逆行厭われ王太子妃は二度目の人生で幸せを目指す

蜜柑マル

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なにかがはじまる

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「アデル様、お元気そうで良かったです」

「うん、まぁ、…そうだね」

イーストウェル家からの帰り道、そう伝えるとハロルド様からは歯切れの悪い返答が返ってきた。

「…すみません。お元気に見せてるだけですよね」

幼馴染みのことは私よりよくわかっているはず。私には気づかないような何かがあったのだろう。

「…いや、…ごめん、シア。…ごめん。俺のこと、許してね」

まだ、爵位のことに拘っているのだろうか?

ハロルド様は終始心ここにあらず、という様子で私を送り届けるとそのまま帰っていった。…大丈夫だろうか。

(アデル様のことで、心を痛めていらっしゃるのね)

私も心配しているが、ハロルド様はイーストウェル家との付き合いの深さが違う。きっと私の想像以上にハロルド様は苦しんでいるのかもしれない。

エイサン殿下はアデル様との婚約を解消されたことに不貞腐れ、王太子を辞めると陛下に告げたそうだ。帰り際、イーストウェル侯爵が面白そうに教えてくださった。

「エイサンからすれば、脅しのつもりだったんだろうけどね」

「脅し、ですか?」

「うん。あいつは、自分が王太子を辞めると言ったら慌ててアデルを婚約者に戻すとでも考えていたんだろうね。浅はかな。その言葉をみんなが待っていたとは思いもよらなかったのだろう」

イーストウェル侯爵はクツクツと嗤うと、

「兄…いや、陛下に『了承した。おまえはいまこのときを持って王太子から外す』と言われた時のあのエイサンの顔と言ったら」

「…叔父上、素が出てますよ」

「すまん、嬉しくてつい、な。おまえたちが学園に行っている間に、エイサンは王太子から外された上にクリミア皇国に婿入りが決まった」

「…クリミアですか。これはまた、陛下も思いきりましたね」

「今までエイサンを甘やかしてきた反動なのかなぁ。本人からしたら堪ったもんじゃないだろうが」

クリミア皇国は、何年か前に他国の従属国になった国で、今はまた復権したものの元皇帝派と現皇帝派で争いが激化していると聞く。

「ちなみに、エイサンはどちらに…?」

「現皇帝の娘に婿入りだそうだ。他国から婿を取るということは、元皇帝の血筋を取り入れる気はないという宣言に等しい。…エイサンも、無事に王配になれるといいがな」

「未来の国王から、他国の王配ですか。…我が国から出ていってくれるならどうでもいいです。今まで好き放題してきたんだ、残りの人生で少しは苦労したらいい」

吐き捨てるように言うハロルド様に驚き、そんな私の視線に気づいたハロルド様は、

「…酷い兄だと思うだろうが、本心だ。俺はあいつを許さない」

とポツリと呟いた。その表情からは感情が読み取れず、いつもと違いすぎるハロルド様に背筋がぞくりとした。…そんなにも、実の弟を憎むほど、アデル様のことが心に重くのしかかっているのだろうか。ハロルド様は、…本当はアデル様が好きなのだろうか。でも、幼い時から育ってきたコンラッド様に遠慮して、…私と、婚約したのだろうか。

帰り道のハロルド様の態度に、疑念がポツリと跳ねた。凪いだ水面に、一滴。
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