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「…母上」
「ユリちゃんの部屋のドアをこんなふうにして、あなたなんのつもり?ユリちゃん、今夜から修理が終わるまでは本宅で、」
「お義母様」
いつもシャル様、と呼ぶ私の言葉にピクリとした夫人は、しかしニッコリして私を見た。
「どうしたの?」
「私は、今日フェルナンド様と離縁いたします。もう、ジルコニア家とは関係がなくなります。今まで、たくさん良くしていただいたのに、」
「…なんですって?」
「ユリたん、今なんて言ったんだ?」
後ろからジルコニア侯爵まで来てしまった。でも、きちんと挨拶せずに出ていくよりはいいだろう。
「私は今日、フェルナンド様と離縁を、」
「フェルナンド。何があったかは聞いてるわ。なんで離縁なんてユリちゃんが言い出すのか説明しなさい」
「あの、私が…お義母様、指輪が割れたのです。フェルナンド様は、私と離縁するための契約の指輪を作りました。今日それが割れたのです。割れたら離縁すると言われていました。ですから、」
「あんた、何してんの!?」
夫人の口調がガラリと変わり、次の瞬間大柄なフェルナンドが吹き飛んだ。夫人が殴り付けたのだ。…え?
驚愕で言葉が出ない私の前で夫人はさらにフェルナンドを蹴り上げた。
「あんた、いくら拗らせてるからって、なんなのそのバカみたいな指輪!よくもそんなのユリちゃんに付けたりしたわね!殺す!今すぐ殺してやる!」
「待て、シャル」
低い声で夫人を止めるジルコニア侯爵にホッとして視線を移すと、憤怒の顔に変わっていた。
「指輪が割れたら、だと…?ユリたんの美しい指に傷がついたらどうするつもりだったんだ!そんなことも考えずに、『離縁の指輪だ~』なんて言ってる阿呆は俺が潰す」
「イヤよ!あたしが殺るの!引っ込んでて!」
止めてくれるどころか今にも取っ組み合いのケンカをおっ始めそうな侯爵夫妻に呆然となる。なんでこんなことに、
「フェルったら!なんでわたしを置いていくの?酷いわ!…あら、あんたまだ居たの?」
ニヤリとイヤらしく嗤い、フェルナンドに絡み付いたアマンダは、裸身にシーツを巻き付けただけの状態だった。いったいなんの嫌がらせなんだろう。こんなことをいつまで見せつけられなくてはならないのだろう。そんなにもフェルナンドの愛情を受けていることを私に知らしめたいのだろうか。私が邪魔をするとでも?最初から拒絶されているのに、私は勝ち目のない勝負に挑めるほど強くない。
「…っ、離せ!汚らわしい、触るな!おまえ、よくも…!」
「なによ、わたしのカラダ好きにしたくせに!その女とは仕方なく結婚して、魅力もない女だから手も出してないんでしょ?抱きたいなんて思えないわよねぇ、処女なんだから離縁したって我儘言わなきゃ他に貰い手あるでしょ?だいたいあんたみたいな女がフェルの妻なんてあり得ないのよ!フェル、わたしの純潔を奪ったんだから責任取ってわたしを妻にして!」
…もう、イヤだ。
その時、手の中の緑色の石が目に入る。ポタリ、と涙が石に落ちた。あの時、サフィールドさんに言われた言葉、
「私は…私は、ここではないどこかに行きたい…っ!!」
そう叫んだ瞬間、手のひらから緑色のまばゆい光がパアッと広がった。あまりの眩しさに目を閉じる。
光が収まったのを感じて目を開けると、目の前には呆けた顔のサフィールドさんが立っていた。
「ユリちゃんの部屋のドアをこんなふうにして、あなたなんのつもり?ユリちゃん、今夜から修理が終わるまでは本宅で、」
「お義母様」
いつもシャル様、と呼ぶ私の言葉にピクリとした夫人は、しかしニッコリして私を見た。
「どうしたの?」
「私は、今日フェルナンド様と離縁いたします。もう、ジルコニア家とは関係がなくなります。今まで、たくさん良くしていただいたのに、」
「…なんですって?」
「ユリたん、今なんて言ったんだ?」
後ろからジルコニア侯爵まで来てしまった。でも、きちんと挨拶せずに出ていくよりはいいだろう。
「私は今日、フェルナンド様と離縁を、」
「フェルナンド。何があったかは聞いてるわ。なんで離縁なんてユリちゃんが言い出すのか説明しなさい」
「あの、私が…お義母様、指輪が割れたのです。フェルナンド様は、私と離縁するための契約の指輪を作りました。今日それが割れたのです。割れたら離縁すると言われていました。ですから、」
「あんた、何してんの!?」
夫人の口調がガラリと変わり、次の瞬間大柄なフェルナンドが吹き飛んだ。夫人が殴り付けたのだ。…え?
驚愕で言葉が出ない私の前で夫人はさらにフェルナンドを蹴り上げた。
「あんた、いくら拗らせてるからって、なんなのそのバカみたいな指輪!よくもそんなのユリちゃんに付けたりしたわね!殺す!今すぐ殺してやる!」
「待て、シャル」
低い声で夫人を止めるジルコニア侯爵にホッとして視線を移すと、憤怒の顔に変わっていた。
「指輪が割れたら、だと…?ユリたんの美しい指に傷がついたらどうするつもりだったんだ!そんなことも考えずに、『離縁の指輪だ~』なんて言ってる阿呆は俺が潰す」
「イヤよ!あたしが殺るの!引っ込んでて!」
止めてくれるどころか今にも取っ組み合いのケンカをおっ始めそうな侯爵夫妻に呆然となる。なんでこんなことに、
「フェルったら!なんでわたしを置いていくの?酷いわ!…あら、あんたまだ居たの?」
ニヤリとイヤらしく嗤い、フェルナンドに絡み付いたアマンダは、裸身にシーツを巻き付けただけの状態だった。いったいなんの嫌がらせなんだろう。こんなことをいつまで見せつけられなくてはならないのだろう。そんなにもフェルナンドの愛情を受けていることを私に知らしめたいのだろうか。私が邪魔をするとでも?最初から拒絶されているのに、私は勝ち目のない勝負に挑めるほど強くない。
「…っ、離せ!汚らわしい、触るな!おまえ、よくも…!」
「なによ、わたしのカラダ好きにしたくせに!その女とは仕方なく結婚して、魅力もない女だから手も出してないんでしょ?抱きたいなんて思えないわよねぇ、処女なんだから離縁したって我儘言わなきゃ他に貰い手あるでしょ?だいたいあんたみたいな女がフェルの妻なんてあり得ないのよ!フェル、わたしの純潔を奪ったんだから責任取ってわたしを妻にして!」
…もう、イヤだ。
その時、手の中の緑色の石が目に入る。ポタリ、と涙が石に落ちた。あの時、サフィールドさんに言われた言葉、
「私は…私は、ここではないどこかに行きたい…っ!!」
そう叫んだ瞬間、手のひらから緑色のまばゆい光がパアッと広がった。あまりの眩しさに目を閉じる。
光が収まったのを感じて目を開けると、目の前には呆けた顔のサフィールドさんが立っていた。
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