39 / 91
アデル・イーストウェル
5
しおりを挟む
「私は、…これはハロルド様以外には誰にも話していないことです。私の家族にも。コンラッド様、アデル様、私は、一度死んで、気付いたら14歳の自分に戻っていたのです」
「一度死んだ…?なぜ亡くなったのですか」
アデル様を抱き込んだまま対面のソファに腰かけたコンラッド様は、痛ましそうな顔になった。
「自殺したのです。私はその時、ハロルド殿下の…ハロルド王太子殿下の妻でした」
「ハロルドお兄様が、王太子殿下だったのですか」
「まあ、順当に行けば本来ならそうだよな」
頷くコンラッド様に、
「しかしそうだったら、コンラッドおまえとは、険悪なままだったろう」
「…あの当時は、すまなかった」
「責めたくて言ってるんじゃない」
ハロルド様とコンラッド様の会話の内容がわからず顔を見上げると、ハロルド様は苦笑し、
「俺はコンラッドに嫌われていたんだよ。エイサンにもね」
と呟くように言った。
「嫌われていた…?」
いまはこんなに仲がいいふたりが、
「それについては俺が…セシリア様は、俺の父が王弟なのは知っていますよね。結婚して侯爵家に婿に入った。父は、それをなんとも思っていない…自分が好きでそうしたわけですから。でも幼かった俺は、王宮で暮らし、殿下と呼ばれるハロルドを見て、自分だってそうだったかもしれないのにと、…バカな嫉妬をしたんです。一方的に妬んで、何かにつけてハロルドに嫌がらせをしました。無視したり、…エイサンと一緒になって」
「エイサン様はなぜ、」
「エイサンは、ハロルドが優秀なために自分が王太子になる可能性はゼロに近い、そういう妬みでしょうね」
ハロルド様は何も言わず、コンラッド様を見ていた。
「でも、8歳の時、アデルが我が家に引き取られて、父からアデルを守れと言われて、王宮にも今までにないくらい通うようになったら、ハロルドの背負うモノの重さに気付いたというか…俺はアデルすら守れるのかわからないのに、こいつは国ひとつを守らなくてはならない立場になるんだ、って。一緒に勉強したり、鍛練するようになったら余計にこいつの努力が見えてきて…まあ、8歳の時にこいつはこいつで王位継承権を放棄していたわけですけど、セシリア様の家に婿入りしたくて」
「そうだったのですか…」
あの時のコンラッド様が、もしいま聞いた内容のまま育っていたのだとしたら。
「戻る前の…なんて言えばわかりやすいでしょうね…」
「前回、って言ったらどうかな、シア」
ハロルド様がそっと手を握ってくれる。私を勇気づけるように。
「そうですね。そうします。コンラッド様、前回の時、私はコンラッド様とは一度もお会いしたことがありませんでした。コンラッド様は、イーストウェル侯爵様に反発して学園にも通わず、夜な夜な悪い仲間とつるんで遊び歩いているという噂だけ、…お聞きしたことがありました」
コンラッド様は、「そうですか」と頷くと、
「たぶん、アデルが我が家に来なければ、そうなっていたでしょうね、俺も。斜めにしか見れないバカな男に育ったでしょう」
と蔑むように冷たく言った。
「一度死んだ…?なぜ亡くなったのですか」
アデル様を抱き込んだまま対面のソファに腰かけたコンラッド様は、痛ましそうな顔になった。
「自殺したのです。私はその時、ハロルド殿下の…ハロルド王太子殿下の妻でした」
「ハロルドお兄様が、王太子殿下だったのですか」
「まあ、順当に行けば本来ならそうだよな」
頷くコンラッド様に、
「しかしそうだったら、コンラッドおまえとは、険悪なままだったろう」
「…あの当時は、すまなかった」
「責めたくて言ってるんじゃない」
ハロルド様とコンラッド様の会話の内容がわからず顔を見上げると、ハロルド様は苦笑し、
「俺はコンラッドに嫌われていたんだよ。エイサンにもね」
と呟くように言った。
「嫌われていた…?」
いまはこんなに仲がいいふたりが、
「それについては俺が…セシリア様は、俺の父が王弟なのは知っていますよね。結婚して侯爵家に婿に入った。父は、それをなんとも思っていない…自分が好きでそうしたわけですから。でも幼かった俺は、王宮で暮らし、殿下と呼ばれるハロルドを見て、自分だってそうだったかもしれないのにと、…バカな嫉妬をしたんです。一方的に妬んで、何かにつけてハロルドに嫌がらせをしました。無視したり、…エイサンと一緒になって」
「エイサン様はなぜ、」
「エイサンは、ハロルドが優秀なために自分が王太子になる可能性はゼロに近い、そういう妬みでしょうね」
ハロルド様は何も言わず、コンラッド様を見ていた。
「でも、8歳の時、アデルが我が家に引き取られて、父からアデルを守れと言われて、王宮にも今までにないくらい通うようになったら、ハロルドの背負うモノの重さに気付いたというか…俺はアデルすら守れるのかわからないのに、こいつは国ひとつを守らなくてはならない立場になるんだ、って。一緒に勉強したり、鍛練するようになったら余計にこいつの努力が見えてきて…まあ、8歳の時にこいつはこいつで王位継承権を放棄していたわけですけど、セシリア様の家に婿入りしたくて」
「そうだったのですか…」
あの時のコンラッド様が、もしいま聞いた内容のまま育っていたのだとしたら。
「戻る前の…なんて言えばわかりやすいでしょうね…」
「前回、って言ったらどうかな、シア」
ハロルド様がそっと手を握ってくれる。私を勇気づけるように。
「そうですね。そうします。コンラッド様、前回の時、私はコンラッド様とは一度もお会いしたことがありませんでした。コンラッド様は、イーストウェル侯爵様に反発して学園にも通わず、夜な夜な悪い仲間とつるんで遊び歩いているという噂だけ、…お聞きしたことがありました」
コンラッド様は、「そうですか」と頷くと、
「たぶん、アデルが我が家に来なければ、そうなっていたでしょうね、俺も。斜めにしか見れないバカな男に育ったでしょう」
と蔑むように冷たく言った。
8
お気に入りに追加
4,794
あなたにおすすめの小説
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

夫の書斎から渡されなかった恋文を見つけた話
束原ミヤコ
恋愛
フリージアはある日、夫であるエルバ公爵クライヴの書斎の机から、渡されなかった恋文を見つけた。
クライヴには想い人がいるという噂があった。
それは、隣国に嫁いだ姫サフィアである。
晩餐会で親し気に話す二人の様子を見たフリージアは、妻でいることが耐えられなくなり離縁してもらうことを決めるが――。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~
流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。
しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。
けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。
子持ちの私は、夫に駆け落ちされました
月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる