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二時間目 戸惑い
しおりを挟む本日最後の数学の授業は二年四組だった。今日は授業の初めに小テストを行う予定なので、そのプリントも忘れずに持ってきているのか確認する。籐矢は暖かい職員室の引き戸を開け、暖房の入っていないひんやりとした廊下に一歩を踏み出した。
二年四組へ向かっている最中も、籐矢の頭の中はさっきのキスマークのことでいっぱいだった。なにせマオは数あるいやらしい裏垢の中でも清純派なほうだった。ハメ撮り動画やフェラ動画、緊縛写真や精液ぶっかけ写真など、裏垢というのは過激なものをアップロードしている人が多い。そんな中、マオは自身の下着写真や絶賛鍛え中の腹筋、あとは何食べただとかどこ遊びに行っただとか、本当に裏垢なのかを疑うくらいにかわいい呟きばかりだった。
そんなところも籐矢には好感が持てた。ゲイではないので、見知らぬ人間のゲイセックスや精液を見せられても嫌悪感しかない。マオがゲイだから好きなのではない。その生き方や言動がかわいくて好きなのだ。
しかしそんなマオもやることはやっているのだ。どこか偶像のような、二次元のような存在だと思っていた彼が、実際に誰かと会ってセックスしている。しかも昨日だ。古い話ではない。
籐矢は自分でも自分の心が分からなくなった。好きなのに、推しなのに、どこか感傷に浸る自分がいる。けれど反対に、セックスしているマオを反芻するかのように何度も想像している自分もいる。自分はゲイではない。はずだ。
どんな風に抱くのだろう。相手は年上? 年下? マオはどんな風に笑い、どんな風に言葉をかけるのだろう。顔も声も知らないというのに、籐矢はついそんなことばかり考えてしまう。
あと数分で授業が始まる。冷えた廊下で、籐矢は押し出すようにため息を吐いた。
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