逆行厭われ王太子妃は二度目の人生で幸せを目指す

蜜柑マル

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新たな火種

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朝礼を受けながら、先ほどのイーサン様の発言を思い返す。王太子を廃することも考えているのだなどと、…つい先日立太子されたばかりなのに、あんなことをこの貴族社会の縮図である学園で…今夜は各家が騒がしくなるだろう。重鎮の方々、陛下、とまでイーサン様は仰った。そのことを家長に報告しない子息子女はいないだろう。

大丈夫なのだろうか…。もし、本当にエイサン殿下が王太子でなくなるとしたら、…誰が代わりに立太子するのか。まさか、ハロルド様が…。

そう思った途端、胸がギュウッと締め付けられるように痛くなる。今は私と婚約しているが、それはあくまでもハロルド様が我が家に婿入りするからであり、もし王太子になるのだとしたら、私はハロルド様の婚約者ではなくなるかもしれない。王太子妃に相応しいかどうか、となれば、正直自信もない。前回、確かに公務はこなしていたけれど、殿下に愛されないからと愛人に負けて自ら死を選ぶような弱い私は、王太子妃として王宮の海千山千と闘うことができない…。前回に比べれば、強くなっただろう、でも、あそこに…ツラい思い出しかないあの場所で、私は…。

「シア」

ハッ、と顔を上げるとハロルド様がこちらを覗きこむように見ていた。眉をしかめたハロルド様は、

「シア、顔色が悪い。…先生。ウッドベル侯爵令嬢も今日は連れて帰ります。私の婚約者なので、話をしておきたい」

「わかりました。では、エイサン殿下の件、よろしくお願いいたします」

「学園に結局御迷惑をかける形になり申し訳ありません。陛下の判断については本日中に学園長にご連絡がいくと思います。では、失礼いたします。…シア、荷物持って。行くよ」

…え?

「ハル、…ハロルド様、」

「馬車の中で話をするから。さ、立てる?無理なら抱いていくから…」

途端に抱き上げられそうになり、慌てて立ち上がる。

「だ、大丈夫です、歩けます」

「ほんとに?無理してない?」

ハロルド様の眉間はまだギュッとしかめられたままだった。体調が悪いというより、初日から早退するということが問題なのだが…。

しかし、担任の先生も了承してしまったし、今さらどうしようもない。周りの視線を受けながら教室を出るまでとても居たたまれない思いをした。

「シア、エイサンはアデルがいないから学園は辞めることになった。来年、正規の年で入り直す」

「え!?」

「まったく、あいつの頭の中はどうなってるのか…自分で飛び級を決めて、学園には渋られたのを無理矢理入ったくせに、昨日の今日でもう翻すとは…学園長もかなり呆れていたよ」

「エイサン殿下は、」

「イーサンが連れて行った。俺はあいつと同じ馬車なんてごめんだからな。シアがいるならなおさらだ」

そう吐き捨てるように言ったハロルド様は、私の頬に手を当てた。その感触に、途端に鼓動が激しくなる。

「ハ、ハル様」

「シア、大丈夫?さっき、かなり顔色が悪かったから…今は少しマシな顔色になったけど…何かあったの?」

「いえ、何も…」

「シア」

低い声とともに、顔をグッと持ち上げられる。ハロルド様と目が合って思わず逸らすと、

「何もないなら、俺の目を見て。こっちを見て」
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