逆行厭われ王太子妃は二度目の人生で幸せを目指す

蜜柑マル

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ある出来事

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「シアの、成長…?」

「ええ。私、前回もでしたが、今回も他の令嬢たちとの繋がりや関係性を築けていないということにようやく気がつきまして…」

「そ、うか、な、」

「そうです。こうして登園から家に帰るまでハル様とずっと一緒で、コンラッド様やイーサン様とは確かにお付き合いさせていただいていますが、それはハル様から繋げていただいた縁ですし…今更ながらに、女性のおともだちがいないな、と…」

ハロルド様は考え込むような顔をすると、

「でも、アデルも、イーサンの婚約者も、」

「ハル様。仲が良い…気心のしれた方がいるのはとてもありがたいことなのですが、社交界にでればそれだけでは渡り合っていけませんでしょう?アデル様のようなおともだちは、たったひとりいてくださればいい。ただ、何かがあったときに助け合えるネットワークが欲しいのです。学園で構築しておかないと、卒業してからでは難しいので…。

幸い、いまはマリエル様が学園にいないおかげで、彼女に気遣うことなく…顔色を伺わずに済む雰囲気ですから関係も構築しやすいかと…夏休みの間もお茶会を開いて、マリエル様に対抗できるネットワークを構築します。それから…」

ハロルド様はまだ顔の強ばりが解けていないが、黙って聞いてくれていた。

「もしかしたら、エイサン様の代わりに王太子になるやもしれぬクリストファー様のご婚約者をご紹介いただけませんか?」

「なぜ?」

「もし本当にクリストファー様が王太子になられたときのために…私は、…ウッドベル侯爵家はクリストファー様側であると、明確にするためです」

「だって、俺とクリスは兄弟なんだよ。もちろんクリス側に決まっ」

「ハル様、エイサン様側ではありませんよね。ご兄弟なのに」

グッ、と詰まったようになるハロルド様を見て、なんとなく可愛らしいと思ってしまう。いつも、うまい具合に言いくるめられているから…。私は、ハロルド様と並び立ちたいのだ。黙ってかしづき、守られ甘えるだけの存在ではありたくないのだ。だから、これからは…今日からはハロルド様にきちんと意見していくのだ。もしそれで、意見の対立が起きたとしても。

「…クリスの婚約者は、秘密裏に妃教育が始まってる。王宮ではできないから、彼女の家に教師が派遣されているんだよ。ただ、王宮での教育ならその日何人かで受け持つから、質問やらもしやすいんだろうけど…学園もあって放課後の二時間とか、ほんの限られた時間だから…彼女もストレスが溜まり始めているようでね。クリスが心配しているんだ」

「そうなのですか…」

幼いころに決まったのならまだしも、いきなり決まり、心も落ち着かないうちに妃教育が始まるなんて…ましてやクリストファー様は第三王子殿下、王太子ではない。その方の家に婿入りする、というのが妥当なはずなのになぜ自分が妃教育を受けているのか納得がいかないのではないだろうか。エイサン殿下にはその方がクリストファー様の婚約者だということもまだ伏せられているのだろうから、その方も、その方の家も、公にすることが赦されてはいないのだとすれば…ご家族ともに、かなりのストレスにさらされているはずだ。

私はハロルド様の手をキュッと握って視線を合わせた。

「ではそのためにも、私を手放してくださいますか?」

ハロルド様は一瞬面食らったような顔になった後、ふっと力が抜けたように微笑んだ。

「…手放す、っていうのは、シアと過ごす時間を減らす、ってことだね。確かに、家にいるとき以外は俺がずーっと一緒だもんね。…我慢する。これからの、シアとの人生のために。シアと過ごせない時間は、俺も関係作りに勤しむことにするよ」

「…!ありがとうございます!」

ハロルド様と繋いだ手が、私のカラダを抱き寄せる。

「こっちこそ…ありがとう、シア。そんなふうに考えてくれて…嬉しい。ありがとう」

ニコ、と笑ってくれたハロルド様に心が温かくなった。
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