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あの卒業式から半年。ソフィアは、ジェンキンス侯爵領にいた。

あの日の夜、父親に呼び出されたソフィアは、

「お父様、申し訳、」

と口を開いたが、父に手で制された。

「ソフィア、謝る必要などどこにもないし、謝罪が欲しくて呼んだのではないよ。…まず、卒業おめでとう。よく頑張ったな」

優しく自分を見つめる父の瞳に、ソフィアは胸がギュッと締め付けられ、涙が滲んだ。何か言葉を発したら号泣してしまいそうで必死に耐えるソフィアに、

「今夜は3人で食事をしよう。お祝いだからソフィアの好きなものをたくさん準備してもらったよ」

とジェンキンス侯爵は微笑む。

「…3人、ですか?」

「そうだよ」

今の言葉に引っ掛かりを覚えたソフィアは、そういえば、と視線を巡らせた。自分への叱責のために呼んだのでなければ、同じく卒業したチェイサーもここにいるはずでは。その視線の意味を正確に理解しているジェンキンス侯爵は、

「チェイサーはね、ソフィア。結婚が決まったんだ」

と唐突に告げた。

「…け、っこん、ですか?」

自尊心と虚栄心の強い兄は、まだ婚約者が決まっていなかったはずだ。

「まさか、私のせいで、」

「ソフィア、謝ることなど何もなかったのだと言っただろう。チェイサーはお相手に望まれて結婚するんだよ。ただ、教育が必要だから今夜から別館で生活することになった。ソフィア、そういうわけでジェンキンス侯爵家を継ぐのはおまえだよ」

何が「そういうわけで」に繋がるのかまったくわからず、涙が引っ込んだソフィアは、

「お兄様は、どちらに…婿になる、ということなのですか?」

と尋ねた。教育が必要とはどういうことなのだろう。お相手の家柄が侯爵家以上ということなのだろうか。考えてみれば、侯爵家を継がない自分はオーウェンと父のおかげで領地経営について自然と学べたが、チェイサーが学んでいた様子はまったくなかった。どの家に入るにしても、まだまだ勉強が足りないということなのかもしれない。ソフィアはそう思い至り父の言葉を待ったが、チェイサーの婿入り先を結局知ることはできなかった。食事の準備ができたと自ら呼びに来た母に遮られ、結局うやむやになってしまったからだ。

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