逆行厭われ王太子妃は二度目の人生で幸せを目指す

蜜柑マル

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ロゼリア・ホワイト

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ホワイト公爵家に着くまで、ロゼリア様は目を覚まさなかった。膝の上にロゼリア様の頭を乗せ、なるべく揺れないようにする。その顔は青白く、いつかのアデル様を思わせた。頬にそっと触れると、ひんやりと冷たかった。間近で見ると隈もできており、同い年にも関わらず頬がやつれ年相応の顔に見えない。

向かいに座るキャサリン様から、ポツリと言葉が零れる。

「ロゼリア様は…急にクリストファー様の婚約者に定められてしまい、同時に追いたてられるように妃教育が始まってしまいました。元々生真面目な方ですから、きちんとしなければ、という責任感から夜もあまり眠れていないようです」

…キャサリン様の情報網が怖い。さすが未来のジルコニアと言うべきか。

「それと、」

キャサリン様はロゼリア様をじっと見つめながら静かに続ける。

「なぜ、自分が選ばれたのか…そこがご納得いかないようで…クリストファー様とお会いしたのも婚約者に決まったと王宮に呼ばれた時のみで、その時にも儀礼的な挨拶しかなく…まったく交流がないのに、と」

「クリストファー様は、なぜロゼリア様とお会いしないのですか?」

「クリストファー様の婚約者にロゼリア様が決まったのは、極一部が知るのみ…ハロルド様からもお聞きかと思いますが、エイサン殿下に知られぬよう妃教育もホワイト公爵邸で行われています。エイサン殿下に、余計な詮索をさせないためです。…これ以上は、申し上げられません」

キュ、と口元を引き締めてしまったキャサリン様は、そのまま目をつぶってしまった。

クリストファー様にお会いできず、お話もできず…一方的に押し付けられている、という気持ちが拭えないであろう。それでもロゼリア様が逃げ出さないのは、責任感もあるだろうが…諦め、なのかもしれない。公爵家令嬢として、求められる人間にならねば、と。自分の心など構ってはならないのだと。でも、割りきれないから、こんなにもお体が弱っているのだ。

ハロルドさまは、「クリストファーの想い人」と言っていた。でも、クリストファー様はそれをロゼリア様に伝えていない。…どこにエイサン様の影がいるかわからないから。エイサン様は権力を余すことなく使うと、コンラッド様も仰っていた。王太子として相応しくないと公然と言われているエイサン様は、ご自分が廃太子される未来も考えているのだろう。しかし、アデル様にあれだけの執着を見せるエイサン様がそう易々と王太子の座を諦めるだろうか。

ハロルド様という一番の敵は継承権を放棄して久しい。本人からも、争う気配など感じないだろう。実際になる気がないのだから。エイサン様が国王になるのは嫌だが、自分がなるのも嫌だと思っているのだから当然だ。

そうなれば、エイサン様の敵はクリストファー様とその下にいらっしゃる第四王子、リオン様だ。たぶんどちらにも、王太子という立場を存分に使い密偵を放っているのだろう。同じご兄弟なのに…。

どうにかして、ロゼリア様とクリストファー様の仲を深めることはできないだろうか。このままいくと、ロゼリア様は前回の私と同じになる。クリストファー様の想いを知らぬままご成婚され、壁を作ったまま、公務として求められたのだと勘違いしたまま、心を壊す。そんなふうにさせたくない。

知らず知らず、手を握りしめていた。
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