逆行厭われ王太子妃は二度目の人生で幸せを目指す

蜜柑マル

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入学式

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式が始まるのを待っていると、「ハロルド殿下」と声が掛かった。どうやら侍従の方のようだ。

「エイサン殿下より、新入生代表挨拶を代わっていただけないかと」

「俺より適任者がいる。ヒル公爵家のクレイグを推薦しろ、澄ましたフリして承認欲求の高い目立ちたがりのあの男にはぴったりだ、喜んでやるだろうよ。もし渋るような真似をしたら元はと言えば貴様の妹のせいなのだから、責任を取れと伝えろ」

「かしこまりました」

今まで聞いたことのないハロルド様の刺々しい言葉に驚く。かなり怒りを含んだ声だ。

前回クレイグ様はハロルド殿下の側近候補として、学園でも常にハロルド殿下の側にいた。あの子爵令嬢との仲を見せつけられた時にも、ハロルド殿下の傍らには必ずクレイグ様もいた。卒業後は王太子の側近として王宮にいらしたはずだし…。今回は、ハロルド様が王太子にはならなかったから関係性も変わっているのだろうか。それであっても、かなり辛辣な言葉だ。クレイグ様について思考を巡らせていたところで、先ほどの「新入生代表挨拶」という言葉に行き当たる。

「ハル様、新入生代表挨拶と言っていましたが、エイサン殿下はご入学は来年では、」

「飛び級だ」

素っ気なく言って、ハロルド様はようやく私に目を向けた。不機嫌そうな顔のまま。

「シア。いくらアデルを庇うためでもあんなこと二度とするな。流血騒ぎにしたくなければ自重してくれ」

「…流血?」

「あの時帯刀していたら確実にあの女を斬り殺していた」

さも当然のように淡々と告げるハロルド様にしばし呆然となる。いま、斬り殺す、って言った?

「…ハル様?」

「本気だよ。シアのことに関して、俺は冗談は言わない」

そう言われなくても、ハロルド様の昏く揺らめく瞳がその本気度を物語っていた。いつもと違う黒い瞳に、思わず背筋がゾクリとした。その言い様のない何かに気を取られ、ハロルド様が呟いた言葉は意味を成す言葉として私の耳には届かなかった。

「…今回は俺が勝つ。行き先はどこになるか、楽しみだな」
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