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「…話してくれてありがとう。じゃあ、僕は失礼するね」
椅子から立ち上がるオーウェンに、「殿下」とソフィアが声をかける。
「もう遅い時間です。客間も準備してありますしお泊まりください」
「いや、」
「同行する方々のことも考えてはいかがですか。こんな夜遅くに移動されて殿下に何かがあったら、処罰されるのは彼らですよ。もちろん我が家にもお咎めがあるでしょう。それをお望みでしたら止めませんが」
ソフィアの言葉に傷付いたような顔をしたオーウェンは、「…そうだね」と力なく微笑んだ。
「そうだね。手間をかけるが、…一晩、世話になる」
ソフィアは頷くと、「マーカス」と呼んだ。扉を開けたマーカスに、
「殿下をご案内して」
と告げ、
「殿下、長らくありがとうございました」
と見事なカーテシーを見せた。あの日の、あの卒業式の時のように。その美しく気高いソフィアの姿にオーウェンはグッ、と詰まったようになり、何も言わずに軽く頭を下げて出ていく。その明らかに消沈した後ろ姿を見るソフィアの瞳には気づくことはなかった。
案内された客室は落ち着いた基調の部屋で、なんとなく温かな気配に満ちていた。その気配にソフィアを感じ、オーウェンはもう我慢がならなかった。部屋の扉が閉まる音を確認し、そのままベッドにカラダを投げ出す。
「…う、」
口からひとつ嗚咽が洩れると、そこからはもう止まらない。
「う、…っ、うわあああああああああああっ!!!」
声の限りに叫ぶように泣き続けたオーウェンは、そのまま疲れ果てて眠ってしまった。それからしばらくして、客間の扉がそっと開く。扉のところで様子を窺ったソフィアは、静かに歩を進めベッドの上で猫のように丸まって眠るオーウェンの頬をそっと撫でた。涙で顔がビチャビチャだ。
(…バカな人)
オーウェンがまさかこんなふうに泣くなんて思いもしなかった。こんなに、私のことを想ってくれていたなんて。…いや、違う。私を好きなことを、あの顔合わせの日から、変わらず私を想い続けてくれていたことを、本当はわかっていたのだ。あの伯爵家の令嬢が隣にいるとき、オーウェンはソフィアには見せたことのない冷酷な表情をし、カラダに触れられると嫌悪感に満ちた顔でその手を叩いて注意していた。あの令嬢は頭がおかしいから、そして目が曇っているから、本当のオーウェンに気付かなかった…チェイサーと同じように、自分に都合のよいように解釈し、真実から目を逸らしていたのかもしれない。
椅子から立ち上がるオーウェンに、「殿下」とソフィアが声をかける。
「もう遅い時間です。客間も準備してありますしお泊まりください」
「いや、」
「同行する方々のことも考えてはいかがですか。こんな夜遅くに移動されて殿下に何かがあったら、処罰されるのは彼らですよ。もちろん我が家にもお咎めがあるでしょう。それをお望みでしたら止めませんが」
ソフィアの言葉に傷付いたような顔をしたオーウェンは、「…そうだね」と力なく微笑んだ。
「そうだね。手間をかけるが、…一晩、世話になる」
ソフィアは頷くと、「マーカス」と呼んだ。扉を開けたマーカスに、
「殿下をご案内して」
と告げ、
「殿下、長らくありがとうございました」
と見事なカーテシーを見せた。あの日の、あの卒業式の時のように。その美しく気高いソフィアの姿にオーウェンはグッ、と詰まったようになり、何も言わずに軽く頭を下げて出ていく。その明らかに消沈した後ろ姿を見るソフィアの瞳には気づくことはなかった。
案内された客室は落ち着いた基調の部屋で、なんとなく温かな気配に満ちていた。その気配にソフィアを感じ、オーウェンはもう我慢がならなかった。部屋の扉が閉まる音を確認し、そのままベッドにカラダを投げ出す。
「…う、」
口からひとつ嗚咽が洩れると、そこからはもう止まらない。
「う、…っ、うわあああああああああああっ!!!」
声の限りに叫ぶように泣き続けたオーウェンは、そのまま疲れ果てて眠ってしまった。それからしばらくして、客間の扉がそっと開く。扉のところで様子を窺ったソフィアは、静かに歩を進めベッドの上で猫のように丸まって眠るオーウェンの頬をそっと撫でた。涙で顔がビチャビチャだ。
(…バカな人)
オーウェンがまさかこんなふうに泣くなんて思いもしなかった。こんなに、私のことを想ってくれていたなんて。…いや、違う。私を好きなことを、あの顔合わせの日から、変わらず私を想い続けてくれていたことを、本当はわかっていたのだ。あの伯爵家の令嬢が隣にいるとき、オーウェンはソフィアには見せたことのない冷酷な表情をし、カラダに触れられると嫌悪感に満ちた顔でその手を叩いて注意していた。あの令嬢は頭がおかしいから、そして目が曇っているから、本当のオーウェンに気付かなかった…チェイサーと同じように、自分に都合のよいように解釈し、真実から目を逸らしていたのかもしれない。
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