逆行厭われ王太子妃は二度目の人生で幸せを目指す

蜜柑マル

文字の大きさ
上 下
26 / 91
交流を深める

しおりを挟む
「そうだ、シア、ちょっと待ってて」

そう言ってハロルド様は一度ドアを出て行くと、両手いっぱいのピンクの薔薇の花束を抱えてきた。そのうちの一本を器用に引き抜き、

「シア、一日遅れてしまったけれど、誕生日プレゼントだよ」

とニコリとして私に手渡した。

「昨日、ドレスをもういただいています、」

「あれは、俺の自己満足ためのドレスだからプレゼントとは言えない」

…自己満足?

「それよりシア、匂いを嗅いでみて。とてもいい出来だと自信はあるんだが…気にいってくれると嬉しい」

慌てて渡された薔薇を鼻に近づけると、芳醇な甘い香りが鼻腔を擽った。

「いい薫り…」

思わずうっとりと呟くと、ハロルド様が「良かった」と嬉しそうに笑った。

「5歳の時、シアがピンクの薔薇が好きだと教えてくれたから、シアのための薔薇を作りたくて…王宮の庭師や植物学の研究者などに協力してもらって新しい品種を育ててきたんだ。良かった、シアが気にいってくれて」

…新しい品種?

「この薔薇は、ハル様がお作りになったのですか?」

「いや、俺が育てたわけではないからね…丹精込めて育ててくれたのは王宮の庭師たちだから。俺はたまにしか出来なかったし、口だけはうるさく出したけど」

朗らかな笑顔を見せられるが、「なんてこと」という気持ちしかない。幼い頃の戯れ言ともいえないことを、この方は、

「…あれ。もしかして、ピンクの薔薇はもう好きじゃなくなってたのかな。そう言えば、昨日も可愛いって言って怒らせちゃったみたいだし、…こんなに美しく大人の女性に成長したのに、ごめん、」

「ち、ちがいます、あの、びっくりして…っ」

急にしょんぼりとされて慌てて否定する。

「無理しなくていい」

「む、無理ではありません、あの、本当にびっくりしたんです、私が言ったことを覚えていてくださった上に、新しい品種まで作ってくださったなんて、」

「…好き?」

「…え?」

ハロルド様は薔薇を持つ私の手にそっと触れると、「シア、好き?」と覗き込むようにして見つめてくる。真っ直ぐ向けられる黒い瞳の煌めきが眩しい。

「ねぇ、シア。…やっぱりキライなの」

哀しげな色に変わる瞳に心がキュウッと締め付けられたようになる。なに、この可愛いの、ズルい!

「キ、キライじゃありません、」

「でも好きじゃないんでしょ」

「好きです、好きです、私、」

するとハロルド様はふにゃ、と昨日のような幼い顔で微笑んだ。

「シア、もう一回言って」

「え、あの、」

「言って」

「す、好きです」

ふにゃりとしたままハロルド様は、頬が少し赤くなった。

「良かった、気に入ってくれて。好きになってくれて、良かった」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

夫の書斎から渡されなかった恋文を見つけた話

束原ミヤコ
恋愛
フリージアはある日、夫であるエルバ公爵クライヴの書斎の机から、渡されなかった恋文を見つけた。 クライヴには想い人がいるという噂があった。 それは、隣国に嫁いだ姫サフィアである。 晩餐会で親し気に話す二人の様子を見たフリージアは、妻でいることが耐えられなくなり離縁してもらうことを決めるが――。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~

流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。 しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。 けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

処理中です...