3 / 21
三時間目 妄想と現実
しおりを挟むもう少しで二年四組に着くという時に、隣のクラスの生徒たちが向かいから走ってきた。つい先ほどの授業は体育だったのだろう。ジャージ集団が横を通るたびに汗のにおいもすれ違う。
一応、籐矢も先生という立場なので廊下は走るなよ、と一言かけるが、休み時間もそろそろ終わりを告げそうなのだ。走らないと準備が間に合わないのだろう。
特に二年担当の体育教師、野田先生は、時間をオーバーしてでもキリの良いところまで進めるタイプの先生だった。それで籐矢が担当する数学にも間に合わなかったことが何度かある。かといってそれを野田先生に伝える勇気は持ち合わせていなかったが。
約一クラス分の生徒とすれ違い、そして最後尾に遅れてぽつんと歩いていた生徒と目があった。いや、正確に言えば目ではない。彼は前髪で目が隠れてしまっている。
しかもジャージの裾で顔の汗を拭っている彼の脇腹がちらりと見えてしまった。そこには縦に三つ並んだホクロと、大きめのキスマークがあったのだ。
籐矢は驚嘆して彼の顔を見る。どこを見ているのか分からない。感情も全く読めなかった。
周りには友だちやクラスメートもいなく、明らかに地味なタイプの生徒だった。正直、あのマオとそっくりなホクロとキスマークを目撃したというのに、彼がマオ本人だとは到底結びつかない。ありえない。籐矢は思わず足を止めていた。
「お前……確か三組の真城だろう?」
「そうですけど……」
「それ……あ、いや、何でもない」
籐矢は視線をキスマークから外し、口を噤む。なんと説明していいのか分からなかったのだ。お前、まさかゲイなのか?とか、裏垢作ってセックスしてるのか?などと聞けるはずもない。
というか、そんな質問をぶつけるのはこちらにも妙な誤解を生みかねない。もし質問をして違っていた場合のことを考えると、教師人生が終わってしまう可能性だってある。
「…先生、これ、気になります?」
籐矢の視線を感じ取ったのだろう、生徒の真城は指でジャージとTシャツを持ち上げた。
その仕草がマオのアイコンと重なって見えて、籐矢は気づかぬ内に生唾を飲み込んでいた。
「いや…………不純異性交遊もほどほどにしろ。ましてやそれを先生に見せつけるなどもっての外だ」
「不純異性交遊じゃないですよ、これ」
真城は籐矢を見上げる。相変わらず表情が分かりにくいが、うっすら笑ってるように思えた。
確かマオのプロフィールに身長170cmと書いてあったことを思い出した。そして真城も多分それくらいの身長のような気がする。籐矢は詰められていく真城との距離に、内心焦りを感じていた。
「蚊に刺されただけです。じゃあ俺、遅れたら嫌なので行きますね」
真城はすぐ横を通って三組の教室に入っていく。
たかが一生徒。ガタイが良いわけでも、怖い顔したヤンキーだというわけでもない、普通の地味な生徒だ。だというのに、さっきの数秒間、捕食されてしまう寸前の小動物のように身動きがとれなくなってしまっていた。圧力、というか、圧倒的な経験の差とでもいうのだろうか。
「……今は冬なんだがな」
籐矢が肌寒い廊下で呟いた言葉は、誰に聞かれることもなく消えていった。
0
お気に入りに追加
43
あなたにおすすめの小説
性的イジメ
ポコたん
BL
この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。
作品説明:いじめの性的部分を取り上げて現代風にアレンジして作成。
全二話 毎週日曜日正午にUPされます。
山本さんのお兄さん〜同級生女子の兄にレ×プされ気に入られてしまうDCの話〜
ルシーアンナ
BL
同級生女子の兄にレイプされ、気に入られてしまう男子中学生の話。
高校生×中学生。
1年ほど前に別名義で書いたのを手直ししたものです。
保育士だっておしっこするもん!
こじらせた処女
BL
男性保育士さんが漏らしている話。ただただ頭悪い小説です。
保育士の道に進み、とある保育園に勤めている尾北和樹は、新人で戸惑いながらも、やりがいを感じながら仕事をこなしていた。
しかし、男性保育士というものはまだまだ珍しく浸透していない。それでも和樹が通う園にはもう一人、男性保育士がいた。名前は多田木遼、2つ年上。
園児と一緒に用を足すな。ある日の朝礼で受けた注意は、尾北和樹に向けられたものだった。他の女性職員の前で言われて顔を真っ赤にする和樹に、気にしないように、と多田木はいうが、保護者からのクレームだ。信用問題に関わり、同性職員の多田木にも迷惑をかけてしまう、そう思い、その日から3階の隅にある職員トイレを使うようになった。
しかし、尾北は一日中トイレに行かなくても平気な多田木とは違い、3時間に一回行かないと限界を迎えてしまう体質。加えて激務だ。園児と一緒に済ませるから、今までなんとかやってこれたのだ。それからというものの、限界ギリギリで間に合う、なんて危ない状況が何度か見受けられた。
ある日の紅葉が色づく頃、事件は起こる。その日は何かとタイミングが掴めなくて、いつもよりさらに忙しかった。やっとトイレにいける、そう思ったところで、前を押さえた幼児に捕まってしまい…?
風邪ひいた社会人がおねしょする話
こじらせた処女
BL
恋人の咲耶(さくや)が出張に行っている間、日翔(にちか)は風邪をひいてしまう。
一年前に風邪をひいたときには、咲耶にお粥を食べさせてもらったり、寝かしつけてもらったりと甘やかされたことを思い出して、寂しくなってしまう。一緒の気分を味わいたくて咲耶の部屋のベッドで寝るけれど…?
ダンス練習中トイレを言い出せなかったアイドル
こじらせた処女
BL
とある2人組アイドルグループの鮎(アユ)(16)には悩みがあった。それは、グループの中のリーダーである玖宮(クミヤ)(19)と2人きりになるとうまく話せないこと。
若干の尿意を抱えてレッスン室に入ってしまったアユは、開始20分で我慢が苦しくなってしまい…?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる