逆行厭われ王太子妃は二度目の人生で幸せを目指す

蜜柑マル

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なにかがはじまる

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アデル様は、純潔を喪っていた。

イーストウェル家の前に馬車から投げ捨てられたアデル様は、急ぎ王宮に運ばれ、そのまま侍医の診察を受け、…乱暴された跡がまざまざと残っていたそうだ。

アデル様はなんの反応も見せずにいたが、診察室に飛び込んできたコンラッド様を見て涙をこぼし声をあげて泣き出し、…自害なさろうとしたらしい。

コンラッド様と、イーストウェル侯爵夫妻が抱き締め、4人で泣き叫び…

「わたし…っ!汚されて、しま、って、もう、」

「アデル、汚くなんかない!汚されてなんかない!アデル、大丈夫だから、俺が、守るから…!死なないでくれ、おまえが、死んだりしたら、」

コンラッド様の必死の説得に、気を失うようにアデル様は眠ってしまったそうで…その間に、アデル様はエイサン殿下の婚約者から外された。エイサン殿下は抵抗したが、「おまえは本当にアデルを殺す気なのか!」と陛下に一喝され茫然自失状態に。アデル様はイーストウェル侯爵家へ帰った。

「…良かった、とは言えないけど。命があって、良かった」

私を抱き締めながら、ハロルド様は顛末を話してくださった。

「…アデル様は、犯人を見たのですか?」

「いや、薬を飲まされていたらしく、正直、乱暴されたことも覚えていないらしい」

「そうなのですか…」

ハロルド様は私の髪の毛をさわさわと撫でると、

「まだ公にはなってないから、黙っててほしいんだけど。ヒル公爵家は、今回のアデルの件で降格になる。なにしろ、曲がりなりにも王太子の婚約者を堂々と拐わせてしまったうえに、…アデルはこんなことになってしまったから」

「降格、…爵位は、」

「二段階下がる予定だよ」

「伯爵になると、いうことですか」

「うん。公爵家はヒル家、ホワイト家、ラングレー家の三家だけど、二家になると派閥ができやすいから…叔父上が公爵に上がる。シア、ごめんね」

…ごめんね?

「なぜ、謝るのですか?」

「だって、ウッドベル家は筆頭侯爵家でしょ。本来なら、」

「でも、今回はイーストウェル家への王家からの贖罪ですよね?当然のことかと思いますが…」

そういうと、ハロルド様はキュッと眉をしかめた。

「…そうなんだけど。俺が、なんか、不甲斐なくて」

「ハル様、通常ありえないことなのですし…父が何かハル様に申し上げたりしたのですか?」

「ううん、義父上はむしろ喜んでた。公爵なんて荷が重いって。俺に申し訳ないけど、って」

「ハル様は公爵になりたいのですか」

「俺はシアと結婚したい」

…質問の答えになっていないのだが?

軽く睨み付けると、ようやくほにゃ、と微笑んでくれた。

「俺は、爵位に拘りはないから。ウッドベル家が迎えてくれた、そのことに感謝こそすれ不満なんかない」
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