逆行厭われ王太子妃は二度目の人生で幸せを目指す

蜜柑マル

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なにかがはじまる

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「セシリアはいるか!」

突然響く父の声に思わずビクリと跳ね起き、時計を見るとなんと夜中の1時だ。続けて、ドンドンドンと扉が叩かれる。

「セシリア!」

慌ててカラダを起こしカギを開けると、父は明らかにホッとした顔に変わった。今日は、土…いや、日付が変わったから日曜日だ。いったいどうしたというのだろう?

「お父様、こんな時間にどうされたのですか?」

「…すまない、おまえの姿を見るまで気が気じゃなくてな」

すると、階下から「旦那様!」と声がした。

「ハロルド殿下が…」

「今行く、客間にお通ししなさい」

…ハロルド様?

「お父様、なにが、」

「セシリア、おまえも身なりを整えたら下に来なさい。なるべく急ぐんだ。いいね」

私の返事も聞かず、父は階段をかけ降りていく。なんだかわからない、でも何か起きたのだ。バクバクする胸を抑えながら、震える手で寝巻きを脱ぐ。

顔を洗い、客間の扉をノックすると、「入りなさい」と父の声がした。

「お父様、」

「シア!良かった、無事だね」

突然ハロルド様に抱き締められ、苦しくなる。

「ハ、ハル、さ、ま」

ハッ、としたように私を離したハロルド様は、

「ごめん、苦しかったね」

と言うと、私を横抱きにし、「義父上、お許しください」とそのままソファに座った。何がなんだかまったくわからない。こんな時間に、こんなことを、

「お父様、何があったのですか!?ご説明ください!ハロルド様まで、こんな時間にいらっしゃるなんて、」

「アデル様が拐われた」

「…え?」

いま、なんて、

「昨日ヒル公爵家の成人の祝いがあっただろう?」

上からハロルド様の声が降ってくる。

「は、い、…え?アデル様は?」

「その祝いにエイサンと出掛けて、エイサンが離れた間に馭者が迎えに来たらしい。『エイサン殿下がお待ちです』と。ヒル公爵家でも、特におかしなところはなかったというんだ。王家の馭者の格好だったと。ただ、」

そのあとを父が引き取る。

「王家の紋章がその馬車にはついていなかったらしい。だが、なにしろその、エイサン殿下だろう?王太子らしくない普段の言動に加え、久し振りに会うアデル様にデレデレだったらしくてな…紋章のない馬車で、どこかにしけこむつもりなのだろうと、周りが忖度したらしい」

そんな、

「…公然と、アデル様の純潔を奪わせるつもりで見送ったと!?」

なんてことを…!

「シア、落ち着いて…それよりもさらに事態はよくないんだよ。…エイサンは、まったく思い当たりがないと…」

「…え?」

「ヒル公爵に声をかけられて、クレイグについていかに息子が素晴らしいか、いかにエイサンの助けになるかとクドクドと捕まっていたらしく、ようやく振り払って戻ってきたら、アデルが見当たらず、周囲に聞いてもまったく要領を得ず、叔父上が迎えにきたのだと頭にきてイーストウェル家に乗り込んだらしい」

「しかし、アデル嬢はいなかった」

「そ、れでは、」

「…誰かに、拐われてしまったんだ」

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