逆行厭われ王太子妃は二度目の人生で幸せを目指す

蜜柑マル

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ロゼリア・ホワイト

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ホワイト公爵家に着くと、キャサリン様が先に降り説明をしてくださる。執事の方だろう、馬車の扉を開けて私からロゼリア様を抱き上げた男性は、

「ウッドベル侯爵家のご息女、セシリア様ですね。お嬢様をお連れくださり、ありがとうございました。お嬢様の目が覚めるまで、よろしければ滞在していただけませんか。…お嬢様のために、お願いしたいのです」

そう言って、そっとロゼリア様を見つめた。その瞳があまりにも悲しげで、胸がギュッと掴まれたように苦しくなる。

ホワイト公爵家の方々は、ロゼリア様の苦境を嘆き、苦しむロゼリア様のことを思いおつらいのだろう。何も手助けができず、見守ることしかできない。

(侍女長たちも、こんな気持ちだったのかしら)

前回の私を、最後まで支えてくれた侍女長。なんにも、恩返しできなかった。

その代わりにもならないだろうけど、今回は私がロゼリア様の力になりたい。支えになりたい。前回の私のように、心を壊させたくない。

「では、お言葉に甘えます。ありがとうございます」

私の言葉を聞いて、男性はニコリと微笑んだ。

「キャサリン様は、」

「私はこのまま帰ります。イーサン様にお叱りを受けますので。いいですか、セシリア様、必ずこの馬車でお帰りください。馭者にもそのように申し付けてあります。よろしいですね」

イーサン様、と言われてはこれ以上無理強いできない。キャサリン様に礼をし、ロゼリア様を抱いた男性の後に続いた。

男性は、キャサリン様の私室と思われる部屋に私を通すと、キャサリン様をそっとベッドによこたえた。その表情はまったく見えないが、こちらに向けた背中が小刻みに震えている。

「…申し訳ありません、どうぞ、お座りください」

ソファを勧められ腰をおろしたとき、ロゼリア様の「…ん」という声が聞こえた。途端に男性が駆け寄る。

「お嬢様!」

「…ライアン?…わたくし…」

ロゼリア様が起き上がるのを甲斐甲斐しく手伝うライアンさんは、ロゼリア様の背中にクッションをいくつか当て

「お嬢様、苦しくないですか」

と顔を覗き込んだ。

「大丈夫よ、ありがとう…わたくし、どうして、」

視線をさまよわせるロゼリア様は、その視界に私を捉えるとハッとした顔になった。

「セシリア様…っ」

「ロゼリア様、そのままで。倒れられたのですよ、まだ危ないです」

ベッドに近づくと、ロゼリア様はうつむき肩を震わせた。その背中をそっとさする。

「…おつらいですね」

私の言葉に顔をあげたロゼリア様は涙を浮かべ、つらそうに眉間を寄せた。

「ご、ごめんなさ、い、…わたくし…っ」

「ロゼリア様、なぜ謝るのですか。なんにも、されていないのに。むしろご自分の心配をなさってください」

「でも…っ、…ひ、とま、えで…っ」

「泣いていいんですよ。泣いて、吐き出さないと、ロゼリア様の心が壊れてしまいます。壊れたら、もう、元には戻りません。ロゼリア様は、そうやって壊れたままこの先の人生を送るのですか。私は、賛成できません。心を、壊さないで…諦めては、いけません」

ボロボロと、ロゼリア様の青い瞳から涙が零れ落ちる。

「ふ、…ぅっ」

「ロゼリア様、ここはロゼリア様のお部屋です。声を上げて泣いても、誰も咎めたりなさらない。さ、ロゼリア様。大丈夫ですから」

「…セシリアさま…っ」

ロゼリア様は私にギュッと抱きつくと、声を上げて泣き出した。幼子のように、ワンワンと、後から後から涙を流し…気がつくと、私の頬も涙で濡れていた。ライアンさんは、そっと部屋を出ていった。
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