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ロゼリア・ホワイト
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「…わたくしは、それ以前の状態ですわ。クリストファー殿下にお会いしたのも、王宮にいきなり呼ばれたあの日のみで…その時、婚約者なんて話も出ず、ただ、『クリストファーだ』とだけ仰って、…第四王子殿下のリオン様とのほうがもう少し交流が持てまして」
「その場に、リオン殿下もいらしたのですか?」
ロゼリア様は少し迷うような表情になると、
「王宮に呼ばれたのは事実なのですが、父に忘れ物を届けるために来たことにせよと言われ、黙って帰れないから御挨拶する、ということになって…陛下、王妃陛下、そして四人の殿下にお目通りすることになったのです。ハロルド殿下もいらっしゃいました」
…そんなことになっていたとは。
「では、エイサン殿下にも」
「ええ。入学式で、ヒル公爵家と一悶着ありましたでしょう?怖い方だな、という印象しかなくて…御挨拶しても、エイサン殿下は名乗りもせず頷いただけでした。ハロルド殿下がすかさず『おまえは何様だ?王太子様は挨拶もしなくてよいと?』と冷たい声で仰って、陛下からもお叱りを受けていました」
…陛下が、エイサン殿下を叱った?王太子にしてからも、アデル様のことに関しても、なんにも咎めたりなさらなかったのに?
「…エイサン殿下は、それについてなにか、」
「わたくしは、怖くて見ませんでしたが家に帰る馬車の中で父が『まったく、王太子とは思えない態度だ。叱られて家臣の前で謝罪もせずふてくされるなど…あの方は公私の区別をつけられない。あのまま国王になったら、愚王になる未来しか見えない』と辛辣な言葉を吐いておりましたので、そのようだったと」
「…まぁ」
まったく成長が見られないどころか、権力を傘にきて好き放題のエイサン様に危機感を覚える。アデル様にのみ執着し、ご自分のやるべきことや王太子としての研鑽を積もうともなさらない。だからこそ、陛下もようやく次に踏み切ることになさったのだろう。…アデル様のことだけが、解決しないどころか悪化する一方だが。
「クリストファー様も、ご自分のお名前だけであとはずっと顔をしかめておいででした。なんだか御迷惑そうで、わたくし、呼ばれていったはずなのになぜこんなことになっているのだろうと…なんだか、無様な想いでした」
ふぅ、とため息が洩れる。確かになんだかよくわからない上に相手方がそんな態度なのだから…困惑以外の何物でもないだろう。
「その日、帰宅してから人払いをした父の書斎に呼ばれて、クリストファー様の婚約者になったこと、他言してはならないこと、妃教育が明日から始まること、などを淡々と告げられまして…理由をきいても、言えない、とだけで。…それ以来、わたくしの中にわだかまりができてしまったのでしょうね。父とも、母とも、あまり口をきかなくなってしまいました。相談もできず、…暗闇で、もがいているようで…」
ロゼリア様の苦境は想像以上に酷く、私はハロルド様に怒りを覚えた。なんてことを押し付けるのか。そもそも王家の問題なのに、エイサン殿下を御すこともせずコソコソと、それで犠牲者を作って、何が王家か。
「…ご、ごめんなさい、セシリア様、こんな話」
「…え?」
「いえ、あの、怒って、いらっしゃるから、」
慌てて手を振る。
「違います、ロゼリア様に対してではありません!顔に出ていましたか?申し訳ありません」
私の言葉に、ロゼリア様はホッとしたように微笑んだ。
「…わたくし、幼い時から同じ公爵家だとなぜかヒル公爵家の兄妹に目の敵にされていて、あちらは二人がかりですから、理不尽なこともたくさんされまして、…王家の方々に関わるなんて、無理なんです。わたくしは、強くない…」
マリエル様だけでなく、クレイグ様もそんなことを…入学式のときも、アデル様のことを嘲笑う表情だったことを思いだし、嫌な気持ちになる。
「その場に、リオン殿下もいらしたのですか?」
ロゼリア様は少し迷うような表情になると、
「王宮に呼ばれたのは事実なのですが、父に忘れ物を届けるために来たことにせよと言われ、黙って帰れないから御挨拶する、ということになって…陛下、王妃陛下、そして四人の殿下にお目通りすることになったのです。ハロルド殿下もいらっしゃいました」
…そんなことになっていたとは。
「では、エイサン殿下にも」
「ええ。入学式で、ヒル公爵家と一悶着ありましたでしょう?怖い方だな、という印象しかなくて…御挨拶しても、エイサン殿下は名乗りもせず頷いただけでした。ハロルド殿下がすかさず『おまえは何様だ?王太子様は挨拶もしなくてよいと?』と冷たい声で仰って、陛下からもお叱りを受けていました」
…陛下が、エイサン殿下を叱った?王太子にしてからも、アデル様のことに関しても、なんにも咎めたりなさらなかったのに?
「…エイサン殿下は、それについてなにか、」
「わたくしは、怖くて見ませんでしたが家に帰る馬車の中で父が『まったく、王太子とは思えない態度だ。叱られて家臣の前で謝罪もせずふてくされるなど…あの方は公私の区別をつけられない。あのまま国王になったら、愚王になる未来しか見えない』と辛辣な言葉を吐いておりましたので、そのようだったと」
「…まぁ」
まったく成長が見られないどころか、権力を傘にきて好き放題のエイサン様に危機感を覚える。アデル様にのみ執着し、ご自分のやるべきことや王太子としての研鑽を積もうともなさらない。だからこそ、陛下もようやく次に踏み切ることになさったのだろう。…アデル様のことだけが、解決しないどころか悪化する一方だが。
「クリストファー様も、ご自分のお名前だけであとはずっと顔をしかめておいででした。なんだか御迷惑そうで、わたくし、呼ばれていったはずなのになぜこんなことになっているのだろうと…なんだか、無様な想いでした」
ふぅ、とため息が洩れる。確かになんだかよくわからない上に相手方がそんな態度なのだから…困惑以外の何物でもないだろう。
「その日、帰宅してから人払いをした父の書斎に呼ばれて、クリストファー様の婚約者になったこと、他言してはならないこと、妃教育が明日から始まること、などを淡々と告げられまして…理由をきいても、言えない、とだけで。…それ以来、わたくしの中にわだかまりができてしまったのでしょうね。父とも、母とも、あまり口をきかなくなってしまいました。相談もできず、…暗闇で、もがいているようで…」
ロゼリア様の苦境は想像以上に酷く、私はハロルド様に怒りを覚えた。なんてことを押し付けるのか。そもそも王家の問題なのに、エイサン殿下を御すこともせずコソコソと、それで犠牲者を作って、何が王家か。
「…ご、ごめんなさい、セシリア様、こんな話」
「…え?」
「いえ、あの、怒って、いらっしゃるから、」
慌てて手を振る。
「違います、ロゼリア様に対してではありません!顔に出ていましたか?申し訳ありません」
私の言葉に、ロゼリア様はホッとしたように微笑んだ。
「…わたくし、幼い時から同じ公爵家だとなぜかヒル公爵家の兄妹に目の敵にされていて、あちらは二人がかりですから、理不尽なこともたくさんされまして、…王家の方々に関わるなんて、無理なんです。わたくしは、強くない…」
マリエル様だけでなく、クレイグ様もそんなことを…入学式のときも、アデル様のことを嘲笑う表情だったことを思いだし、嫌な気持ちになる。
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