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新たな火種
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「ハロルド殿下、セシリア様、おはようございます」
教室に入り席につくと、ヒル公爵家のクレイグ様が近づいてきた。立ち上がろうとすると、ハロルド様に肩をぐっと押さえつけられる。
「シア、立ち上がる必要はない。…ヒル公爵子息、なんの用だ」
取り付く島もない言い方に驚いて見上げたハロルド様の顔は、エイサン殿下に対していたとき同様能面のようで、冷え冷えとした雰囲気のままだった。
「ハロルド殿下、昨日はマリエルが申し訳ございませんでした。本人も大変反省しており、」
「今日から2週間の停学だと伝えられて、『なんで公爵家のわたくしがあんなどぶねずみとその取り巻きなんかのために!』と叫んだそうだが、その態度のどこをどう解釈すると大変反省につながるのか、俺には理解できない。そもそも、謝る相手が間違っているぞヒル公爵子息。貴様の妹に理不尽にも傷つけられたのは俺ではない、ウッドベル侯爵令嬢だ。どぶねずみの取り巻きだから謝罪の必要もないとでも?不愉快だ、消えろ」
「…っ、も、申し訳、」
「ヒル公爵子息。今、ハロルド殿下は『消えろ』と仰ったのです。頭だけでなく耳もお悪いのですか」
音もなくクレイグ様の後ろに現れ耳元で囁くのは、イーサン・ジルコニア様だ。今朝も煌めく銀髪が眩しい。
「…失礼なっ」
「失礼はあなたです。さ、お引き取りください」
イーサン様はクレイグ様を後ろ手に拘束すると、そのまま引き摺るように席を離れた。
「シア、あいつは相手にするな。話し掛けるなと言っておくから、心配しなくていい」
そう言って、ハロルド様はクレイグ様を睨み付けるように見ていた。その横顔は昨日の入学式とまったく同じで、怒りに彩られている。確かに、幼いころから一緒に育ってきたアデル様をあんな風に貶められたら怒りが湧くのも当然だろう。私だってそうなのだから。
「いや、間に合った、初日から遅刻するところだった」
そんな風に思いを巡らせていると、息を切らせたコンラッド様が入ってきた。
「おはようございます、セシリア様。昨日はアデルのためにありがとうございました」
「コンラッド様、おはようございます。アデル様は今朝は如何でしたか」
「もうお聞きになったでしょうが…」
そう言うとコンラッド様はチラリと視線を移した。その先にいるのはエイサン殿下。憎々しげな瞳でコンラッド様を睨み付けている。コンラッド様もエイサン殿下から目を離すことなく、
「アデルは学園を辞めます。おかげで、昨夜はこれまでになくぐっすり眠れて、今朝も体調は良さそうでした。朝食も、だいぶ摂れましたし…セシリア様、本当にありがとうございます。感謝しかありません」
そう言って頭を下げるコンラッド様に慌ててしまう。
「コンラッド様、私は何もしていませんから、そんなことお気になさらず」
「…セシリア様はご自覚がないのでしょうが、元は犯罪者の娘と聞いたのにアデルと仲良くしてくれたのはセシリア様だけです。他の人間は、それを聞くと必ず態度を変える。どこかしらアデルをバカにした、蔑んでいるような目付きに変わるのです。そんな中、セシリア様の存在がどれだけアデルには心強かったことか…。改めて礼を言います。我が家を代表して、…本当に、ありがとうございます。これからも仲良くしてやってください」
「もちろんです、」
「シア、コンラッドと見つめ合うのやめて。俺を見てよ。コンラッド、潰すぞ。遠慮しろ」
「今朝もバカ発言は健在だな、ハロルド。通常運転で何よりだ。おまえも、ありがとな」
ハロルド様は私をコンラッド様から隠すようにすると、ボソリと
「始まったばかりだぞ、コンラッド」
と言った。
教室に入り席につくと、ヒル公爵家のクレイグ様が近づいてきた。立ち上がろうとすると、ハロルド様に肩をぐっと押さえつけられる。
「シア、立ち上がる必要はない。…ヒル公爵子息、なんの用だ」
取り付く島もない言い方に驚いて見上げたハロルド様の顔は、エイサン殿下に対していたとき同様能面のようで、冷え冷えとした雰囲気のままだった。
「ハロルド殿下、昨日はマリエルが申し訳ございませんでした。本人も大変反省しており、」
「今日から2週間の停学だと伝えられて、『なんで公爵家のわたくしがあんなどぶねずみとその取り巻きなんかのために!』と叫んだそうだが、その態度のどこをどう解釈すると大変反省につながるのか、俺には理解できない。そもそも、謝る相手が間違っているぞヒル公爵子息。貴様の妹に理不尽にも傷つけられたのは俺ではない、ウッドベル侯爵令嬢だ。どぶねずみの取り巻きだから謝罪の必要もないとでも?不愉快だ、消えろ」
「…っ、も、申し訳、」
「ヒル公爵子息。今、ハロルド殿下は『消えろ』と仰ったのです。頭だけでなく耳もお悪いのですか」
音もなくクレイグ様の後ろに現れ耳元で囁くのは、イーサン・ジルコニア様だ。今朝も煌めく銀髪が眩しい。
「…失礼なっ」
「失礼はあなたです。さ、お引き取りください」
イーサン様はクレイグ様を後ろ手に拘束すると、そのまま引き摺るように席を離れた。
「シア、あいつは相手にするな。話し掛けるなと言っておくから、心配しなくていい」
そう言って、ハロルド様はクレイグ様を睨み付けるように見ていた。その横顔は昨日の入学式とまったく同じで、怒りに彩られている。確かに、幼いころから一緒に育ってきたアデル様をあんな風に貶められたら怒りが湧くのも当然だろう。私だってそうなのだから。
「いや、間に合った、初日から遅刻するところだった」
そんな風に思いを巡らせていると、息を切らせたコンラッド様が入ってきた。
「おはようございます、セシリア様。昨日はアデルのためにありがとうございました」
「コンラッド様、おはようございます。アデル様は今朝は如何でしたか」
「もうお聞きになったでしょうが…」
そう言うとコンラッド様はチラリと視線を移した。その先にいるのはエイサン殿下。憎々しげな瞳でコンラッド様を睨み付けている。コンラッド様もエイサン殿下から目を離すことなく、
「アデルは学園を辞めます。おかげで、昨夜はこれまでになくぐっすり眠れて、今朝も体調は良さそうでした。朝食も、だいぶ摂れましたし…セシリア様、本当にありがとうございます。感謝しかありません」
そう言って頭を下げるコンラッド様に慌ててしまう。
「コンラッド様、私は何もしていませんから、そんなことお気になさらず」
「…セシリア様はご自覚がないのでしょうが、元は犯罪者の娘と聞いたのにアデルと仲良くしてくれたのはセシリア様だけです。他の人間は、それを聞くと必ず態度を変える。どこかしらアデルをバカにした、蔑んでいるような目付きに変わるのです。そんな中、セシリア様の存在がどれだけアデルには心強かったことか…。改めて礼を言います。我が家を代表して、…本当に、ありがとうございます。これからも仲良くしてやってください」
「もちろんです、」
「シア、コンラッドと見つめ合うのやめて。俺を見てよ。コンラッド、潰すぞ。遠慮しろ」
「今朝もバカ発言は健在だな、ハロルド。通常運転で何よりだ。おまえも、ありがとな」
ハロルド様は私をコンラッド様から隠すようにすると、ボソリと
「始まったばかりだぞ、コンラッド」
と言った。
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