逆行厭われ王太子妃は二度目の人生で幸せを目指す

蜜柑マル

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なにかがはじまる

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ロゼリア様をソファに横たえたハロルド様は、私を見て眉を下げた。

「…ごめん、シア」

「ええと、…何についての、謝罪でしょうか」

「クリスという人間について…?」

…なぜ疑問形なのか?

「…あいつが、元々ロゼリア嬢を思ってたことは知ってたし、その、…たまに、見に行ってることも知ってた。ただ、婚約者に決まってからは逆にエイサンの目があって見に行けなくなって、その、…鬱憤が、たまってたみたいで。
勝手についてきたとは言え、不快な思いをさせてごめん」

「いえ、私は何も被害を受けていないので、大丈夫です…ロゼリア様が心配ですが…」

ソファの上のロゼリア様を見ると、いくぶん顔色が戻っていた。良かった…。

「心配なのはコンラッド様もです、本当に大丈夫なのですか?」

「…シアが知ってるとおり、コンラッドはアデルを婚約者として正式に発表したし、アデル自身が学園に行っていないからこの夏休み中に結婚してしまう予定だ。クリスも、頭ではわかってるはずなんだが、…ロゼリア嬢のことになると頭がおかしくなるんだよ、あいつ」

「先ほど、継承権も放棄したと」

ハロルド様は「…うん」と嫌そうな顔になると、

「おかげでリオンが荒れてね…ずるいじゃないか、年が上のほうが好きに決められるなんて、って…」

普通に考えて、将来国王になることは喜ばしいことではないのだろうか…。争いこそすれ、譲り合って(?)決まるなんて珍しいのでは…。

「リオンも、特に国王の座に興味はないみたいでね。…俺か、クリスに、早く、その…」

途端にハロルド様の表情が無になり、「いや、なんでもない。忘れてくれ」と呟くように言った。気になる。

「あとは父上たちに再度頑張ってもらうしかない」

「…がんばる?」

「子作りだよ。継承権を持つこども」

子作り、と言われて思わず顔が熱くなる。確かに、陛下も王妃陛下も、まだお若いけれど…。

「まぁ、まだ若いから大丈夫だろうけど何事もないとは言えないからね。その時、継承権一位はリオンだけど、あいつもクリスのせいで放棄したい、兄上たちばかりずるいと騒いでるからさ…四人も王子を産んだのに、って、母上が…王妃陛下がむくれていたよ。そこは申し訳ない」

「もしリオン殿下も放棄なさったら、」

「…継承権の順位はコンラッドかな」

「まぁ…」

「でも、アデルと結婚しちゃうからならないだろう。あいつ自身、国王になりたいなんて野心がこれっぽっちもないから。変わらなかったのはエイサンだけだ」

「変わらなかった?」

あからさまにハッ、としたハロルド様は、「ごめん、なんでもない」とごまかすようにぎこちない笑顔になった。まただ。

「ハル様、」

「ん…」

その時ロゼリア様が身動ぎし、起き上がった。ぼんやりとしたまま、私とハロルド様を見て焦点が合うとまた真っ青になった。

「セシリア様、あの、あの、」

「大丈夫です、もうクリストファー殿下はいらっしゃいません」

それを聞いてホッとしたように顔が緩んだロゼリア様は、ハロルド様に視線を移した。

「あの、ハロルド殿下」

「ロゼリア嬢、クリスが申し訳ない」

「いえ、あの、ハロルド殿下に謝っていただくことではありませんから…っ!お顔をあげてくださいませ、…あの、質問させていただいてもよろしいでしょうか」

「俺が答えられることならば」

ロゼリア様はキュ、と口を引き締めると、意を決したように口を開いた。

「…わたくしは、エイサン殿下の代わりにクリストファー殿下が王太子になるやもしれず、だから婚約者となり妃教育も受けてまいりました。そのように、先日父から説明を受けました」

「そうだね」

「…継承権を放棄なさったのなら、わたくしがクリストファー殿下の婚約者でいる必要はないのではありませんか?」

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