【完結】あなたのことが好きでした

蜜柑マル

文字の大きさ
上 下
25 / 57

25

しおりを挟む
入学式が無事に終わり式場から順番に生徒が出始める。成績順で決められたクラスは5クラスでオーウェン、ソフィア、チェイサー、ベンジャミンは同じ1組だった。1組から退場、と教師の誘導に従い歩き始めたオーウェンは、式場から出たところで前を歩いていた女子学生にぶつかった。突然歩みを止めてしまったから避けることもできずに、倒れてしまった女子学生に手を伸ばした。

「すまない。大丈夫かな」

「い、いえ、こちらこそ、申し訳ございません」

そう言って躊躇うことなくオーウェンの手を取った女子学生は、立ち上がりニッコリと微笑んだ。

「ありがとうございます、殿下」

立ち上がっても自分の手を離さず、それどころか距離を詰めようとする女子学生にオーウェンの表情が変わる。

「いきなり立ち止まるものではないよ。周囲に迷惑だ」

オーウェンの冷たい声に、しかし女子学生はまったく怯むことなく、

「申し訳ございません、少し、立ちくらみがしたものですから、…あっ」

とオーウェンにしなだれかかるように倒れた。

「…」

周囲に聞こえない程度に舌打ちをしたオーウェンは、

「ソフィア、ごめんね、乗り掛かった、…無理矢理乗せられた船だから、この生徒を保健室に連れていくから…」

するとベンジャミンが「兄上」と声をかけた。いつものウザ絡みか、こんな時に面倒な、と内心イライラしながら顔には出さずに

「なんだい」

と視線を向けると、そこには今まで見たことのない顔をしたベンジャミンが立っていた。

「…ベン?」

「兄上がわざわざ連れていく必要はないでしょう…学園では身分による区別をしないとは言え、そんなのは建前だと誰もが知っていることだ。…キミ、不敬だよ。いつまで第1王子にベタベタ触れているのかな…。婚約者の令嬢もいるというのに、あまりにも常識がなっていないんじゃないか?それともまさか、兄上の命を狙っての狼藉なのかい?」

ベンジャミンの冷たい言葉に、

「そ、んな、」

とフルフルとカラダを震わせるクリスティーナ。庇護欲をそそるようなその仕草に、しかしベンジャミンはまったく意識を向けず、傍らの侍従に「職員を呼べ」と指示し、クリスティーナの腕をグッ、と引っ張った。

「兄上から離れなさい」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

悪役令嬢を陥れようとして失敗したヒロインのその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
女伯グリゼルダはもう不惑の歳だが、過去に起こしたスキャンダルが原因で異性から敬遠され未だに独身だった。 二十二年前、グリゼルダは恋仲になった王太子と結託して彼の婚約者である公爵令嬢を陥れようとした。 けれど、返り討ちに遭ってしまい、結局恋人である王太子とも破局してしまったのだ。 ある時、グリゼルダは王都で開かれた仮面舞踏会に参加する。そこで、トラヴィスという年下の青年と知り合ったグリゼルダは彼と恋仲になった。そして、どんどん彼に夢中になっていく。 だが、ある日。トラヴィスは、突然グリゼルダの前から姿を消してしまう。グリゼルダはショックのあまり倒れてしまい、気づいた時には病院のベッドの上にいた。 グリゼルダは、心配そうに自分の顔を覗き込む執事にトラヴィスと連絡が取れなくなってしまったことを伝える。すると、執事は首を傾げた。 そして、困惑した様子でグリゼルダに尋ねたのだ。「トラヴィスって、一体誰ですか? そんな方、この世に存在しませんよね?」と──。

私達、政略結婚ですから。

恋愛
オルヒデーエは、来月ザイデルバスト王子との結婚を控えていた。しかし2年前に王宮に来て以来、王子とはろくに会わず話もしない。一方で1年前現れたレディ・トゥルペは、王子に指輪を贈られ、二人きりで会ってもいる。王子に自分達の関係性を問いただすも「政略結婚だが」と知らん顔、レディ・トゥルペも、オルヒデーエに向かって「政略結婚ですから」としたり顔。半年前からは、レディ・トゥルペに数々の嫌がらせをしたという噂まで流れていた。 それが罪状として読み上げられる中、オルヒデーエは王子との数少ない思い出を振り返り、その処断を待つ。

婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした

アルト
ファンタジー
今から七年前。 婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。 そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。 そして現在。 『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。 彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。

婚約破棄からの断罪カウンター

F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。 理論ではなく力押しのカウンター攻撃 効果は抜群か…? (すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)

実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います

榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。 なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね? 【ご報告】 書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m 発売日等は現在調整中です。

婚約破棄してくださって結構です

二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。 ※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています

むしゃくしゃしてやった、後悔はしていないがやばいとは思っている

F.conoe
ファンタジー
婚約者をないがしろにしていい気になってる王子の国とかまじ終わってるよねー

処理中です...