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「ソフィア・ジェンキンス侯爵令嬢。貴女との婚約を破棄する」

淡々と告げる第1王子、オーウェン・ハロウズの顔は無表情のままで、なんの感情も読み取ることができなかった。学園に入ってからの3年間、その中でも特にこの1年、オーウェンはソフィアを意識して遠ざけていた。入学した朝、「毎日一緒に登下校したい」とはにかむように言ったあの微笑みが忘れられない。オーウェンは入学式である女子学生とぶつかり、その日からソフィアと距離を取り始めた。

ずっと、覚悟はしてきた。婚約が解消されるだろうことを。お互いに支え合い、国を良くしていこうと目を輝かせ語り合ったことはもう遠い昔のことだ。

「…理由を、お聞かせ願えますか」

凜とした態度で毅然と顔を上げ、オーウェンを見つめるソフィアに、オーウェンもまた目を逸らすことなく答えた。

「…ふさわしくないからだ」

二人の視線が絡まり合い、そしてソフィアは頭を下げる。未来の王妃として教育を受け、その講師陣に「完璧なる淑女」と謂わしめた美しいカーテシーを披露した。その姿に、彼女に憧れその背中を追い続けた女子学生たちのみならず、その場を静かに見守る男子学生からも感嘆が洩れる。

ソフィアは必死に涙をこらえた。最後に聞く言葉が、「ふさわしくないから」とは。私がやってきたことは、私のただの独りよがり、だったのだ。努力も、苦しみも、ツラかった日々も、すべて何もかも無駄だった。

「かしこまりました」

そう答え、身を翻したソフィアの美しく気高い後ろ姿にその場の全員が釘付けになっていた。そう、婚約を破棄したオーウェンも。

彼の目に宿る色は果たしてなんの感情だったのか。正面から彼を見ていた者はおらず、残念ながらその色もすぐに褪せてしまった。なぜなら、

「オーウェン様」

傍らで期待に満ちた瞳を向ける女子学生…入学式でぶつかり、オーウェンがずっと側に置き続けたクリスティーナが、そっと彼の腕に指を絡ませたから。
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