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父が呟いた言葉の意味があの時はわからなかったが、

(…今となればこうなることを、お父様はあの時にもう見越していたということなのね)

ソフィアはため息をつきながら窓の外にそっと視線を向けた。この3年、変わらずに繰り広げられる景色。オーウェン、ベンジャミンの間に座り、昼食を取るクリスティーナ。まるで全校生徒に見せつけるようなその光景は、ソフィアの心をズタズタに切り裂いた。幸い、「身分の区別をつけて」という建前通り、そしてソフィアを蔑ろにした上に、何が理由なのか、ソフィアにすべてで劣るクリスティーナを特別扱いするオーウェンへの憤りと、遠慮のないクリスティーナの態度への憤りを燻らせる学生が大部分で、ソフィアは疎まれるどころか周囲に同情的に見られていた。何よりソフィア自身が凛とした姿勢を崩さず、その矜持が周囲の胸を打った。

「…ソフィア様」

名前を呼ばれ振り返ると、今年パーシヴァルに合わせて入学してきたオランジェが眉を下げて立っていた。

「…ラン」

見知った顔を見て、思わず潤む瞳を慌てて誤魔化す。オランジェは見て見ぬフリをしてくれたようだ。

「…明日、卒業式ですね」

「…そうね」

この3年、オーウェンは宣言通りソフィアと距離を置き、クリスティーナを側に置き続けた。ソフィアも書かなかったが、オーウェンからも一切手紙の類いは届かず、誕生日も祝われることはなかった。

(…あの日々は、すべてウソだったのかしら)

ソフィアを好きだと、好きだから婚約者にしたいと言ってくれたオーウェンは、もう遠い幻だった。クリスティーナを常に隣に置き、頻繁にボディタッチをするクリスティーナを諌めることなく受け入れているその姿は、ソフィアの心を凍らせるのに十分だった。

(たぶん明日の卒業式で、私は婚約者から外されるのだろう)

驚くほどに交流の欠片もなかったこの3年の月日で、ソフィアは少しずつ諦めていった。いつかは、という願いや祈りは結局叶わずにこの日を迎えた。城での教育も学園に入ってからは行われていない。反対にクリスティーナはちょくちょく城を訪れていると聞く。よりによって、実の兄から。

チェイサーは、「オーウェンがいかにクリスティーナに夢中で彼女を大事にしているか」ということを事細かくソフィアに話す。それはそれは嬉しそうに。そして最後に必ずこう言うのだ。

「幼い頃、おまえを選んだのは殿下の気の迷いだったんだよ。殿下は真実の愛の相手を見つけたんだ」

と。
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