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フェルナンド様を応接室に連れて行き、伯母に「夫です」と紹介する。…なんだかこそばゆい。
伯母は、ジルコニア夫妻から何度も手紙をもらったこと、フェルナンド様のことも名前を聞いた時に私の夫だろうと分かったが、私の反応が見たくてあえて知らないフリをした、とニコニコしていた。
「フェルナンドさん、良かったら今夜は我が家に泊まってくださいな。何もないところですが、主人も会いたいでしょうし」
フェルナンド様は、
「では、お言葉に甘えて…急に来ましたのに、申し訳ありません。ユリアーナのことも、私の不徳の致すところで…お世話になり、ありがとうございました。深く感謝致します」
と頭を下げた。まだ目の縁がほんのり赤い。その顔を見て、なんだか可愛いと思ってしまった。
「ユリアーナが過ごした場所を見たい」と言われ、温室のある裏庭を案内することにした。
「ユリアーナ、あの、…手を、繋いでいいか」
困ったような顔でこちらを見るフェルナンド様は、おずおずと手を出した。その手に手を伸ばすと、ひんやりした手がピクリと揺れた。
「…フェルナンド様の手は、いつもひんやりしていますね」
カラダはあんなに温かいのに、とふと思い、先ほど抱き締められたことを思い出してとたんに恥ずかしくなる。
そんな私の様子を知ってか知らずか、
「…ユリアーナに触れることができると思うと、緊張して冷たくなるんだ」
とボソリと呟いた。あんなに自然な感じだったのに、緊張していたなんて知らなかった。
「今もですか?」
「…いつでも。ユリアーナに、拒絶されたらどうしようと思うと、自業自得とは言えさらに緊張して…大丈夫か?繋いでいても…あまり冷たいようなら、」
私はフェルナンド様の手をキュッ、と握った。驚いたようにこちらを見るフェルナンド様を見上げる。キレイな、萌えたての新緑を思わせる瞳と目が合う。
「繋いでいたら、温かくなりますね」
そう言うと、フェルナンド様の顔がサッと赤く染まった。…なにこれ。この人誰なの。こんなに可愛いなんて聞いてない。
フェルナンド様は赤い顔のまま、
「あの…指輪の、指輪の話からする」
と言って、裏庭のベンチに私を座らせ自分も腰かけた。
「…空気が、すごくいい。気持ちいい場所だな」
「ええ、私の大好きな場所です」
フェルナンド様は、ふ、と嬉しそうに微笑んだ。今まで知らなかったフェルナンド様を次々と見せられ、動悸が激しくなる。
「あの指輪…ユリアーナは、サフィールドのマジナイの話を聞いたか?」
コクリと頷いてみせると、
「あれは、俺かユリアーナ…基本、俺だけど、俺がユリアーナ以外の異性と粘膜の接触があったら割れるようにサフィールドにマジナイをかけてもらったんだ」
…粘膜の接触?
「要は、その、…口づけとか、性交とか」
直接的な言葉に顔が赤くなる。私を見たフェルナンド様も、つられるように顔が赤くなった。
「…あの時、俺があの腐れ女に口づけられるまで、指輪は割れなかったんだよな?」
あの時の光景を思い出して急に動悸が激しくなる。
「ええ、フェルナンド様が、…口づけられて、」
とたんにフェルナンド様の唇が私の唇にチュ、と触れた。
「…これでもう、俺の唇はユリアーナだけのものだ」
ニコリ、と笑うフェルナンド様の雰囲気がガラリと変わりいきなり色気が吹き出してくる。やめて、予告なしの攻撃やめて!防御できない!フェルナンド様のムダな色気を半減する薬を作らなくては…!
「あ、あの、そ、それで、それで、指に衝撃が走って、指輪が、割れたのです」
フェルナンド様は私の左手を取ると、薬指にチュ、と口付けた。やめて…!この人誰なの…!見た目がフェルナンド様のジゴロとかなの…!?
「ユリアーナのキレイな指に…すまなかった。痛かっただろう?」
「だ、だ、だい、だいじょぶですっ」
フェルナンド様は、「だいじょぶ、って…」と言うと、いきなり笑い出した。
「…可愛い。ユリアーナ…あんなに、いつでも理知的で隙がないユリアーナが…。嬉しい。こんな可愛いユリアーナを見せてくれて。好きだよ、ユリアーナ。愛してる」
私を見る目は愛おしげに優しく細められ、フェルナンド様は私の髪を撫で始めた。言われたこともない愛の言葉を囁かれ、私の平常心はゴリゴリ削られていく。誰か助けて。この人、本当にフェルナンド様なの?
「あの腐れに口づけられるまで割れなかったってことは、俺があの女が言った不貞は働いていないという証拠だ。裸で、口づけられてはしまったけれど。…信じてくれるか、ユリアーナ」
サフィールドさんのマジナイを身をもって体験した今、フェルナンド様の言うことはストンと腑に落ちた。あんなに硬い金属がパキリと割れた、あれはそういうマジナイだったのだろう。
「信じます。フェルナンド様を」
フェルナンド様は「ありがとう…」と呟くように言うと、わたしをギュウッと抱き締めた。
「俺はね。手紙にも書いたけど、ずいぶん昔に、一度ユリアーナに会っているんだ」
その日フェルナンド様は訓練の一環として毒を飲まされ、フラフラして転んでケガをしてしまったらしい。血がたくさん出て、痛くて、カラダも熱くなってきて、このままこんなところで一人で死ななくてはならないのかと涙が自然とあふれだしてきたそうだ。
「その時、ユリアーナが現れたんだ。だいじょうぶ、どこかいたいの、って」
その言葉で、ある光景を思い出す。煌めく銀髪の男の子が草の上に寝っ転がって涙を流している。その子の膝は、痛そうに、真っ赤な血を流していた。
伯母は、ジルコニア夫妻から何度も手紙をもらったこと、フェルナンド様のことも名前を聞いた時に私の夫だろうと分かったが、私の反応が見たくてあえて知らないフリをした、とニコニコしていた。
「フェルナンドさん、良かったら今夜は我が家に泊まってくださいな。何もないところですが、主人も会いたいでしょうし」
フェルナンド様は、
「では、お言葉に甘えて…急に来ましたのに、申し訳ありません。ユリアーナのことも、私の不徳の致すところで…お世話になり、ありがとうございました。深く感謝致します」
と頭を下げた。まだ目の縁がほんのり赤い。その顔を見て、なんだか可愛いと思ってしまった。
「ユリアーナが過ごした場所を見たい」と言われ、温室のある裏庭を案内することにした。
「ユリアーナ、あの、…手を、繋いでいいか」
困ったような顔でこちらを見るフェルナンド様は、おずおずと手を出した。その手に手を伸ばすと、ひんやりした手がピクリと揺れた。
「…フェルナンド様の手は、いつもひんやりしていますね」
カラダはあんなに温かいのに、とふと思い、先ほど抱き締められたことを思い出してとたんに恥ずかしくなる。
そんな私の様子を知ってか知らずか、
「…ユリアーナに触れることができると思うと、緊張して冷たくなるんだ」
とボソリと呟いた。あんなに自然な感じだったのに、緊張していたなんて知らなかった。
「今もですか?」
「…いつでも。ユリアーナに、拒絶されたらどうしようと思うと、自業自得とは言えさらに緊張して…大丈夫か?繋いでいても…あまり冷たいようなら、」
私はフェルナンド様の手をキュッ、と握った。驚いたようにこちらを見るフェルナンド様を見上げる。キレイな、萌えたての新緑を思わせる瞳と目が合う。
「繋いでいたら、温かくなりますね」
そう言うと、フェルナンド様の顔がサッと赤く染まった。…なにこれ。この人誰なの。こんなに可愛いなんて聞いてない。
フェルナンド様は赤い顔のまま、
「あの…指輪の、指輪の話からする」
と言って、裏庭のベンチに私を座らせ自分も腰かけた。
「…空気が、すごくいい。気持ちいい場所だな」
「ええ、私の大好きな場所です」
フェルナンド様は、ふ、と嬉しそうに微笑んだ。今まで知らなかったフェルナンド様を次々と見せられ、動悸が激しくなる。
「あの指輪…ユリアーナは、サフィールドのマジナイの話を聞いたか?」
コクリと頷いてみせると、
「あれは、俺かユリアーナ…基本、俺だけど、俺がユリアーナ以外の異性と粘膜の接触があったら割れるようにサフィールドにマジナイをかけてもらったんだ」
…粘膜の接触?
「要は、その、…口づけとか、性交とか」
直接的な言葉に顔が赤くなる。私を見たフェルナンド様も、つられるように顔が赤くなった。
「…あの時、俺があの腐れ女に口づけられるまで、指輪は割れなかったんだよな?」
あの時の光景を思い出して急に動悸が激しくなる。
「ええ、フェルナンド様が、…口づけられて、」
とたんにフェルナンド様の唇が私の唇にチュ、と触れた。
「…これでもう、俺の唇はユリアーナだけのものだ」
ニコリ、と笑うフェルナンド様の雰囲気がガラリと変わりいきなり色気が吹き出してくる。やめて、予告なしの攻撃やめて!防御できない!フェルナンド様のムダな色気を半減する薬を作らなくては…!
「あ、あの、そ、それで、それで、指に衝撃が走って、指輪が、割れたのです」
フェルナンド様は私の左手を取ると、薬指にチュ、と口付けた。やめて…!この人誰なの…!見た目がフェルナンド様のジゴロとかなの…!?
「ユリアーナのキレイな指に…すまなかった。痛かっただろう?」
「だ、だ、だい、だいじょぶですっ」
フェルナンド様は、「だいじょぶ、って…」と言うと、いきなり笑い出した。
「…可愛い。ユリアーナ…あんなに、いつでも理知的で隙がないユリアーナが…。嬉しい。こんな可愛いユリアーナを見せてくれて。好きだよ、ユリアーナ。愛してる」
私を見る目は愛おしげに優しく細められ、フェルナンド様は私の髪を撫で始めた。言われたこともない愛の言葉を囁かれ、私の平常心はゴリゴリ削られていく。誰か助けて。この人、本当にフェルナンド様なの?
「あの腐れに口づけられるまで割れなかったってことは、俺があの女が言った不貞は働いていないという証拠だ。裸で、口づけられてはしまったけれど。…信じてくれるか、ユリアーナ」
サフィールドさんのマジナイを身をもって体験した今、フェルナンド様の言うことはストンと腑に落ちた。あんなに硬い金属がパキリと割れた、あれはそういうマジナイだったのだろう。
「信じます。フェルナンド様を」
フェルナンド様は「ありがとう…」と呟くように言うと、わたしをギュウッと抱き締めた。
「俺はね。手紙にも書いたけど、ずいぶん昔に、一度ユリアーナに会っているんだ」
その日フェルナンド様は訓練の一環として毒を飲まされ、フラフラして転んでケガをしてしまったらしい。血がたくさん出て、痛くて、カラダも熱くなってきて、このままこんなところで一人で死ななくてはならないのかと涙が自然とあふれだしてきたそうだ。
「その時、ユリアーナが現れたんだ。だいじょうぶ、どこかいたいの、って」
その言葉で、ある光景を思い出す。煌めく銀髪の男の子が草の上に寝っ転がって涙を流している。その子の膝は、痛そうに、真っ赤な血を流していた。
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