【完結】あなたのことが好きでした

蜜柑マル

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「そ、んなこと、一言も、僕は、」

「言外に感じ取れることをさも当たり前のように言うなんて、キミは本当に次期侯爵なのかな。そんな不用意なことを平気で口にして…今回のキミの発言はなかったことにしてあげる。聞かなかったことにする。ただ、次はない…二度目はないよ」

うっすらと嗤うオーウェンの瞳は冷たく、その視線でチェイサーを切り裂こうとするかのように鋭さを湛えている。その圧に、チェイサーは背筋が凍るような恐怖を感じたが、父親が言うこと同様にオーウェンが言うこともまったく理解できなかった。間違ったことなど言っていない。その凝り固まった自尊心は、周囲の忠告を受け入れる柔軟さを持ち合わせていなかった。

結局チェイサーは、「…申し訳ありませんでした」とふて腐れたように言って踵を返そうとしたが、「そうだ、キミ」とオーウェンに呼び止められ、やはり僕の必要性がわかったのかと満面の笑みで振り返ったが、オーウェンの表情はまったく変わっていなかった。

「僕はね。ソフィアがとても大切なんだ。婚約者だと正式に発表したことで、彼女を害そうなどとバカなことを考える輩が出てくると困るから、その日から彼女には王家の影をつけている。彼女に何か起きそうな時は躊躇なく相手を消して構わないと命じてあるんだよ。あのね、キミ。僕や侯爵がいないところでソフィアに何かさせようと企んでも無駄だからね。今日からキミは監視対象だ。兄だから、などという甘えた考えは捨てろ。ソフィアとキミの接触に関しては一言一句すべて報告させるから…たとえば僕に、自分を取り立てるように頼め、とか。そんなバカなこと、さっきの話を聞けば言わないとは思うけど、念のため…なんでも話してしまって、言葉の行間を読み取れないキミのために一応念を押しておくよ。…侯爵、もういいかな。ソフィアとの貴重な時間をこれ以上、…申し訳ないが、愚物に使いたくないんだよ」

「もちろんです。愚息は再度教育しなおします。申し訳ございませんでした」

また無言で頷いたオーウェンは、もうチェイサーを見なかった。自分の存在を否定されて、チェイサーの中にドロリとした何かが生まれた。

(僕はソフィアの兄なのに…!)
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