本当に真城に興奮しているみたいだ。洗脳されているかのように、息が上がって熱くなっていく。スーツのボタンを外されたことにも気づかず、真城の手のひらがシャツ越しに触れていた。
「ちがう、真城、お前、欲求不満だからって、手を出す相手はちゃんと選べ。昨日、何人かに誘われてただろう」
「あ、先生、昨日の俺のつぶやき見ててくれたんだ。嬉しいな。確か六人かな、それくらいに誘われたんだけど、なんだかパッとしなくて全員断っちゃいました」
だから、俺、今すごく欲求不満なんです。
吐息が耳にかかり、籐矢はびくりと肩をすくめる。なぜこうなった。どうしたら良いんだ。
頭の中ではぐるぐると同じ疑問が駆け回っているし、それに伴ってか身体は全く抗おうとしていない。硬直するばかりの籐矢に、真城はボタンのすき間から指を二本差し入れた。
「乳首感じる人って、後ろでも感じることができるんだって。先生はどうかな、ここ、気持ちよくなれる?」
二本の指で挟まれた乳首を、ぴんと引っぱって弾かれる。それからくりくりと中指でこねられ、流石に真城の腕を力強く掴んだ。
「っ、やりすぎだ、この馬鹿!」
「…………あー、ごめんなさい、やりすぎました」
真城は籐矢の顔色を見て、それからパッと手を離す。籐矢は体中が脈打つほどに逆立っていて、今ものすごく暑かった。
時計を見た真城は鞄を肩にかけて教室を出ていく。怒っているのか、それとも不貞腐れているのか分からなかったが、何も言わずに行ってしまった。
強く言いすぎてしまった。しかしそれもこれも、真城が大人をからかうから、つい本気になってしまったのだ。
「くそ……真城のやつめ……」
こんな状態じゃ、しばらく教室から出られそうにない。籐矢は机に突っ伏して、ただ静かに時間が過ぎるのを待つばかりだった。
0
お気に入りに追加
43
あなたにおすすめの小説
性的イジメ
ポコたん
BL
この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。
作品説明:いじめの性的部分を取り上げて現代風にアレンジして作成。
全二話 毎週日曜日正午にUPされます。
三限目の国語
理科準備室
BL
昭和の4年生の男の子の「ぼく」は学校で授業中にうんこしたくなります。学校の授業中にこれまで入学以来これまで無事に家までガマンできたのですが、今回ばかりはまだ4限目の国語の授業で、給食もあるのでもう家までガマンできそうもなく、「ぼく」は授業をこっそり抜け出して初めての学校のトイレでうんこすることを決意します。でも初めての学校でのうんこは不安がいっぱい・・・それを一つ一つ乗り越えていてうんこするまでの姿を描いていきます。「けしごむ」さんからいただいたイラスト入り。
ダンス練習中トイレを言い出せなかったアイドル
こじらせた処女
BL
とある2人組アイドルグループの鮎(アユ)(16)には悩みがあった。それは、グループの中のリーダーである玖宮(クミヤ)(19)と2人きりになるとうまく話せないこと。
若干の尿意を抱えてレッスン室に入ってしまったアユは、開始20分で我慢が苦しくなってしまい…?
保育士だっておしっこするもん!
こじらせた処女
BL
男性保育士さんが漏らしている話。ただただ頭悪い小説です。
保育士の道に進み、とある保育園に勤めている尾北和樹は、新人で戸惑いながらも、やりがいを感じながら仕事をこなしていた。
しかし、男性保育士というものはまだまだ珍しく浸透していない。それでも和樹が通う園にはもう一人、男性保育士がいた。名前は多田木遼、2つ年上。
園児と一緒に用を足すな。ある日の朝礼で受けた注意は、尾北和樹に向けられたものだった。他の女性職員の前で言われて顔を真っ赤にする和樹に、気にしないように、と多田木はいうが、保護者からのクレームだ。信用問題に関わり、同性職員の多田木にも迷惑をかけてしまう、そう思い、その日から3階の隅にある職員トイレを使うようになった。
しかし、尾北は一日中トイレに行かなくても平気な多田木とは違い、3時間に一回行かないと限界を迎えてしまう体質。加えて激務だ。園児と一緒に済ませるから、今までなんとかやってこれたのだ。それからというものの、限界ギリギリで間に合う、なんて危ない状況が何度か見受けられた。
ある日の紅葉が色づく頃、事件は起こる。その日は何かとタイミングが掴めなくて、いつもよりさらに忙しかった。やっとトイレにいける、そう思ったところで、前を押さえた幼児に捕まってしまい…?
風邪ひいた社会人がおねしょする話
こじらせた処女
BL
恋人の咲耶(さくや)が出張に行っている間、日翔(にちか)は風邪をひいてしまう。
一年前に風邪をひいたときには、咲耶にお粥を食べさせてもらったり、寝かしつけてもらったりと甘やかされたことを思い出して、寂しくなってしまう。一緒の気分を味わいたくて咲耶の部屋のベッドで寝るけれど…?
山本さんのお兄さん〜同級生女子の兄にレ×プされ気に入られてしまうDCの話〜
ルシーアンナ
BL
同級生女子の兄にレイプされ、気に入られてしまう男子中学生の話。
高校生×中学生。
1年ほど前に別名義で書いたのを手直ししたものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる