初夜すら私に触れようとしなかった夫には、知らなかった裏の顔がありました~これって…ヤンデレってヤツですか?

蜜柑マル

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封筒に宛先を書き、便箋を折り畳みしまったところでドアがノックされた。

「はい」

「ユリ、フェルナンドさんて方が見えたわよ」

「…え?」

伯母の言葉がすぐに理解できずにいると、もう一度、

「フェルナンドさん、て男性よ。客間にお通ししようとしたのだけれど、ここでいい、って。玄関で待ってらっしゃるわ」

「…わかり、まし、…た?」

フェルナンドさん、という知り合いが他にいただろうか?この手紙は今日届いたのに、私はまだ返事を出していないのに…え?

全く飲み込めないまま玄関に向かうと、そこには直立不動のフェルナンド様がいた。

私の姿を認めたフェルナンド様の顔がくしゃりと歪み、その瞳から涙が零れ落ちる。

「フェルナンド様…っ!?」

慌てて駆け寄りハンカチを当てようとすると、フェルナンド様は私の前にひざまずき、右手を胸に当て頭を垂れた。

「…ユリアーナ。婚約の日、キミに伝えたかった本当の気持ちを、いま、ここに誓う。…一生、貴女だけを愛します。貴女を俺にください」

フェルナンド様の肩が小刻みに震えている。あんなに、いつでも毅然と、堂々としていたフェルナンド様が、酷く頼りなげで…

あの手紙に記された言葉を、そして、目の前で伝えられた言葉を、…フェルナンド様を、私は信じる。これから何が語られても、あの時「離縁はイヤだ」と叫んだフェルナンド様を私は信じる。

フェルナンド様の前にしゃがみ、胸に当てられた手にそっと触れた。フェルナンド様のカラダがビクリと震える。

「私だけを、愛してくださるのですね」

バッ、と上げたフェルナンド様の顔は涙にまみれ、目元が赤く染まっていた。その顔を見て、もし、これが私を騙すための演技であったとしても、もういいと思った。この人が愛おしい。この人の、すべてが。

「私も、貴方だけを愛します。フェルナンド様。私を、貴方の妻にしてください。貴方にすべてを捧げます」

私の言葉を聞いたフェルナンド様は、グッ、と何かを堪えるように息を止め、私のカラダを抱き寄せた。

「…ユリアーナっ」

まるで幼い子供のように泣きじゃくるフェルナンド様の背中を擦る。触れたフェルナンド様の手は、いつものようにひんやりとしていた。

「兄上。いい加減にしてください。ユリアーナ様の伯母様にたいそうご迷惑だとは思わないのですか」

泣き続けるフェルナンド様の後ろにスッと影がさす。見上げると、フェルナンド様と同じ銀髪の少年が立っていた。…兄上?

私の視線に気付いた少年は、

「ユリアーナ様、初めてお目にかかります。僕はフェルナンド・ジルコニアの正真正銘の弟、イアン・ジルコニアと申します。ユリアーナ様の伯母様には、愚兄が来ることを両親から伝えておりました。ただ、いつか、までは明言せずキチンと整えてからお邪魔するはずでしたのに、この愚兄が暴走致しまして。ユリアーナ様への揺るぎない愛情ゆえとお許しください」

「…イアン。俺は愚兄ではない」

「愚兄です。こんな阿呆だったとは…ユリアーナ様、ご迷惑かとは思いますがこの愚兄の教育をよろしくお願いいたします」

では、と頭を下げた少年は、音もなく消え去った。

私の肩に顔を埋めたままフェルナンド様は、

「ユリアーナ、…泣いたりしてすまない。…話を、聞いてもらえるか」

「はい。私、あの時は気持ちがぐちゃぐちゃでたぶん話をされても冷静に聞けませんでした。こうやって、時間を置いたことでフェルナンド様のお話を聞く準備ができたと思っています。どうぞ、お話ください。私に、隠していたこと、隠さなくてはならなかった事情、…すべて、お話ください」

フェルナンド様はコクリ、と頷くと、また私をギュッと抱き締めた。初めて触れるフェルナンド様のカラダは、温かく、ガッシリとしていた。
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