逆行厭われ王太子妃は二度目の人生で幸せを目指す

蜜柑マル

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「怖くて、気持ち悪いんだそうだよ。王宮で初めてエイサンの名前を聞いた途端、言い知れぬ恐怖でお腹が痛くなったそうだ。初めて来た王宮で泣き出したりしたら叔父上に迷惑がかかると思って我慢したそうだが、どうにもダメらしい。長ずるにつれて婚約者に、とまで言われるようになってしまって、何度も断っているのになんで諦めてくれないのかと。最近はエイサンが叔父上を説得にかかっているらしくてね。叔父上は、犯罪者の娘なんだからと、そんな娘を妃にしたりしたら国の乱れに繋がりかねないと道理を説いているらしいが、下手をすると王命が出されるかもしれない。4月からアデルが学園に入ってしまうから、エイサンも気が気じゃないんだろう」

「なぜ、エイサン様をそんなに…」

「本人もわからないらしい。ただ、エイサンを見ると底知れぬ恐怖に襲われるのだそうだ。叔父上も叔母上もアデルをとても可愛がっているし、ゆくゆくはコンラッドと婚姻させるつもりでいたから何とかエイサンの申し出を断りたいようだが、陛下が出てきてしまったら、無理だろうな」

「そうなのですか…」

ポロポロ涙を零し、泣きじゃくっていたアデル様を思い出す。何とかしてあげられないのだろうか。

「俺も、何とかしてやりたいのはヤマヤマなんだけど…立場的に難しいというか…俺は自分の望み通りにシアを手に入れてしまったから、エイサンに強く出れないのも事実なんだよな」

「でも、確かに血筋のことを考えたら、将来の王妃にするのは難しいように思います。アデル様はとても聡明で素晴らしいご令嬢です、私も大好きですし、」

「シア、酷くないか」

…え?

怒ったような、不機嫌そうな声が聞こえてきて顔を見上げると、予想通りに眉をしかめたハロルド様がこちらを見ていた。…なんで怒ってるんだろう。

「俺のこと、大好きなんて言ったこともないのに、アデルを大好きだなんて…酷いと思わないのか」

…この人は真面目な話をしているのに、何を言い出すのか。

「…ハル様、」

「シア、俺のことも大好きって言って。10回言ってくれたらアデルを許す」

「アデル様は何もしていないですよね、」

「シアに大好きなんて言われた時点で大罪人だ!」

ちょっと、何を言っているのかわからないのだが。困惑しか生まれてこない。

「ハル様、」

「言って。シア、言って。言ってくれなきゃヤダ。ねぇ、シア、言って」

駄々っ子みたいになってしまったハロルド様を何とか宥めてお帰りいただいた翌日、アデル様がエイサン第二王子殿下の婚約者だと発表されてしまった。その日からアデル様は姿を見せてくださらなくなった。
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