逆行厭われ王太子妃は二度目の人生で幸せを目指す

蜜柑マル

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泣き出してしまったアデル様を心配して、コンラッド様は「今日はお暇する」と帰って行った。ハロルド様と一緒に二人を見送る。

「…不味いことを言ってしまった」

ポツリと呟くハロルド様を見上げると、

「シア、…少し話を聞いてもらってもいいかな」

と言うので、デイジーにお茶をお願いしもう一度部屋に向かった。

私の部屋には、定期的にハロルド様が贈ってくれるセシルローズが飾られている。この薫りに包まれていると、いつしか安らいでしまう自分に気付き、落ち着かなくなる。まだあの時の悲しみやツラさ、苦しさは消えていないのだが、それでも少しずつ…ハロルド様と触れ合いを重ねるうちにいつしか薄らいでいるのも事実だった。この気持ちを素直に受け入れていいのか…まだわからないでいる自分に戸惑う。

ハロルド様はソファに腰を降ろすと、デイジーが退出するのを待って、「シア、ここに座って」と膝をポンポンとした。ハロルド様は我が家の庭でも誰の目にも構うことなく私を膝の上に座らせる。慣れなくて恥ずかしいのだが、断ることもできない。いつものように座ると、引き寄せられてギュッ、とされる。

「シア、はい」

そしていつものように茶菓子を口に放り込まれる。婚約者として会ったあの日、「きちんと食事をしているのか、軽すぎる」となぜか叱責され、お茶のたびにハロルド様が準備してきた菓子を口に入れられるのだ。自分で食べると言っても、ハロルド様は頑として譲らない。

「美味しい?」

「美味しいです、ハル様」

「好き?」

「…す、きです、ハル様」

嬉しそうに微笑んだハロルド様は自分も口に菓子を入れ、「確かに旨い」と笑った。

「…さっきの、アデルの話なんだけどね」

紅茶を含み、カップをソーサーに戻したハロルド様は話し始めた。

第二王子のエイサン様は、幼い頃より共に育ってきたアデル様に恋をし、婚約者に、と望むようになった。しかし、エイサン様はゆくゆくは王太子、将来の国王になる。

「アデルは確かにイーストウェル家の息女だが、養女だし元を辿れば犯罪者の娘だからな。叔父上がまず首を縦には振らないだろう。何よりアデルがエイサンのことを好きではないんだ」

「コンラッド様がお好きだから、」

「うん、まあ…それもあるんだけど、アデルは、エイサンを生理的に受け付けないんだそうだ。俺はまあ置いといても、コンラッドとエイサンもほぼ瓜二つに近い容姿なのに、見た目はそっくりであってもぜんぜん違うと。別にエイサンがアデルを虐めてきたとかいう事実もなく、どちらかと言えば好意が剥き出しな感じだったんだが」

それでもアデル様は、エイサン様にはあまり近づかなかったそうだ。
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