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交流を深める
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次の日の午前、ハロルド様が我が家にやってきた。昨日帰り際に「明日から、よほどのことがない限り、こちらにお邪魔してセシリアと親交を深めたい、お義父上からウッドベル侯爵家について学ばせていただきたい」と父に申し出、快く了承を得ていた、その宣言通りにやってきたのだ。
「おはよう、シア。今朝もいちだんと可愛い」
そう言うと、私の手をそっと握る。昨日から、あまりに自然に触れられすぎて、胸の鼓動がまた激しくなってくる。こんなことを一度も言われたことがないのだから手加減してくれないだろうか、と言おうとしたら、
「好きだよ、シア」
と耳元で囁かれ、その低い声に背中をゾクゾクと何かが走り、顔が一気に熱くなる。
「で、」
「ハ、ル」
続けて囁かれて、ハロルド様の熱い吐息が耳を擽る。
「あ…っ」
「ハル、って言って、シア…ね、お願いだから」
私を促すように、繋いだ手にキュッと力が入る。あの時、ハロルド殿下は子爵令嬢を確かに隣から離さなかったが、一切触れることはなかった。私の前でわざと見せつけるように、イやらしい嗤いを浮かべながらハロルド殿下にしなだれかかろうとする彼女を、ハロルド殿下は立ち上がってまで避けていた。人前では流石にするべきではないと考えているのだろうか、どうせ同じことだろうに、と冷え冷えと温度が下がる心の中で思ったものだ。
そんなことを思い、私にはこうして触れてくれるのだ、と考えたところで、(違う)とハッとした。
この方は、ハロルド様は、ハロルド殿下ではない。あの時の悲しさや苦しさがなくなるわけではないが、私に真摯に向き合い言葉を尽くそうとしてくれているこの方と、あの男を比べることはするべきではない、と。新しい人生を歩むと決めたのだから、この方も新しいハロルド様として向き合っていくべきだ。
そっと見上げると、こちらを優しく見つめる緩んだ瞳と目が合った。キレイな黒い瞳は、まるで黒曜石のようだ。
「ハル様」
私の言葉を聞いて、ハロルド様は破顔すると「シア…っ」と私を抱き締めた。重なる鼓動の速さも重なるようで、ハロルド様の言い知れぬ喜びをカラダから教えられるような、そんな気持ちになる。こんな風に、感情を余すことなくぶつけられて、なんだかふわふわとした心持ちになる自分がいた。
「ハル様、おはようございます。昨日はありがとうございました」
「うん、シア、おはよう。ああ、可愛い。嬉しいよ、会えて嬉しい、シア」
ニコリと微笑まれて、また顔が熱くなるが、心は歓喜に震えていた。その震えに、思わず瞳が潤まされる。
「私も、お会いできて嬉しいです、ハル様」
新しい、ハロルド様に。
「おはよう、シア。今朝もいちだんと可愛い」
そう言うと、私の手をそっと握る。昨日から、あまりに自然に触れられすぎて、胸の鼓動がまた激しくなってくる。こんなことを一度も言われたことがないのだから手加減してくれないだろうか、と言おうとしたら、
「好きだよ、シア」
と耳元で囁かれ、その低い声に背中をゾクゾクと何かが走り、顔が一気に熱くなる。
「で、」
「ハ、ル」
続けて囁かれて、ハロルド様の熱い吐息が耳を擽る。
「あ…っ」
「ハル、って言って、シア…ね、お願いだから」
私を促すように、繋いだ手にキュッと力が入る。あの時、ハロルド殿下は子爵令嬢を確かに隣から離さなかったが、一切触れることはなかった。私の前でわざと見せつけるように、イやらしい嗤いを浮かべながらハロルド殿下にしなだれかかろうとする彼女を、ハロルド殿下は立ち上がってまで避けていた。人前では流石にするべきではないと考えているのだろうか、どうせ同じことだろうに、と冷え冷えと温度が下がる心の中で思ったものだ。
そんなことを思い、私にはこうして触れてくれるのだ、と考えたところで、(違う)とハッとした。
この方は、ハロルド様は、ハロルド殿下ではない。あの時の悲しさや苦しさがなくなるわけではないが、私に真摯に向き合い言葉を尽くそうとしてくれているこの方と、あの男を比べることはするべきではない、と。新しい人生を歩むと決めたのだから、この方も新しいハロルド様として向き合っていくべきだ。
そっと見上げると、こちらを優しく見つめる緩んだ瞳と目が合った。キレイな黒い瞳は、まるで黒曜石のようだ。
「ハル様」
私の言葉を聞いて、ハロルド様は破顔すると「シア…っ」と私を抱き締めた。重なる鼓動の速さも重なるようで、ハロルド様の言い知れぬ喜びをカラダから教えられるような、そんな気持ちになる。こんな風に、感情を余すことなくぶつけられて、なんだかふわふわとした心持ちになる自分がいた。
「ハル様、おはようございます。昨日はありがとうございました」
「うん、シア、おはよう。ああ、可愛い。嬉しいよ、会えて嬉しい、シア」
ニコリと微笑まれて、また顔が熱くなるが、心は歓喜に震えていた。その震えに、思わず瞳が潤まされる。
「私も、お会いできて嬉しいです、ハル様」
新しい、ハロルド様に。
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