【完結】あなたのことが好きでした

３７

レイノルドの訪問から半月後の朝。ソフィアが朝食後、庭で紅茶を飲みながら美しく咲き誇る薔薇を眺めていると、「ソフィア様」とマーカスに呼ばれた。

「第１王子殿下がお見えです」

「…え？」

マーカスの後ろには、あの卒業式以来となるオーウェンその人が立っていた。柔らかなあの面影はどこにもなく、美しいことに代わりはないのに今はくすんだ濁りのようなものを纏っている。

「…第１王子殿下」

立ち上がりそう発したソフィアを痛みを堪えるような顔で見たオーウェンが口を開きかけたとき、「ソフィア！」と後ろから声がした。振り返ったオーウェンに、その人物は一瞬目を見開いた後、胡散臭い顔でニッコリと微笑んだ。

「おはようございます、第１王子殿下」

「…キミは、」

「レイノルド・パーカーです。卒業以来ですね、ご無沙汰しておりました。まさかいらっしゃるとは思わず申し訳ございません」

ああ、と取って付けたようにわざとらしく声を上げたレイノルドは、

「僕の結婚式に参列するためにわざわざいらしてくださったのですか？ありがとうございます」

とあの薄い水色の瞳でオーウェンをじっと見つめた後、用は終えたとばかりに目を逸らした。

「ソフィア、これ！着てみてくれないかな？」

そう言ってレイノルドが差し出したのは、純白のウェディングドレス。

「…結婚式？」

そう呆けたように呟くオーウェンを面白そうに見たレイノルドは、「ええ」と頷くと、

「ほら、ソフィア、着てみてよ」

とドレスをソフィアの手に押し付ける。

「…いま、着なくても、今夜、」

「いいからぁ！着てみてよ、お願いだから！」

駄々っ子のように口を尖らせるレイノルドを呆れたように見たソフィアは、

「…本当に好きなのですか？」

と口にした。ドクリと音を立てた胸を押さえるオーウェンをチラリと見たレイノルドは、ニヤーッと嗤う。

「うん、そうだよ、大好き！」

ソフィアは小さくため息をつくと、

「では着替えてきますから…マーカス、第１王子殿下にお茶を」

そう言ってオーウェンを見ることなくドレスを手に去って行く。その後ろ姿を呆然と見送るオーウェンは、さも面白そうに嗤うレイノルドに気付かなかった。