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「…ソフィア、あの、」
「なんですか?」
戸惑い気味に声をかけるオーウェンを振り返ると、顔を赤く染めながら、
「…この部屋、貴女の自室、なんでしょ、…僕が入っていいの?」
「応接室のようなものです。寝室は別ですからお気になさらず。…殿下がお困りになるなら場所を変えますが」
ソフィアの言葉にブンブンと勢いよく首を横に振ったオーウェンは、「…ここがいい」と呟き、また顔を赤くした。
どうぞ、と椅子をすすめられ、素直に腰をおろすオーウェンの向かいに腰をおろしたソフィアは、「何かお飲みになりますか?」とオーウェンを見た。その視線が先ほどのように挑戦的、さらに言えば挑発的でオーウェンは知らずゴクリと喉を鳴らす。
「…じゃあ、…紅茶を、いただけるかな」
わかりました、と返事をして扉から出ていくソフィアを目で追いかけ、オーウェンはフウ、とため息をついた。
(ソフィアの結婚式じゃなくて、…本当によかった…)
しかしなぜジェンキンス侯爵は自分をこのタイミングで領地に寄越したのか。こうやって束の間とは言え絶望を与えたかったからなのか。
(わざわざベンジャミンが来ていたのも気になるし、僕を陛下の名代などと…陛下は御存知だったのだろうか)
悶々と考えているとソフィアが戻ってくる。
「どうぞ」
懐かしい香りだ、と思いながら口に含むとこちらをじっと見るソフィアと目が合った。その視線にドキリとするオーウェンに、ソフィアはフワリ、と微笑む。
「殿下。私は、貴方のことが好きでした」
唐突な物言いに、思わず紅茶が噎せりそうになり、次に、スーッとカラダが冷えていくのを感じた。
好きでした。
ソフィアはそう言った。
好きでした、と、…過去形で、そう告げた。
「…ソフィア、」
「学園に入る前の期間で、私は殿下を好きになりました。愛おしく、大切で、守りたい存在になった。自分自身の能力の低さに殿下の隣にいるべきではないと悩んだこともありました。でも、殿下が私を真っ直ぐに思ってくださったから、…その不安とも向き合うことができました。でも、学園の3年間で、私の殿下への想いは消えました。殿下を好きだと思う、あの温かな気持ちはなくなったのです」
淡々と告げるソフィアに、オーウェンの顔色はどんどん青くなる。
「なんですか?」
戸惑い気味に声をかけるオーウェンを振り返ると、顔を赤く染めながら、
「…この部屋、貴女の自室、なんでしょ、…僕が入っていいの?」
「応接室のようなものです。寝室は別ですからお気になさらず。…殿下がお困りになるなら場所を変えますが」
ソフィアの言葉にブンブンと勢いよく首を横に振ったオーウェンは、「…ここがいい」と呟き、また顔を赤くした。
どうぞ、と椅子をすすめられ、素直に腰をおろすオーウェンの向かいに腰をおろしたソフィアは、「何かお飲みになりますか?」とオーウェンを見た。その視線が先ほどのように挑戦的、さらに言えば挑発的でオーウェンは知らずゴクリと喉を鳴らす。
「…じゃあ、…紅茶を、いただけるかな」
わかりました、と返事をして扉から出ていくソフィアを目で追いかけ、オーウェンはフウ、とため息をついた。
(ソフィアの結婚式じゃなくて、…本当によかった…)
しかしなぜジェンキンス侯爵は自分をこのタイミングで領地に寄越したのか。こうやって束の間とは言え絶望を与えたかったからなのか。
(わざわざベンジャミンが来ていたのも気になるし、僕を陛下の名代などと…陛下は御存知だったのだろうか)
悶々と考えているとソフィアが戻ってくる。
「どうぞ」
懐かしい香りだ、と思いながら口に含むとこちらをじっと見るソフィアと目が合った。その視線にドキリとするオーウェンに、ソフィアはフワリ、と微笑む。
「殿下。私は、貴方のことが好きでした」
唐突な物言いに、思わず紅茶が噎せりそうになり、次に、スーッとカラダが冷えていくのを感じた。
好きでした。
ソフィアはそう言った。
好きでした、と、…過去形で、そう告げた。
「…ソフィア、」
「学園に入る前の期間で、私は殿下を好きになりました。愛おしく、大切で、守りたい存在になった。自分自身の能力の低さに殿下の隣にいるべきではないと悩んだこともありました。でも、殿下が私を真っ直ぐに思ってくださったから、…その不安とも向き合うことができました。でも、学園の3年間で、私の殿下への想いは消えました。殿下を好きだと思う、あの温かな気持ちはなくなったのです」
淡々と告げるソフィアに、オーウェンの顔色はどんどん青くなる。
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