44 / 91
新たな火種
2
しおりを挟む
「わかってる。それでも、感謝したいんだよハロルド。父上も母上も、もちろんアデルも…みんな、同じ気持ちだ」
これから、とは、いったいどういう意味なのだろう?
「ハル様、」
「コンラッド!」
ハロルド様に言葉の真意を尋ねようとしたところで、エイサン殿下の声に遮られてしまった。
「…何用ですか」
先ほどとはうって変わって冷え冷えとした声で応対するコンラッド様は、ハロルド様同様、能面のような顔に変わっていた。似ているふたりが同じ表情になるとかなりの迫力があり怖い。静かな怒りをひしひしと感じ、ついハロルド様の制服を握ると、さっと手を繋がれ、
「シア、大丈夫だよ」
と微笑まれた。その優しい笑顔にホッとしたのも束の間、また表情を変えたハロルド様はエイサン殿下に、
「何の用だ」
と吐き捨てるように言った。
「…兄上、やっぱりコンラッドとグルなのですか!」
「グルとはなんだ?さっきから聞き捨てならない言葉の数々だが、おまえは王太子だから何を言っても赦されるとでも勘違いしているのか?俺に対する侮辱ととるぞ。決闘だ、表に出ろ」
ハロルド様の怒りに満ちた声にサッと顔色を悪くしたエイサン殿下は、
「…申し訳ありません、言葉が過ぎました。しかし、」
「しかし?なんだ?」
「僕は!アデルと共に学園に通いたくて飛び級したんです!それなのに、僕に断りもなく学園を辞めるなんて、無礼だと思わないのですか!?」
「だったら不敬罪で処罰してください、我が家を。父がアデルの命を守るために決めたことです。昨日も父が申し上げたでしょう、潰すなら潰せと。我が家が気に入らないならそうすればいいと。イーストウェル家はアデルを守ります。むざむざ死なせるなんてことはしない。アデルを殺すなら、我々も死にます。ただし、タダでは死にませんよ、エイサン殿下」
コンラッド様は淡々と無表情のままエイサン殿下に告げると、
「アデルは、貴方のことがだいっきらいなんですよ、エイサン殿下。幼い時から過ごしてきても、アデルの信頼や関心を勝ち取れなかったのだから諦めるべきだ。何度も言いますが、アデルは元は犯罪奴隷になった親を持つ人間です。王太子ともあろう立場の人間が、惚れた腫れたで未来の王妃を決めるなんて…世も末だ」
「…おまえっ」
胸ぐらに掴みかかるエイサン殿下に、コンラッド様は蔑んだ笑みを浮かべ、
「本当のことを言われて怒るなんて、王太子としての資質を疑いますね…あ、だからこそバカのひとつ覚えのように、嫌がるアデルを妻にすると言い続け、ついには殺そうとしているわけだ」
その顔にエイサン殿下の拳が打ち付けられ、コンラッド様は机とともに盛大な音を立てて倒れた。
「何をしているのです!エイサン様、学園内で暴力など…いったい何を…!」
教室に入ってきた担任がエイサン殿下の腕を掴むと、すかさず「お手伝いします」とイーサン様がエイサン殿下を拘束した。
「イーサン…っ!貴様、」
「エイサン殿下、我は王家の盾です。王家の人間の盾ではない。善悪の区別がつかない暴君は粛清もしかるべき…それが我がジルコニア家の教えです。おわかりですか?」
イーサン様も、ハロルド様、コンラッド様同様に能面のような顔でエイサン殿下を見据えている。
これから、とは、いったいどういう意味なのだろう?
「ハル様、」
「コンラッド!」
ハロルド様に言葉の真意を尋ねようとしたところで、エイサン殿下の声に遮られてしまった。
「…何用ですか」
先ほどとはうって変わって冷え冷えとした声で応対するコンラッド様は、ハロルド様同様、能面のような顔に変わっていた。似ているふたりが同じ表情になるとかなりの迫力があり怖い。静かな怒りをひしひしと感じ、ついハロルド様の制服を握ると、さっと手を繋がれ、
「シア、大丈夫だよ」
と微笑まれた。その優しい笑顔にホッとしたのも束の間、また表情を変えたハロルド様はエイサン殿下に、
「何の用だ」
と吐き捨てるように言った。
「…兄上、やっぱりコンラッドとグルなのですか!」
「グルとはなんだ?さっきから聞き捨てならない言葉の数々だが、おまえは王太子だから何を言っても赦されるとでも勘違いしているのか?俺に対する侮辱ととるぞ。決闘だ、表に出ろ」
ハロルド様の怒りに満ちた声にサッと顔色を悪くしたエイサン殿下は、
「…申し訳ありません、言葉が過ぎました。しかし、」
「しかし?なんだ?」
「僕は!アデルと共に学園に通いたくて飛び級したんです!それなのに、僕に断りもなく学園を辞めるなんて、無礼だと思わないのですか!?」
「だったら不敬罪で処罰してください、我が家を。父がアデルの命を守るために決めたことです。昨日も父が申し上げたでしょう、潰すなら潰せと。我が家が気に入らないならそうすればいいと。イーストウェル家はアデルを守ります。むざむざ死なせるなんてことはしない。アデルを殺すなら、我々も死にます。ただし、タダでは死にませんよ、エイサン殿下」
コンラッド様は淡々と無表情のままエイサン殿下に告げると、
「アデルは、貴方のことがだいっきらいなんですよ、エイサン殿下。幼い時から過ごしてきても、アデルの信頼や関心を勝ち取れなかったのだから諦めるべきだ。何度も言いますが、アデルは元は犯罪奴隷になった親を持つ人間です。王太子ともあろう立場の人間が、惚れた腫れたで未来の王妃を決めるなんて…世も末だ」
「…おまえっ」
胸ぐらに掴みかかるエイサン殿下に、コンラッド様は蔑んだ笑みを浮かべ、
「本当のことを言われて怒るなんて、王太子としての資質を疑いますね…あ、だからこそバカのひとつ覚えのように、嫌がるアデルを妻にすると言い続け、ついには殺そうとしているわけだ」
その顔にエイサン殿下の拳が打ち付けられ、コンラッド様は机とともに盛大な音を立てて倒れた。
「何をしているのです!エイサン様、学園内で暴力など…いったい何を…!」
教室に入ってきた担任がエイサン殿下の腕を掴むと、すかさず「お手伝いします」とイーサン様がエイサン殿下を拘束した。
「イーサン…っ!貴様、」
「エイサン殿下、我は王家の盾です。王家の人間の盾ではない。善悪の区別がつかない暴君は粛清もしかるべき…それが我がジルコニア家の教えです。おわかりですか?」
イーサン様も、ハロルド様、コンラッド様同様に能面のような顔でエイサン殿下を見据えている。
11
お気に入りに追加
4,794
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

夫の書斎から渡されなかった恋文を見つけた話
束原ミヤコ
恋愛
フリージアはある日、夫であるエルバ公爵クライヴの書斎の机から、渡されなかった恋文を見つけた。
クライヴには想い人がいるという噂があった。
それは、隣国に嫁いだ姫サフィアである。
晩餐会で親し気に話す二人の様子を見たフリージアは、妻でいることが耐えられなくなり離縁してもらうことを決めるが――。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~
流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。
しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。
けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。
子持ちの私は、夫に駆け落ちされました
月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。

アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる