逆行厭われ王太子妃は二度目の人生で幸せを目指す

蜜柑マル

文字の大きさ
上 下
67 / 91
ある出来事

10

しおりを挟む
それから私とハロルド様は、たまに昼食を共にするくらいで登下校以外は別々に過ごすようになった。初めは仲違いしたのではないかと噂されていたようだが、登下校は変わらず一緒であり、仲睦まじくいる様子からその噂もすぐに消えた。

クリストファー様の婚約者…表向きはまだ「候補」であるが…、その方はホワイト公爵家のロゼリア様だった。私たちと同じ学年で、ヒル家と同格の力を持つ公爵家の長女。前回の人生ではマリエル様とともにハロルド様の妃候補と目されていた方だ。私が婚約者に決まってしまってからも、それ以前も、ほとんど交流はなかった。今回も学園の同級生という以上の関係はない。だから、どのような方なのか詳しくわからない。

「ロゼリア様」

それでも。私はこの方と繋がりを強めなければならない。

「…セシリア様」

振り向いたロゼリア様の顔は、なんの感情も読み取らせない表情だった。完璧な公爵令嬢。ロゼリア様も、前世とお変わりない。

「わたくしに何かご用ですか?」

「…今までなんの交流もなく、突然お声をかけて申し訳ありません」

「いいえ。セシリア様だけでなく、わたくしと交流のある方はおりません。…ヒル家に睨まれてしまいますから」

そう呟くように言ったロゼリア様の顔に、ほんの少し哀しみの色がのる。…ヒル家に睨まれる?

「…どういうことなのか、お伺いしても?」

ロゼリア様は哀しみで揺らぐ瞳を私に向けた。

「聞いてしまったら、セシリア様に御迷惑がかかるやも」

「ロゼリア様も御存知かと思いますが、私はいまやマリエル様の公然たる敵です。私のせいでマリエル様は二度も停学になっています。ヒル公爵から謝罪はいただきましたが、マリエル様ご自身は私を憎んでおられるでしょう。私と関わることでロゼリア様も目の敵にされるやもしれません…関わらないほうがよろしければ、この声かけはなかったものとしてください」

ロゼリア様は驚いたような顔つきになると、目元が赤く染まり始めた。その瞳から涙がハラハラと零れおちる。

「ロゼリア様…っ」

崩れ落ちそうになるロゼリア様を抱き止める。その細い感触にギクリとする私の横から、誰かの手がロゼリア様を支えた。

「…キャサリン様」

「セシリア様、私が運びます。参りましょう」

「え、あの、」

同じ女性でありながらキャサリン様はロゼリア様を抱き上げ、スタスタと歩いてゆく。その後を必死で追いかけるが、小走りにならないとついていけないくらい速い。将来ジルコニア家に嫁入りするキャサリン様が様々な訓練を受けていることは耳にしていたが、その身のこなしを見て感嘆してしまう。同時に、婚家のためにそれだけの努力をされているキャサリン様に比べて自分の甘さをまざまざと見せつけられる思いだった。

前回はただ逃げ回っていただけだった。そのうえ、一番卑怯な逃げ方をした。死んで逃げるなんて。

今回は覚悟を決めた。ハロルド様とともに生きると。だからこそ、私も努力する。キャサリン様のように。

「キャサリン様、あの、」

「ロゼリア様は意識を失っておいでです。今日は早退されたほうがよいかと。我が家の馬車でお送りいたします」

「私もご一緒してもよろしいですか」

息も絶え絶えの思いでかろうじて絞り出すと、キャサリン様はピタリと足を止め振り返った。

「では、セシリア様にお願いいたします。何かお話があるご様子でしたし…学園には私が説明をいたします。セシリア様、我が家の馬車はそのままロゼリア様のところに待たせますので、帰りはそのまままた馬車に乗りお帰りください」

「で、も、」

「私が、イーサン様にお叱りを受けます。お願いいたします」

有無を言わせぬキャサリン様の瞳に何も言えず、私は頷くしかなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

夫の書斎から渡されなかった恋文を見つけた話

束原ミヤコ
恋愛
フリージアはある日、夫であるエルバ公爵クライヴの書斎の机から、渡されなかった恋文を見つけた。 クライヴには想い人がいるという噂があった。 それは、隣国に嫁いだ姫サフィアである。 晩餐会で親し気に話す二人の様子を見たフリージアは、妻でいることが耐えられなくなり離縁してもらうことを決めるが――。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~

流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。 しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。 けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

処理中です...