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六時間目 籐矢の秘密
しおりを挟む『今日の晩ごはんはお好み焼き』
『これからホラー映画見る 俺ホラー苦手なんだけどな』
『怖くてクッション離せなかったw』
『昨日DMで構ってくれた人ありがと!』
『そろそろ寝るわ おやすみー』
今日のマオはよく呟いている。多分、誰かの家へ遊びに行ってたのだろう。いつもと違う背景、いつも違うテーブル。ホラー映画が苦手なのに一人で見るとは思えないし、隣にいる誰かと一緒に見たのだろう。
けれどおやすみの呟きと共に貼り付けられていた写真は、見覚えのあるいつもの部屋だった。Tシャツと下着だけを着た格好のマオが、掛け布団を剥いでベッドの上で横になっている。もちろん顔出しはしていない。はだけたTシャツからは、やっぱりキスマークが見え隠れしていた。
この体に触れた人がいるのだ。DMで卑猥なやりとりをした人がいるのだ。籐矢はスマホから目を反らす。なぜだか直視することが躊躇われた。心を落ち着かせるために寝室へと向かう。籐矢が最も心を安らげる場所、それはこのクローゼットの中にあった。
綺麗に整えられた本棚に、ずらりと漫画が並んでいる。表紙にはどれもこれも男ばかり描かれていて、半裸や頬を染めてる過激なものもあった。
そう、籐矢は隠れ腐男子である。BLにハマり、漫画やアニメ、果ては二次元の同人誌にまで手を出しているガチめな腐男子であった。
とはいえ、籐矢の腐男子隠蔽術はなかなかのものだった。部屋には一切のオタク要素を持ち込まず、このクローゼット内のみにとどめている。職場でももちろん、プライベートでの隠蔽も完璧だ。オタクが聞かれて困る質問第一位の「お休みの日は何をして過ごされていますか?」という強敵にも、堅苦しい数学教師という肩書きも相まって「読書や、映画鑑賞です」という回答はしっくりくるらしい。
本当は読書ではなくエロBL本漁りだし、映画鑑賞はアニメ、BLCD鑑賞なのだが。
籐矢はその欲望が詰まった本棚から、一冊の漫画を取り出す。生まれて初めて読んだ、人生のバイブルとなるBL本「背徳スチューデント」は、いつ読んでも心の癒やしになるものだった。
この作品に出てくる受けの子、タマキという少年に似ているのがマオなのだ。まずは身長、体重が一緒だということでマオのアカウントにたどり着いたのだが、なんとその言動やかわいいところもそっくりだった。
だから勝手に、マオはタマキと同じようにふわふわした髪型のかわいい男子だと思っていた。好きな人としかセックスしない、純情な男なのだと思っていた。
けれど違った。マオは誰とでもセックスできるようなスケベ男だったのだ。
籐矢は漫画を開く。タマキが恋人のセイヤと部屋にいるところだった。甘くとろけるようなキスをして、そのまま優しくベッドに倒される。心で繋がっているセックスが好きだ。この二人は世界で唯一の存在なのだ。お互いじゃなきゃだめだ、生きていけない関係が良い。
籐矢は結局最後まで読んでから漫画を閉じる。
マオはタマキではないのだ。分かってはいるけれど、どうしたってその違和感が抜けなかった。
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