【完結】あなたのことが好きでした

３３

「…はぁ？」

地の底を這うような低い声に、会場中がシンッ…、と静まり返る。

「…クリスティーナを、ジェンキンス侯爵令嬢が、嫉妬のあまり、虐めたと、」

「ソフィアを侮辱する発言は死に繋がるけど構わないかな？」

ニッコリと微笑まれたロック伯爵は、オーウェンの凶悪な微笑みに言葉を失くした。娘から聞いていたことと今起きている現実との齟齬がありすぎる。いったいどういうことなんだ、なぜ…。

「殿下、ジェンキンス侯爵が」

侍従に声を掛けられオーウェンが視線を向けた先にはソフィアとチェイサーの父、ジェンキンス侯爵が立っていた。

「殿下にご挨拶を申し上げます」

「こちらこそご足労いただいて申し訳なかった。…３年前に告げた通りになってしまった」

瞳を潤ませるオーウェンに柔らかい視線を向けたジェンキンス侯爵は、

「娘を、…守っていただいたのですから」

と言うと、

「殿下、我が家は慰謝料は不要です。ソフィアは被害者ですが、加害者の一人が我が家の愚息ですから」

加害者、と言われたチェイサーは、助けに来てくれたと思っていた父親の言葉に激昂した。

「父上、どういうことですか！？そもそもソフィアがオーウェン殿下の気持ちを繋ぎ止められず、クリスティーナに負けたことが原因だ、僕の責任じゃない！！」

チェイサーに視線を向けたジェンキンス侯爵のその瞳は、オーウェンに向けたものと同じものとは思えないほど凶悪な怒りで燃え盛っていた。その鋭さにビクリとカラダを震わせたチェイサーに近付いたジェンキンス侯爵は、容赦なくチェイサーを拳で殴り付けた。

「おまえにはもうなんの権利もない。侯爵位はソフィアに継がせる」

しかしチェイサーはジェンキンス侯爵の言葉を聞いていなかった。初めて受ける痛みに情けなくも失神してしまったからだ。

「…殿下、こやつめは我が家できちんと制裁いたします」

「…あいわかった。任せよう」

頷いたオーウェンは、ジェンキンス侯爵が会場に向けた視線に気付かなかった。