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第二章
ジェライト①
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あのあと自室に戻ると、ジェライトに頭をひっぱたかれた。
「あんた、何してんの!?我慢しなよ、いくらなんでも、」
「え…?」
「え、って。また出したでしょ」
「え…?」
「あー、もうダメだ。あんた、変質者決定。まず、風呂入れ。早く」
無理矢理浴室に押し込められ、下着をおろすとまた汚れている。出たことすらわからないって、どういうことなんだ?なんで?
自分のカラダなのに情けなくて涙が出てくる。
浴室の外からジェライトが声をかける。
「あんた、」
「ジェライト頼む、黙ってくれ」
「いや、ダメだろ。言うよ。あんたさ、今まで好き勝手に女を扱ってきただろ。最近じゃ、媚薬飲ませてやるだけやってポイ捨てしてたじゃん」
「…なんでも知ってるんだな、ほんとに」
「あんたが知らなすぎるんだよ。それが原因とは言わないけど、今までの反動でリアム相手に出ちゃうんじゃないのか?あんたはどうなのかわからないが、俺はアキラさんの匂いを嗅ぐと脳天に突き抜けるような快感が来るんだよ。そして出そうになるのがわかる」
「ジェライト、俺はなんにも感じない。感じないのに出るなんて、」
「泣くな!今まであんたが女相手にやってきた非道な行為の結果だと思え!あとはな、たぶん、魔力を使わなすぎだからだ」
「使わなすぎ…?」
「あんた、プラプラしてて、カラダも鍛えてないだろ。きたねぇカラダしやがって、ほんとに俺と同じ年かよ。誰も言わないのをいいことに、酒も飲んでるだろうが」
「酒はダメなのか」
「うちの両親は飲まない。王族の方々も、おまえ以外は飲んでないはずだぞ。酒飲むのは騎士団の方々が多いだろ」
「そう言えば、父上も、母上も飲んでなかった」
「別に絶対飲んじゃダメってわけじゃないだろうが、飲む必要がないなら飲むな」
「ジェライト…っ」
「泣くな!バカ!ほんとにバカだよ、あんた、みんな言ってくれてたのに殻に閉じ籠って。そのくせプライドばっかり高くて。決定を覆せるかわからないが、とにかくこんな状態で行けないだろ、セグレタリー国に。一発で死ぬぞ。リッツさんは、たぶん荒療治のつもりなんだろうけど、あんた、魔法の基礎の基礎すらない。初等部、魔術科に行ったのに何勉強してきたんだ!それともいっそ、魔物に喰われて死ぬか?あ?」
「そうする…もうダメだ…」
「おいこら、今までの傲慢俺様バカ王子はどこ行った!泣くな!とにかく、洗ってすぐに出てこい!今まで散々時間無駄にしてきたんだから、まずそこから改めろ!わかったか!返事!」
「…はい」
「早くしろ!」
「ジェライト、おまえもあんなにスカしてイヤなヤツだったのに別人みたいだな」
「うるさい、早くしろ!雷撃喰らわせるぞ!」
「すぐ出る…」
「泣くな!バカ!」
カラダを流してタオルを巻く。浴室から出て下着をつけると、ジェライトが、「姿見で見てみろ、自分のカラダ」と言って、自分も脱ぎ始めた。
「ジェライト、俺は男色の気はない」
「バカか!リアムは男だろ!男相手に無意識に射精してるやつが、何言ってやがる!そもそも、誰がおまえなんか相手にするか!比べてみろ!俺のカラダはアキラさんのなのに…!仕方ないから見せてやる!バカが!」
ジェライトの引き締まったしなやかなカラダに比べて、随分と貧相なカラダだった。貧相なのに腹は出ている。筋肉なんてついてない。ブヨブヨの、貧相なカラダ。
「あんたさ、自分にすら関心ないの?そんなカラダでよく恥ずかしくなく女抱けたね」
「…何も言われたことない」
「まぁ、二言目には王族、とか威張り散らしてるヤツに誰もなんも言わないよな。処刑されたりしたら困るし。あんたのために命かけんのヤダもんね」
「…もう、いい。セグレタリーに行く」
「だから、投げやりになるなよ!いいか、さっきも言ったけど、リアムは顔見ないんだよ。魔力見るの。魔力見て気に入ると、顔見るの。それで初めて相手の顔を認識するの。さっきも、あんたの顔見てないよ。色持ちだって言わなかっただろ」
「…言ってない」
「とりあえず、まず、今からやること決めろ。俺が付き合ってやる。あんた、一番強い特性炎だけど、どんぐりの背比べみたいなもんだ、汚いし。俺付きで、第二部隊に来い」
「え、」
「第一部隊に行ったら知らない間に吐精して捕縛されるぞ!」
「でも、」
「だから、さっき言っただろ!俺から話してやる、セグレタリーに行かなくていいように!そしたら父上が団長のままだからリッツさんだって長期旅行に行けるだろうが!おまえ、何かしらプレゼントしろ、リッツさんに」
「何かって、」
「セグレタリー国にあるリゾートホテルの宿泊券とかさぁ!リッツさんが、エカテリーナ様とのんびり過ごせる気遣いを見せろ!」
「俺、セグレタリー国に行ったことない」
「バカ!死ね!いままでほんとに何やってきたんだ!」
「ジェライト…っ」
「泣くな!俺が手配してやる、金はおまえが払えよ!わかったな!借金してでも払え!」
「…わかった」
「バカだバカだと思ってきたけど、こんなにバカだなんて。今まで女抱いてきたくせに、男相手に勝手に吐精しちゃう変質者だなんて」
「ジェライト」
「父上、ノックしてください。母上に言い付けますよ」
「ごめんなさい、やり直します」
ジークハルト様は一度消えてドアをノックした。
「どうぞ」
なぜかジェライトが返事をする。
「テオドール君、明日から行ける準備してね、」
「父上、この人無理です。俺が一から面倒見ますから。セグレタリー国は免除してください」
「免除って言っても、もう決まったんだよ、」
「父上、セグレタリー国に行ったらこの人死にますよ」
「うん、わかってるよ」
「だから、俺が鍛え直します」
「ジェライト、おまえ責任取れるのか」
「父上、責任てなんですか。俺は、こいつをバカなまま死なせたくない。死ぬにしても、カーディナル魔法国の王族としての自覚を持って死ぬべきだ。だいたい俺とアルマのこと、ナディール大叔父上とカイルセン叔父上に丸投げだったくせによく責任なんて言えますね」
「とられちゃったんだから仕方ないだろ!」
「じゃあ、こいつのことも諦めてください」
「諦める、とかいう対象じゃない」
「ですよね、死んでいいと思ってるんだから」
かなりの濃度で貶められている。しかし反論はできない。怖いし。
「死ぬだろうって、リッツさんに話してあるんでしょうね、父上」
「え?」
「おい、あんた、服着ろ、早く!」
ジェライトに睨み付けられ、とりあえず引っ付かんで着ると、腕を掴まれ「確認します」と飛んだ。
父上の自室の前に着く。ジェライトがノックすると「入れ」という声。すると、ジークハルト様もやってきた。
「ジェライト、落ち着きなさい」
「どうしました、父上。確認するだけですよ。顧問、失礼します」
「ジェライト?」
「顧問、この人なんですけど、」
「リッツさん、」
「父上!俺がいま喋ってますよね!母上に言いますよ!」
「でも、」
「父上は、もうわかってたんでしょ。俺は自分の制裁しか興味なかったから見もしなかったけど、父上はこいつを見た上で、わかってて、それでも引き受けたんでしょ。顧問に説明した上で」
「なんの話だ、ジェライト」
「リッツさん、」
「父上?そんなに母上に怒られたいんですか?今から呼んでもいいんですよ?」
すると、ジークハルト様は突然父上に向かって土下座した。
「リッツさん、申し訳ありません!」
「…ジーク、なんなんだよいったい?」
「顧問、この人、セグレタリー国に行ったら確実に死にますけど、それでも明日から行かせていいですか」
「テオドール、どういうことなんだ?」
「顧問、話してるのは俺です!父上から、この人が死ぬかもしれない可能性の説明は受けた上でセグレタリー国に出すと決めたんですよね」
「え?」
「リッツさん、今から説明します」
「説明しないで行かせて、死んだって報告するつもりだったんですね」
「だって、なんで俺が一年も面倒見なきゃならないの、ルヴィと離れて!行って3日もすれば死ぬだろうから、」
「ジーク、座れ」
「…リッツさん、」
「座れ。ジェライト、テオドールも座れ」
しぶしぶという感じで椅子に座るジークハルト様。
俺は座る前に父上に頭を下げた。
「父上、これまで…言って済むことではありませんが、数々の無礼な態度、申し訳ありませんでした。バカですみません、…っ」
「泣くな!まだなんも言ってないのに、泣くな!バカ!」
「ジェライト、だって、」
「…おまえら、何があったの?ジェライトが制裁したんだろ?…まさか、テオドール、ジェライトにやられて禁断の扉が」
「顧問。攻撃してもいいですか」
「悪かった。謝罪する」
「顧問、」
「座れ、ジェライト、テオドールもいいから座れ、話は聞くから。な、座れ」
ボタボタ涙が出てくる俺の頭をまたジェライトが「泣くな!」とひっぱたく。その様子を父上はびっくりした顔で見ていた。
「で?どういうことなんだ?」
「顧問、あの時、この人のこと殺す発言してましたけど、ほんとに死んでもいいと思ってました?」
「いや、殺してやりたいと思っても、実際死なせたりはしねぇだろ」
「死にますよ、こいつ」
「だからなんで、」
「俺は、こいつにまったく興味なかったし、自分の制裁ができればいいからよく見もしなかったんですが、こいつ、基礎、なんもないです。魔力はあるけど、たぶんまともに使えない。セグレタリー国に行ったこともないらしいじゃないですか、こいつ」
「…まぁ、ないよな。魔術団に所属してないし」
「まともに訓練もしないでいきなり魔物の前に出されて、恐怖心なく魔法使えると思います?俺は13歳でセグレタリー国に行ったとき、怖くて失禁しましたよ。戦いましたけど」
「…え」
「ナディール大叔父上から攻撃されたり、そういう訓練受けてた俺でさえ怖かったのに、こんなプライドばっかり高くて体もまともに鍛えてない、下手したら半日行軍すらできないひ弱な坊っちゃんのこいつがセグレタリー国で生き残れるって、父上から説明はありましたか?」
「いや、ただ、向こうに行って、実戦で磨けば、って、…ジーク、おまえに頼んだとき、おまえそう言ったよな」
「リッツさん、すみません、帰ります」
「父上!」
「…ジーク」
「だって、ルヴィと」
「今、母上呼んできます。いいですよね、顧問」
「行け」
「待って、待ってよジェライト!」
ジェライトとジークハルト様が消えてしまい、俺と父上の二人になった。
黙って泣いてる俺を見て「おまえ、どうしたんだ、ジェライトにどんな制裁受けたんだ」と言うので説明したところ「容赦ねぇ…」と青ざめていた。
「で、なんで、」
「父上。俺、香りがしたんです」
「…は?」
「エイベル家に出るっていう、運命の香りが」
「…え?ジェライトから?」
「…え?」
「…え?」
「…なんでジェライトから、」
「いや、それだけ容赦ない制裁されて、恐怖のあまり好きだって思うようになったのかと、」
「…運命の香りって、頭で考えてどうにかなるもんなんですか」
「だって俺、エイベル家じゃねぇし。わかんねぇもん」
「とりあえず、ジェライトではありません」
「じゃあ、誰だよ」
「…リアム、って言ってたような、」
「第一部隊の副隊長か?」
「そうらしいです」
「え、あいつ、男だぞ」
「…でも、香りがしたんです」
「…彼は、おまえの4つ上だ。セレスティと同学年だ。魔術科で、かなり優秀な成績で卒業してる。ジェライトと同じで主席だったはず。ジークのこと好きなんだよな、」
「え」
「いや、恋愛対象じゃないぞ」
「…なんでそんなことわかるんですか」
「ジークが、触られても吐いたりしねぇからだよ」
「え?」
「リアムが、『隊長、腹筋触らせてください!』っていきなりジークの服まくって腹を触っても、ジークは吐かなかった」
「…父上、すみません、わかりません、ジークハルト様は誰かに触られると吐く体質の方なんですか」
「あいつは、ほんとにルヴィア嬢にしか興味がないの。カラダの中からそうなってんだよ。ジークに対して性的な欲求がある人間に触られると吐くんだよ。女だけかと思ってたけど、前にジークにけそうしてた男性隊員に触られて吐いてたからな」
「そんな特殊な体質、」
「だから言っただろ、あいつはヤバいって」
「でも、父上、具体的に言いませんでしたよね、ルヴィア様にしか興味がないっては言いましたけど、吐くなんて聞いてません」
父上は、ぐっと詰まると、「あまりにももう慣れすぎちまって、そんなもんだと思ってたからな、すまねぇ」と頭を下げた。
「ま、そんなわけでリアムはジークを恋愛対象として見てない。ま、それが普通じゃねぇかな」
「…はぁ、」
その時、「ジェライト、ほんと、ごめん、待ってよ!ね、ルヴィ、聞いて、」「父上、今さら言い訳しても遅いですよ」と言う声とともに控えめなノックと「失礼します」と女性の声がした。
「あんた、何してんの!?我慢しなよ、いくらなんでも、」
「え…?」
「え、って。また出したでしょ」
「え…?」
「あー、もうダメだ。あんた、変質者決定。まず、風呂入れ。早く」
無理矢理浴室に押し込められ、下着をおろすとまた汚れている。出たことすらわからないって、どういうことなんだ?なんで?
自分のカラダなのに情けなくて涙が出てくる。
浴室の外からジェライトが声をかける。
「あんた、」
「ジェライト頼む、黙ってくれ」
「いや、ダメだろ。言うよ。あんたさ、今まで好き勝手に女を扱ってきただろ。最近じゃ、媚薬飲ませてやるだけやってポイ捨てしてたじゃん」
「…なんでも知ってるんだな、ほんとに」
「あんたが知らなすぎるんだよ。それが原因とは言わないけど、今までの反動でリアム相手に出ちゃうんじゃないのか?あんたはどうなのかわからないが、俺はアキラさんの匂いを嗅ぐと脳天に突き抜けるような快感が来るんだよ。そして出そうになるのがわかる」
「ジェライト、俺はなんにも感じない。感じないのに出るなんて、」
「泣くな!今まであんたが女相手にやってきた非道な行為の結果だと思え!あとはな、たぶん、魔力を使わなすぎだからだ」
「使わなすぎ…?」
「あんた、プラプラしてて、カラダも鍛えてないだろ。きたねぇカラダしやがって、ほんとに俺と同じ年かよ。誰も言わないのをいいことに、酒も飲んでるだろうが」
「酒はダメなのか」
「うちの両親は飲まない。王族の方々も、おまえ以外は飲んでないはずだぞ。酒飲むのは騎士団の方々が多いだろ」
「そう言えば、父上も、母上も飲んでなかった」
「別に絶対飲んじゃダメってわけじゃないだろうが、飲む必要がないなら飲むな」
「ジェライト…っ」
「泣くな!バカ!ほんとにバカだよ、あんた、みんな言ってくれてたのに殻に閉じ籠って。そのくせプライドばっかり高くて。決定を覆せるかわからないが、とにかくこんな状態で行けないだろ、セグレタリー国に。一発で死ぬぞ。リッツさんは、たぶん荒療治のつもりなんだろうけど、あんた、魔法の基礎の基礎すらない。初等部、魔術科に行ったのに何勉強してきたんだ!それともいっそ、魔物に喰われて死ぬか?あ?」
「そうする…もうダメだ…」
「おいこら、今までの傲慢俺様バカ王子はどこ行った!泣くな!とにかく、洗ってすぐに出てこい!今まで散々時間無駄にしてきたんだから、まずそこから改めろ!わかったか!返事!」
「…はい」
「早くしろ!」
「ジェライト、おまえもあんなにスカしてイヤなヤツだったのに別人みたいだな」
「うるさい、早くしろ!雷撃喰らわせるぞ!」
「すぐ出る…」
「泣くな!バカ!」
カラダを流してタオルを巻く。浴室から出て下着をつけると、ジェライトが、「姿見で見てみろ、自分のカラダ」と言って、自分も脱ぎ始めた。
「ジェライト、俺は男色の気はない」
「バカか!リアムは男だろ!男相手に無意識に射精してるやつが、何言ってやがる!そもそも、誰がおまえなんか相手にするか!比べてみろ!俺のカラダはアキラさんのなのに…!仕方ないから見せてやる!バカが!」
ジェライトの引き締まったしなやかなカラダに比べて、随分と貧相なカラダだった。貧相なのに腹は出ている。筋肉なんてついてない。ブヨブヨの、貧相なカラダ。
「あんたさ、自分にすら関心ないの?そんなカラダでよく恥ずかしくなく女抱けたね」
「…何も言われたことない」
「まぁ、二言目には王族、とか威張り散らしてるヤツに誰もなんも言わないよな。処刑されたりしたら困るし。あんたのために命かけんのヤダもんね」
「…もう、いい。セグレタリーに行く」
「だから、投げやりになるなよ!いいか、さっきも言ったけど、リアムは顔見ないんだよ。魔力見るの。魔力見て気に入ると、顔見るの。それで初めて相手の顔を認識するの。さっきも、あんたの顔見てないよ。色持ちだって言わなかっただろ」
「…言ってない」
「とりあえず、まず、今からやること決めろ。俺が付き合ってやる。あんた、一番強い特性炎だけど、どんぐりの背比べみたいなもんだ、汚いし。俺付きで、第二部隊に来い」
「え、」
「第一部隊に行ったら知らない間に吐精して捕縛されるぞ!」
「でも、」
「だから、さっき言っただろ!俺から話してやる、セグレタリーに行かなくていいように!そしたら父上が団長のままだからリッツさんだって長期旅行に行けるだろうが!おまえ、何かしらプレゼントしろ、リッツさんに」
「何かって、」
「セグレタリー国にあるリゾートホテルの宿泊券とかさぁ!リッツさんが、エカテリーナ様とのんびり過ごせる気遣いを見せろ!」
「俺、セグレタリー国に行ったことない」
「バカ!死ね!いままでほんとに何やってきたんだ!」
「ジェライト…っ」
「泣くな!俺が手配してやる、金はおまえが払えよ!わかったな!借金してでも払え!」
「…わかった」
「バカだバカだと思ってきたけど、こんなにバカだなんて。今まで女抱いてきたくせに、男相手に勝手に吐精しちゃう変質者だなんて」
「ジェライト」
「父上、ノックしてください。母上に言い付けますよ」
「ごめんなさい、やり直します」
ジークハルト様は一度消えてドアをノックした。
「どうぞ」
なぜかジェライトが返事をする。
「テオドール君、明日から行ける準備してね、」
「父上、この人無理です。俺が一から面倒見ますから。セグレタリー国は免除してください」
「免除って言っても、もう決まったんだよ、」
「父上、セグレタリー国に行ったらこの人死にますよ」
「うん、わかってるよ」
「だから、俺が鍛え直します」
「ジェライト、おまえ責任取れるのか」
「父上、責任てなんですか。俺は、こいつをバカなまま死なせたくない。死ぬにしても、カーディナル魔法国の王族としての自覚を持って死ぬべきだ。だいたい俺とアルマのこと、ナディール大叔父上とカイルセン叔父上に丸投げだったくせによく責任なんて言えますね」
「とられちゃったんだから仕方ないだろ!」
「じゃあ、こいつのことも諦めてください」
「諦める、とかいう対象じゃない」
「ですよね、死んでいいと思ってるんだから」
かなりの濃度で貶められている。しかし反論はできない。怖いし。
「死ぬだろうって、リッツさんに話してあるんでしょうね、父上」
「え?」
「おい、あんた、服着ろ、早く!」
ジェライトに睨み付けられ、とりあえず引っ付かんで着ると、腕を掴まれ「確認します」と飛んだ。
父上の自室の前に着く。ジェライトがノックすると「入れ」という声。すると、ジークハルト様もやってきた。
「ジェライト、落ち着きなさい」
「どうしました、父上。確認するだけですよ。顧問、失礼します」
「ジェライト?」
「顧問、この人なんですけど、」
「リッツさん、」
「父上!俺がいま喋ってますよね!母上に言いますよ!」
「でも、」
「父上は、もうわかってたんでしょ。俺は自分の制裁しか興味なかったから見もしなかったけど、父上はこいつを見た上で、わかってて、それでも引き受けたんでしょ。顧問に説明した上で」
「なんの話だ、ジェライト」
「リッツさん、」
「父上?そんなに母上に怒られたいんですか?今から呼んでもいいんですよ?」
すると、ジークハルト様は突然父上に向かって土下座した。
「リッツさん、申し訳ありません!」
「…ジーク、なんなんだよいったい?」
「顧問、この人、セグレタリー国に行ったら確実に死にますけど、それでも明日から行かせていいですか」
「テオドール、どういうことなんだ?」
「顧問、話してるのは俺です!父上から、この人が死ぬかもしれない可能性の説明は受けた上でセグレタリー国に出すと決めたんですよね」
「え?」
「リッツさん、今から説明します」
「説明しないで行かせて、死んだって報告するつもりだったんですね」
「だって、なんで俺が一年も面倒見なきゃならないの、ルヴィと離れて!行って3日もすれば死ぬだろうから、」
「ジーク、座れ」
「…リッツさん、」
「座れ。ジェライト、テオドールも座れ」
しぶしぶという感じで椅子に座るジークハルト様。
俺は座る前に父上に頭を下げた。
「父上、これまで…言って済むことではありませんが、数々の無礼な態度、申し訳ありませんでした。バカですみません、…っ」
「泣くな!まだなんも言ってないのに、泣くな!バカ!」
「ジェライト、だって、」
「…おまえら、何があったの?ジェライトが制裁したんだろ?…まさか、テオドール、ジェライトにやられて禁断の扉が」
「顧問。攻撃してもいいですか」
「悪かった。謝罪する」
「顧問、」
「座れ、ジェライト、テオドールもいいから座れ、話は聞くから。な、座れ」
ボタボタ涙が出てくる俺の頭をまたジェライトが「泣くな!」とひっぱたく。その様子を父上はびっくりした顔で見ていた。
「で?どういうことなんだ?」
「顧問、あの時、この人のこと殺す発言してましたけど、ほんとに死んでもいいと思ってました?」
「いや、殺してやりたいと思っても、実際死なせたりはしねぇだろ」
「死にますよ、こいつ」
「だからなんで、」
「俺は、こいつにまったく興味なかったし、自分の制裁ができればいいからよく見もしなかったんですが、こいつ、基礎、なんもないです。魔力はあるけど、たぶんまともに使えない。セグレタリー国に行ったこともないらしいじゃないですか、こいつ」
「…まぁ、ないよな。魔術団に所属してないし」
「まともに訓練もしないでいきなり魔物の前に出されて、恐怖心なく魔法使えると思います?俺は13歳でセグレタリー国に行ったとき、怖くて失禁しましたよ。戦いましたけど」
「…え」
「ナディール大叔父上から攻撃されたり、そういう訓練受けてた俺でさえ怖かったのに、こんなプライドばっかり高くて体もまともに鍛えてない、下手したら半日行軍すらできないひ弱な坊っちゃんのこいつがセグレタリー国で生き残れるって、父上から説明はありましたか?」
「いや、ただ、向こうに行って、実戦で磨けば、って、…ジーク、おまえに頼んだとき、おまえそう言ったよな」
「リッツさん、すみません、帰ります」
「父上!」
「…ジーク」
「だって、ルヴィと」
「今、母上呼んできます。いいですよね、顧問」
「行け」
「待って、待ってよジェライト!」
ジェライトとジークハルト様が消えてしまい、俺と父上の二人になった。
黙って泣いてる俺を見て「おまえ、どうしたんだ、ジェライトにどんな制裁受けたんだ」と言うので説明したところ「容赦ねぇ…」と青ざめていた。
「で、なんで、」
「父上。俺、香りがしたんです」
「…は?」
「エイベル家に出るっていう、運命の香りが」
「…え?ジェライトから?」
「…え?」
「…え?」
「…なんでジェライトから、」
「いや、それだけ容赦ない制裁されて、恐怖のあまり好きだって思うようになったのかと、」
「…運命の香りって、頭で考えてどうにかなるもんなんですか」
「だって俺、エイベル家じゃねぇし。わかんねぇもん」
「とりあえず、ジェライトではありません」
「じゃあ、誰だよ」
「…リアム、って言ってたような、」
「第一部隊の副隊長か?」
「そうらしいです」
「え、あいつ、男だぞ」
「…でも、香りがしたんです」
「…彼は、おまえの4つ上だ。セレスティと同学年だ。魔術科で、かなり優秀な成績で卒業してる。ジェライトと同じで主席だったはず。ジークのこと好きなんだよな、」
「え」
「いや、恋愛対象じゃないぞ」
「…なんでそんなことわかるんですか」
「ジークが、触られても吐いたりしねぇからだよ」
「え?」
「リアムが、『隊長、腹筋触らせてください!』っていきなりジークの服まくって腹を触っても、ジークは吐かなかった」
「…父上、すみません、わかりません、ジークハルト様は誰かに触られると吐く体質の方なんですか」
「あいつは、ほんとにルヴィア嬢にしか興味がないの。カラダの中からそうなってんだよ。ジークに対して性的な欲求がある人間に触られると吐くんだよ。女だけかと思ってたけど、前にジークにけそうしてた男性隊員に触られて吐いてたからな」
「そんな特殊な体質、」
「だから言っただろ、あいつはヤバいって」
「でも、父上、具体的に言いませんでしたよね、ルヴィア様にしか興味がないっては言いましたけど、吐くなんて聞いてません」
父上は、ぐっと詰まると、「あまりにももう慣れすぎちまって、そんなもんだと思ってたからな、すまねぇ」と頭を下げた。
「ま、そんなわけでリアムはジークを恋愛対象として見てない。ま、それが普通じゃねぇかな」
「…はぁ、」
その時、「ジェライト、ほんと、ごめん、待ってよ!ね、ルヴィ、聞いて、」「父上、今さら言い訳しても遅いですよ」と言う声とともに控えめなノックと「失礼します」と女性の声がした。
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