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新たな火種
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それからしばらくは、平穏な日々が続いた。停学中だったマリエル様は戻ってきて、エイサン殿下が学園を辞めたことにかなりショックをうけているようだった。
「あの女は、」
「…ハル様」
「…失礼。ヒル公爵令嬢は王太子妃を狙っているからな。幼い時から辟易してたよ。さっさと王位継承権を放棄してからは纏わりつかれなくなって助かった。あの女は、誰でもいいんだよ。自分が王太子妃になれれば、相手なんて誰でもいいんだ。だからこそ、クリスには今年中に婚約者を決める。幸い、クリスは幼い頃から想い人がいてね、打診したところ感触もよかったらしい。…本人はわからないが」
本人は、ということは想い人とされている方の気持ちではなく、その方の家の返答が好感触だった、ということだろう。しかし、マリエル様は前回とやはり変わっていないのだな、と苦笑する。ご自分こそが王太子妃、ひいては未来の王妃にふさわしい、と。確かに自信に満ち溢れる、堂々とした様は立派だ。でも、あの方には博愛精神がない。あるのは自分さえよければいい、という傲慢さだ。王妃になるには、強さ、したたかさ、それも必要だが根底には優しさがなければ務まらない。クリストファー様のお相手になる方が、そういう方であることを願う。
「おはよう、ハロルド、セシリア様」
そんな物思いに捕らわれていたところ、登園してきたコンラッド様に声をかけられた。
「おはようございます、コンラッド様」
「セシリア様、放課後お時間ありますか?アデルがぜひお会いしたいと、」
「シアはいつでも忙しいから無理だ」
「朝から馬鹿発言はおやめください、第1王子殿下」
「そうですよ、殿下」
「イーサン、いきなり入ってきて俺を貶めるとは」
学園内で、イーサン様が常にハロルド様、コンラッド様とご一緒にいるようになり、必然的に私もイーサン様、そしてイーサン様の婚約者であるキャサリン様、その双子の弟であるレイノルド様と過ごす時間が増えた。キャサリン様、レイノルド様はアクロイド伯爵家の嫡子で、キャサリン様は未来のジルコニア当主夫人に相応しい…と言っていいのかわからないが、ある種の冷たさを持った女性であった。
「本当のことを言っただけです。なぁ、レイノルド」
ぐ、と肩を引き寄せられたレイノルド様は静かにその手を避けると、
「イーサン、やめろ。おまえは次期ジルコニア当主なんだぞ。俺とは立場が違うんだ。馴れ馴れしい態度を見せるな、もう少し自覚を持て」
とやんわりと窘めた。その顔には柔らかな微笑みが浮かんでいる。双子ながらキャサリン様は月、レイノルド様は太陽のような方だ。
イーサン様はまったく悪びれるでもなく、今度はレイノルド様を自分の胸に引き寄せた。
「…あのな」
「いいだろ、むしろ俺とおまえが仲がいいと見せつけて何が悪い?…アクロイド家とうちが縁を結ぶのは公然の事実だ。おまえが、」
「イーサン様」
ひんやりとした声にそちらに視線を向けると、キャサリン様が立っていた。
「おはようございます、皆様。イーサン様、レイノルドに触れるのはおやめください」
「おまえにそんなことを言われる筋合いはない。殿下、失礼いたします。行くぞ、レイノルド」
「どこにだ、」
「いいから来い」
ペコリ、と頭を下げたレイノルド様は引きずるようにイーサン様に連れて行かれてしまった。キャサリン様はそれを見、静かにご自分の席に戻って行く。表情が見えないので、どんな様子なのかわからない。
「イーサンにしては珍しいな。あんな風に自分を出すなんて。…あ、ハロルドの馬鹿発言で忘れるところだった。いかがですか、セシリア様」
「ぜひ、」
「あの女は、」
「…ハル様」
「…失礼。ヒル公爵令嬢は王太子妃を狙っているからな。幼い時から辟易してたよ。さっさと王位継承権を放棄してからは纏わりつかれなくなって助かった。あの女は、誰でもいいんだよ。自分が王太子妃になれれば、相手なんて誰でもいいんだ。だからこそ、クリスには今年中に婚約者を決める。幸い、クリスは幼い頃から想い人がいてね、打診したところ感触もよかったらしい。…本人はわからないが」
本人は、ということは想い人とされている方の気持ちではなく、その方の家の返答が好感触だった、ということだろう。しかし、マリエル様は前回とやはり変わっていないのだな、と苦笑する。ご自分こそが王太子妃、ひいては未来の王妃にふさわしい、と。確かに自信に満ち溢れる、堂々とした様は立派だ。でも、あの方には博愛精神がない。あるのは自分さえよければいい、という傲慢さだ。王妃になるには、強さ、したたかさ、それも必要だが根底には優しさがなければ務まらない。クリストファー様のお相手になる方が、そういう方であることを願う。
「おはよう、ハロルド、セシリア様」
そんな物思いに捕らわれていたところ、登園してきたコンラッド様に声をかけられた。
「おはようございます、コンラッド様」
「セシリア様、放課後お時間ありますか?アデルがぜひお会いしたいと、」
「シアはいつでも忙しいから無理だ」
「朝から馬鹿発言はおやめください、第1王子殿下」
「そうですよ、殿下」
「イーサン、いきなり入ってきて俺を貶めるとは」
学園内で、イーサン様が常にハロルド様、コンラッド様とご一緒にいるようになり、必然的に私もイーサン様、そしてイーサン様の婚約者であるキャサリン様、その双子の弟であるレイノルド様と過ごす時間が増えた。キャサリン様、レイノルド様はアクロイド伯爵家の嫡子で、キャサリン様は未来のジルコニア当主夫人に相応しい…と言っていいのかわからないが、ある種の冷たさを持った女性であった。
「本当のことを言っただけです。なぁ、レイノルド」
ぐ、と肩を引き寄せられたレイノルド様は静かにその手を避けると、
「イーサン、やめろ。おまえは次期ジルコニア当主なんだぞ。俺とは立場が違うんだ。馴れ馴れしい態度を見せるな、もう少し自覚を持て」
とやんわりと窘めた。その顔には柔らかな微笑みが浮かんでいる。双子ながらキャサリン様は月、レイノルド様は太陽のような方だ。
イーサン様はまったく悪びれるでもなく、今度はレイノルド様を自分の胸に引き寄せた。
「…あのな」
「いいだろ、むしろ俺とおまえが仲がいいと見せつけて何が悪い?…アクロイド家とうちが縁を結ぶのは公然の事実だ。おまえが、」
「イーサン様」
ひんやりとした声にそちらに視線を向けると、キャサリン様が立っていた。
「おはようございます、皆様。イーサン様、レイノルドに触れるのはおやめください」
「おまえにそんなことを言われる筋合いはない。殿下、失礼いたします。行くぞ、レイノルド」
「どこにだ、」
「いいから来い」
ペコリ、と頭を下げたレイノルド様は引きずるようにイーサン様に連れて行かれてしまった。キャサリン様はそれを見、静かにご自分の席に戻って行く。表情が見えないので、どんな様子なのかわからない。
「イーサンにしては珍しいな。あんな風に自分を出すなんて。…あ、ハロルドの馬鹿発言で忘れるところだった。いかがですか、セシリア様」
「ぜひ、」
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