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「私が退出した後、殿下は兄たちを捕縛させたそうですね」
返事を待ってみたがまったく反応がないオーウェン。まるで人形のようになってしまった。ソフィアはそっとため息をつき、…少しだけ、微笑んだ。その顔がオーウェンの瞳に映ることはない。
「あれはただ邪魔されないように、とのことだったようですが、なぜか件のご令嬢だけは後ろ手に押さえられただけで拘束はなく、…自害を図ったそうですね」
無言のオーウェンをじっと見つめながら、ソフィアは話を続けた。
「あのご令嬢を殺してしまおうとしたのはベンジャミン殿下だそうです。自分の思い通りに話が進まなければそういう道を選ぶだろうと…これは殿下にも話さず勝手に進めたと嗤ってましたわ。…結局死ななかったけど、と」
あの断罪の場で自分の胸を突いたクリスティーナは、出血量のわりには傷が浅く、命に別状はなかったそうだ。
「…目立った罪はないものの、王族からの正式な書状を無視し続けたこと、王子二人につきまとい婚約を無効にさせた…自分の勝手な妄想で…そういう、なんというか、夢見がちな現実を見ていない人間には生きて償わせるほうがよりダメージが大きいだろうと」
生き残ってしまったクリスティーナは、いま、城の洗濯係として働かされていると聞いた。自分が妃になると夢見ていた場所で、実際には貴族ではなくなり憧れていたモノを見ながら毎日現実に向き合わなくてはならない。簡単に自害などさせないように、仕事の時間以外は拘束されたままの生活なのだと。その屈辱は計り知れないものがあるだろう。
勝ち誇った顔で自分を見下し、オーウェンのカラダに触れたクリスティーナを、ソフィアは自分が思っていた以上に憎んでいたのだと…クリスティーナの現状を聞かされたとき、可哀想だとか気の毒だとかいう思いはまったく起きず、むしろ「ざまを見ろ」と思ってしまった自分に困惑し、そして目を逸らしてきた自分の本心に気付いた。だから。オーウェンへの、「諦めた」はずの本心にも、自分のオーウェンへの本心にも、気づいてしまったのだ。それは衝撃でもあり、そして、自分の強かさに気付いた瞬間であった。
返事を待ってみたがまったく反応がないオーウェン。まるで人形のようになってしまった。ソフィアはそっとため息をつき、…少しだけ、微笑んだ。その顔がオーウェンの瞳に映ることはない。
「あれはただ邪魔されないように、とのことだったようですが、なぜか件のご令嬢だけは後ろ手に押さえられただけで拘束はなく、…自害を図ったそうですね」
無言のオーウェンをじっと見つめながら、ソフィアは話を続けた。
「あのご令嬢を殺してしまおうとしたのはベンジャミン殿下だそうです。自分の思い通りに話が進まなければそういう道を選ぶだろうと…これは殿下にも話さず勝手に進めたと嗤ってましたわ。…結局死ななかったけど、と」
あの断罪の場で自分の胸を突いたクリスティーナは、出血量のわりには傷が浅く、命に別状はなかったそうだ。
「…目立った罪はないものの、王族からの正式な書状を無視し続けたこと、王子二人につきまとい婚約を無効にさせた…自分の勝手な妄想で…そういう、なんというか、夢見がちな現実を見ていない人間には生きて償わせるほうがよりダメージが大きいだろうと」
生き残ってしまったクリスティーナは、いま、城の洗濯係として働かされていると聞いた。自分が妃になると夢見ていた場所で、実際には貴族ではなくなり憧れていたモノを見ながら毎日現実に向き合わなくてはならない。簡単に自害などさせないように、仕事の時間以外は拘束されたままの生活なのだと。その屈辱は計り知れないものがあるだろう。
勝ち誇った顔で自分を見下し、オーウェンのカラダに触れたクリスティーナを、ソフィアは自分が思っていた以上に憎んでいたのだと…クリスティーナの現状を聞かされたとき、可哀想だとか気の毒だとかいう思いはまったく起きず、むしろ「ざまを見ろ」と思ってしまった自分に困惑し、そして目を逸らしてきた自分の本心に気付いた。だから。オーウェンへの、「諦めた」はずの本心にも、自分のオーウェンへの本心にも、気づいてしまったのだ。それは衝撃でもあり、そして、自分の強かさに気付いた瞬間であった。
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